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その後の事

53 その後の事






 その後、ギルバートは怒りで活が入ったのか、身体の辛さが少しましになり、そこそこ動けるようになったので、鍛冶屋の老婦人宅にエリーを迎えに行った。

 

 おばさんに引き留められたが、今はやることが有るのでまた来る、と約束して速やかに辞去し、エリーを屋敷に連れ戻った。


 

 そのギルバートの様子に違和感を感じたらしいエリーに何事かと問われ、ギルバートは自分の体調不良とケルから聞いた話を伝えた。

 

 エリーは自分にも魔力回路を繋げば良いと言ったが、そもそも相性の問題がある上、魔力回線を二本同時に繋ぐのは無理だ、とケルが言ったのでガックリと肩を落とした。

 

 ギルバートは、エリーと共に生きる時間が減るのは困るが、ケルを見捨てるという選択肢も無いと告げ、エリーに、ケルを助けるために動く許しを求めた。

 

 エリーは少し逡巡したが、笑顔で首を縦に振ってくれた。

 

 ギルバートは嬉しくなって、エリーをギュッと抱きしめる。エリーも若干モジモジしながらギルバートの背中に腕を回して応えてくれた。

 


 暫く抱き合った後、ギルバートは即座に行動を開始した。

 

 エリーを鍛冶屋の老婦人に預けるほうが効率は良いが、全く安心できないとギルバートは思った。

 

 もちろん、それはおばさんが信用できないわけではなく、自分達の抱える問題のせいだ。

 

 現状、明らかな敵対者の一人を排除した、というだけで、他にも敵や危険がどれほどあるか知れない。最悪、おばさんを巻き込む可能性すらあるのだ。


 

 ギルバートはいつも通りエリーを連れて行くことにして、ケルの案内に従って空に飛び上がった。

 

 そして、以前、ギルバートがファンブルした矢が殺してしまった、ケルの元・使い魔の頭のいい鳥型魔獣を筆頭に、ケルが依り代にするのに適した魔獣を探してグレイヴァル領の空を飛び回った。


 

 探して、見つかると、捕まえる。ギルバートが「念動」の魔法の腕で魔獣を押さえ込んでいる間に、ケルが「調伏」の魔法を使って相性を調べる。

 

 そこまで相性が良くなくとも、調伏して従魔にし、依り代候補としてキープしておくことは出来るのだが、それは魔力回線をつなぐのと同義であり、ギルバートの負担をますます重くするだけなので、今は相性を確かめた後、止めを刺して解体した。

 

 せっかく魔獣を探し回るので、ついでに冒険者としての実績を稼ぐことにしたのだ。

 

 ついでと言うなら、「身体強化」の魔法も戦闘に積極的に使って、習熟に勤めた。強くて有能な魔法だし、いずれケルが身体を得てギルバートから独立すれば、「念動」の魔法が使えなくなるからだ。

 

 

 

 こうしてギルバートとエリーは、毎日のように飛び回り、魔獣を狩り、夕方には魔獣の素材を冒険者ギルドか、特別高く買い取ってくれそうなギルドに売却する生活を送った。

 

 ちなみに魔獣肉が高く売れるのは、美味い事ももちろんだが、滋養強壮にも良いとされており、にも拘らず入手が難しいからだった。

 

 冒険者が狩るのがまず大変であり、魔獣は大抵大きいため持って帰るのも大変なのだ。しかもケルが言うには死んで死体から魔力が抜けきると魔獣肉は足が速い(早く腐る)らしい。

 

 安定して魔獣を狩ってこれるという事で、ギルバートとエリーは着々と信頼と実績を積み重ねていった。

 

 

 日一日と秋は深まり、冬に近づいていく。朝晩のみならず、日中の捜索でも空を移動中の時は随分冷えるようになってきた。

 

 逆に二人の懐は次第に温かくなり、ギルバートとエリーは冬の寒さに備え、厚めの寝具と、冬用の普段着を何着か買い足した。冒険者としても装備が整ってゆき、エリーは弓の腕が格段に進歩していった。

 

 さらにエリーは時折、獲って来た獲物の一部を売らずに取って置き、料理をするようになった。

 

 そんな時はケルもいれて三人で鍛冶屋のおばさんの家にお邪魔して、エリーがおばさんに教えてもらいながら料理を作り、おばさんの旦那の鍛冶屋が帰ってくると、みんなでご飯を食べる。

 

 最初はおばさん達に迷惑かな?とも思ったが、獲りたての魔獣肉の美味さは、そんな心配が全くの杞憂だ、と断言できるほどだった。

 

 

 この頃、ギルバートはエリーに頼んで、魔法石の収納袋を作ってもらった。

 

 袋と言っても一つ一つは小さく、それが幾つも連なって帯状になった装身具で、首にかけて身体の前方に垂らし、腰辺りで固定する仕様だ。

 

 衣装の一番下に装備することで肌に密着し、魔力を伝えやすくしてもらった渾身の逸品だった。

 

 これのおかげで、魔法石を戦闘中に落とす心配が無くなった。

 

 ギルバートはエリーに毎日全力で感謝と愛の言葉を伝えながら、熱のこもったハグをした。

 

 エリーは何故か耐性が付くどころか、日に日に顔を赤くして逃げ回るようになり、ついに耐えられなくなったエリーのギブアップによって、この感謝祭りは終了した。

 

 


 ある時、エリーがケルに聞いた。

 

