エピローグ
54 エピローグ
ある長閑な春の日。
その日、ギルバートは意を決し、エリーに手を出した。
ギルバートの背中を押したのは、ケルと分離された事で、自分の心の中を一言一句、丸ごと把握される状態から、やっと解放された、という事実だった。
ケルには「ちょっと暫くその辺を飛んできてくれないか?」とお願いした。
ケルは全てを察して、何も言わず飛び立ったという。
その後、ギルバートは、物凄く覚悟を決め、もの凄く決心を固め、「飛行」の魔法なしで巨大な滝から飛び降りるくらいの勇気を振り絞って、頭の上に疑問符を浮かべているエリーの肩を両手でしっかりと固定し、ついに口付けを交わしたのだった。
エリーは驚きのあまり、反応が極限まで薄くなってしまっていたが、全精力を使い果たし、喜びと、興奮と、達成感と、その他のあらゆる肯定的な感情に支配されていたギルバートも、ほぼ抜け殻のような状態になっていた。
二人はその日一日、「心此処に在らず」の状態で過ごした。
それぞれが、お互いの想い人であり、結婚も果たし、少し前に共に成人を迎えていた二人にとって、「まだ早い」などという事はない筈だったが、精神的には早かったと言わざるを得なかった。
次の日からは、ちょっとよそよそしくなったり、手が触れただけでも飛び離れたり、いちいち真っ赤になったり、口ごもったりと、ちょっとだけ面倒な日々が続いたが、二人は次第に以前の距離感を取り戻していった。
そして、冒険者として毎日精を出し、「デカい鳥を連れた魔法使いの若夫婦」として、そこそこ有名になったり「イチャラブ冒険者」として嫉まれたりしたが、それは二人のあずかり知らぬ事だった。
半年以上、魔獣狩りを行い、様々なギルドに売却し続けたおかげで、二人はついに屋敷を購入する目標も達成した。
ギルバートが領主と友達になったことも大きく、「どうせ平民街の汚い廃お……ゲフンゲフンッ、……古い屋敷だ。安くしてあげなさい」とシャルロットの鶴の一声が発動し、想定より大幅にお安く購入することができたのだった。
二人は、自分達がとりあえず、自分達の力で居場所を確保し、そこそこの生活を始めることが出来たと実感した。
この生活を維持できると、それなりに自信を持って考えられるようになったギルバートとエリーは、数か月ぶりに、二人で実家を訪ねることにした。
まずは無難にフォルダー家を訪ねると、嫡男を失ったギルバートの両親は、意外にもそれほど落胆した様子もなく、「これでスンナリと爵位を返上できる」と言った。
「私が城勤めを引退するときに、爵位を返上しようと思っているよ」
ギルバートの父、カルバート・フォルダー男爵がそう言うと、隣で母エミリアも頷いた。
「いや、貴族年金も貰えるんだし、別に返上する必要はないんじゃない?」
ギルバートがそう言うと、二人は呆れたように目を丸くして、それから笑った。
「……お前、随分と変わったようだな?」
「と言うより、素が出せるようになったのかも?」
「そうか。まあ、いい事なんだろうな」
「そう思った方が気が楽だよ。父さん」
ギルバートがそう言うと、父カルバートは微笑んだ。
「まあ、伯爵様がそう言うなら、お言葉の通りにさせてもらうよ」
父カルバートは、ギルバートとエリーを門まで送り、最後にそんな皮肉を飛ばして、家に戻って行った。
そして次に、アローズ家を訪れると、おじさんはショックからか激務でも引き受けたのか、以前より少し痩せていたが、おじさん……クレイブ・アローズ男爵もエリーの母親であるセリアーナも、エリーの兄でアローズ家の跡取り息子であるクライドも、全員、二人を笑って出迎えてくれた。
「……お父様、お母様、お兄様、あの時はごめんなさい」
エリーは謝罪と共に、三人に頭を下げた。
「良いんだ、エリー。私が守ってやれないばかりに、とんだことになってしまった。逆に謝りたいとずっと思っていたよ。エリー、悪かったね」
「お父様!」
エリーがたまらず、父親の胸に飛び込み、二人は固く抱き合った。
たかだか数か月間とは言え、娘と反目したままの日々は、常々、エリーを猫可愛がりしていたおじさんにはつらい日々だっただろう。
「……おじさん、あの時は無礼な事を言って、すみませんでした」
許してもらえるとは思わないが、ギルバートも一応、心を込めて謝った。それで、エリーに対しても義理を果たす事になると思ったからだ。
「ギル、あの時は私もああ言うしか無かったんだ。エリーを守ってくれて、有難いと思っている」
「おじさん……」
アローズ男爵の意外な言葉を聞いて、ギルバートも驚いた。
うちの親と言い、エリーの親と言い、意外に懐が深いというか、度量が大きかったんだと実感させられる。
さすが大人、というべきだろうか。ただひたすら娘に激甘なだけの貧乏男爵、と言うわけでは無かったらしい。
……オレなら娘を盗んで行ったクソガキに、絶対、そんな言葉をかけたりしないと断言できる
「たまには、顔を見せに来なさいな」
「ギル、何かあったら伯爵様として僕の役に立ってくれよ」
エリーの母セリアーナと兄クライドがそんな事を言っている。
おばさんの言葉は採用。クライドは無視しよう、とギルバートは思った。
そんなこんなで久々の実家訪問を果たしたギルバートとエリーは、アローズ家を出ると手を繋ぎ、自分達の屋敷に「空を飛んで」帰って行った。
街の人達は、あちこちでそんな二人を目撃し、この街に住むと言う、五十年ぶりに世に出た魔法使いの若夫婦の噂を、口々に話しあったのだった。
第一部・完
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54話が、本編最終話です。55話目、人物・魔法石一覧を同時にアップします。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございました♪
第二部は現在、執筆中です。
最初は第一部で完結の予定だったんですが、書いているうちに書きたいエピソードが増え、
可能なら出来る限り入れたいと思うようになりました。
今現在の予定では、第二部か第三部まで書けたら書いて、完結させたいなと思っています。
第一部の経験から、書き上がるまで何度も足したり削ったりすると思うので
第二部も書き上げてから、毎日少しずつ投稿する形にしたいと思います。
出来る限り早めに投稿を再開したいと思いますので、
もし良かったら、続きを楽しみに待っていただけると嬉しいです♪
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2023/9/23 MIA
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