「……ケルは今、ギルに憑依してるわけではないんだよね?もし誰か人間に憑依したら、人間に戻れるの?」



 それは、なかなか怖い質問だった。ケルは大魔法使いと言われたほどの魔法使い。やってみれば出来そうな気がするから、なおさら怖い。

 

『御内儀殿よ、某はもう人間には戻らぬし、戻りたいとも思わぬ』


 ケルはそう答えたが、「出来るかどうか」の問いには答えなかった。つまり、そう言う事だろう。

 

「そっかー……」


 エリーは、本当にただ思いついたから聞いただけ、と言う感じだった。そこがエリーの凄いところでもあるのだが……正直、今はちょっとヒヤヒヤさせられた。

 

 もちろん、ケルに誰かを乗っ取る気が有るとは思わないが、ギルバートが同じことを聞いたら、疑ってるみたいで微妙な空気になりそうだったからだ。

 

 ……まあ、オレがそう考えている事も駄々洩れなわけだが……

 

 幸い、と言うべきか。ケルからはそれについて何の発言もなかった。

 

  

 

 三ヵ月も過ぎるころには季節はすっかり冬になっていた。

 

 ギルバートは魔獣素材の売却実績により、中級冒険者として再スタートすることになった。ついでにエリーも新人冒険者を脱し、下級冒険者に昇格した。

 

 ギルバートとエリーは捜索範囲を広げ、時には王都方面の山岳地帯や大森林地帯も捜索した。

 

 特に山岳地帯は雪が積もり、獣や魔獣の痕跡が見つけやすくなる。

 

 獣も魔獣も、冬眠するものもいるが、しないものも多く、他の季節より収獲が極端に減るということは無かった。

 

 ただ、移動中のみならず、屋外活動中の寒さがとにかく厳しいため、差し引きすれば他の季節より断然つらかった。

 

 そうして辛い冬を耐え忍び、更に三ヵ月ほど過ぎたころ、ついに二人は、大森林地帯で、以前、ケルが依り代にしていたのとそっくりの鳥型魔獣を捕らえる事に成功した。

 

 寒い日が減り、代わりに暖かい日が増えて、季節はすっかり春めいてきていた。

 

 以前の魔獣とは違い、羽毛の色は黒だったが、鳥としては大きくてガッシリとした体躯に、頭の奇抜な飾り羽が特徴の、何と言うか、まあまあ偉そうな格好をした魔獣だった。

 

 早速、ケルが「調伏」の魔法を使ってみると、やはり相性は抜群だったので、そのままこの鳥型魔獣をケルの従魔とし、依り代とすることになった。

 

 人間であった頃と違い、ケルは既に魂を魔法石に憑依させる事に成功しているので、あとはこの魔法石を従魔に食べてもらえば良いらしい。

 

 そうすることで魔法石は吸収され、食べた魔獣の魔石に継承されていくという。

 

 過去にはたくさんの魔法石を吸収して強大になった伝説級の魔獣も存在したと言うが、今となっては真実かどうかも定かではない。

 

 

 ついに、この時が来た、とギルバートは緊張したが、ケルは「あっ」と言うまもなく、あっさりと己の宿る魔法石を従魔に与えた。

 

 魔法石を与えられた鳥型魔獣が、森の地面に体を丸めて蹲り、時折、身体をビクンと震えさせるので、ギルバートもエリーも気が気ではなく、固唾をのんで結果を待った。

 

 そして、しばらくして、魔獣が鳥型の頭を起こすとギルバートとエリーの顔を順に見た。

 

『……成功したようだ。主殿、御内儀殿』


「ケルッ!」


「よかった♪」


 二人は両側から鳥型魔獣になったケルを抱きしめると、笑って泣いた。

 

 そして、ギルバートはふと気づいた。

 

「ケル、その魔獣に憑依できたのなら、もうオレとは魔力回線は繋がっていないんだよな?」


『左様』


「だったら……あー……もう、オレはケルの主とかじゃ、ない、……んじゃないか?」 

 

『……言われてみれば、そのようだな。……主殿よ』


 その、お互いの歯切れの悪い物言いに、ギルバートは苦笑しエリーも笑った。

 

「じゃあさ、ケルはわたしたちの相棒ってことで良いんじゃない?」  

 

 ギルバートが照れくさくて遠回しに告げようとしていた事を、エリーが代わりに言ってくれた。

 

 そして、ケルがもしかしたら、ギルバートとエリーから去るかもしれない、という可能性に、エリーは全く思い至っていないように見えた。

 

 ギルバートはそんなエリーがやっぱり大好きだと思った。

 

 そして、もうケルに心の隅々まで見られなくて済むことに満足し、ニンマリと口角を引き上げた。

 

 

「……ギル?」


「いや!変な事は考えてないから!」


「ほんとに~?」


「ほんと!」


 暫し二人でワチャワチャイチャイチャとした後、一息ついてギルバートが言った。

 

 

「……ケル、これからもオレ達と、一緒に居てくれるんだよな?」



 それでもギルバートは、ケジメとして聞いた。傍らでエリーがハッとしている。

 

 

『……無論だ、主殿よ』



 ケルは少しもったいぶって答えたが、ギルバートには鳥型の顔が笑っているようにも見えた。

 

 

「だったら……これからはオレ達のことを名前で呼んでくれないか?」


『……了解した。主殿、いや……』 



 ケルは妙に畏まって、翼を口元に添えると「コホンッ!」とでも言いたげな素振りをした。

 

 

『ギル、エリー、これからも宜しくお願い申し上げる』 




 こうして改めて、大魔法使いのケルが、ギルバートとエリザベスの仲間になったのであった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「エピローグ」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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