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ケルに聞く「体調」の話

52 ケルに聞く「体調」の話






 お昼頃、領主の城から自分達の屋敷に帰ってきたギルバートは、一度寝室のベッドに座り、一息ついた。

 

 そしてエリーを迎えに行かなければと考えたが、手にも足にも力が入らない事に気づいた。

 

 背中や腰も同様に力が入らず、シャンと背筋を伸ばして座っていられない感じだった

 

 ギルバートはベッドに横になり、力が戻るのを待った。


 

 ……巨大亀の時や、巨大猿の時と違って、魔力もそこまで減ってないのに


  

 ギルバートはあの戦闘の後、魔力の減り過ぎで体調が悪くなった時と、今の状態が似ていると思った。


 

『おそらく、主殿の推測は当たっているだろう』



 ギルバートが自分の体調不良について考えていると、ケルが静かに指摘した。 


 

「……というと、これは魔力の消耗に由来する体調不良ということか?」 

 

『……魔力と生命力は似て非なるものだが、どちらも枯渇すれば当然、死に至る。そして某は主殿の魔力と生命力を流用して存在している』 

 

「……つまり?」 

 

『つまり、主殿の不調は、某が主殿との間に魔力回路を繋いだ事が主たる原因だろう、と言う事だ』 


 

 それは、結構、重大な告白のような気がしたが、ギルバートの心は不思議なほど揺れなかった。

 

 あるいは、衝撃が大きすぎて麻痺しているのだろうか。


 

『……おそらくは、という推論を述べても?』


「うん、頼む」


 ギルバートは、何はともあれ聞くことにした。


 

『魔力回路を繋いだ当初、某は存在を失いかけていて気が回らなかったし、繋いだ後も主殿の様子が変わらないので気づかなかったのだが、基本的に、魔獣と人間とでは魔力、生命力ともに総量の桁が違うという事だ』 


 ギルバートは黙って先を促す。

 

『魔獣は魔力も、生命力も、どちらもとても大きいので、某が間借りしても些かも問題にならなかった。だが、主殿は人間だ。主殿が魔法を行使する時の魔力効率は有り得ないほどに優秀だが、それに対し、総魔力量や生命力は並みの人間と比しても大して多くはない』


「……それで?」


『某は今、魔法石に憑依しているが、魔法石は徐々に成長するものだ。このまま某の魔法石が成長すれば主殿の消耗はより大きくなるだろう。はっきり言えば某が主殿の寿命を削っているに等しい』



 それは、さすがに、衝撃的な事実だった。


 

 誰にとってもそうだが、一番大事なのは自分の命だ。もちろんギルバートもそうだった。

 

 そして今、ギルバートは、自分よりエリーの命の方が大切だとはっきり言える。

 

 だが、そもそもギルバートにとって、二人の命はどちらが欠けてもいけない、一蓮托生の、運命共同体。

 

 それをほんの僅かでも他人に削られるなど到底受け入れられるものではない。


 

 そう、思うのに何故か、怒りも拒絶感も湧いてこなかった。

 

 ケルの存在はギルバートの中で、思った以上に大きなものになっていたからだ。

 

 要するに、ギルバートはケルに友情を感じていたのだった。


 

「対処法は?」


『簡単だ、主殿。某との魔力回路を切断すればよい』


「……それだとケルは?」


『無論、しばらくすれば魔力を使い切り、存在を終えるだろう』 


 

 それは、想像通りの回答だった。そして、とても受け入れられない解答だった。


 

『何、もともと某の「人間としての生」は既に終わっているのだ。そして余生としての「この生」も十分に長い。某はここで終わっても悔いはない』 

 

 ……だとしても

 

 確かにケルは、自らの依り代であった元・使い魔の鳥型魔獣を、ギルバートのファンブルした矢で射殺されても、文句ひとつ言わないほど達観した奴だ。

 

 だが、さすがに達観し過ぎているのではないか。根拠はないが、ギルバートはそう感じていた。

 

「……それ以外の、別の対処法もあるんじゃないか?」 

 

 それはほぼ、確信に近い感覚だった。そして。

 

 

『……左様、無くはない』

 

 

 やはりあった。あるならそちらを先に言えばいいものを。

 

 ケルの態度は正々堂々、潔いと言える。自分が負担と判明した時点で包み隠さず報告し、自分の処遇を相手に委ねるなど、誰にでもできる事ではないだろう。

 

 だが同時に卑怯でもある。ケルのやりようはまるで、自殺だ。あるいは自分殺しをギルバートに強要するようなものだ。

 

 ギルバートは、別の解決法があることに少しホッとしたが、それはそれとして、だんだん腹が立ってきた。

 

『ふむ。左様なつもりなど無かったのだが。怒らせてしまったようだな、主殿』


「うん、結構……かなり腹が立ってるかもね」 

 

 どうせ隠しようもないので、ギルバートは正直に告げる。

 

「……それで、別の方法は?」 

 

 ギルバートは未だ怒りはふつふつと湧き上がっているが、とりあえず無視して先を聞くことにする。

 

『それもある意味簡単だ。ただ問題もある』 

 

「続けて」 

 

 ケルがもったいぶるのでギルバートがせかした。

 

『左様、新たな依り代に憑依しなおせば良い。……まあ「憑依しなおす」と言っても、今、某は正確には、主殿に「憑依」しているわけではないがな』



 なるほど、言われてみれば単純なことだった。 

 

「成る程、引っ越しか……で、問題は?」


『うむ、「憑依」の魔法の場合はそうでもないが、某の応用魔法「脱魂憑依」は、憑依する対象、依り代となる魔獣との相性が一定以上良くないと果たせないのだ。一時的に憑依しても依り代か、某か、いずれにせよ破綻する』


 

「相性は憑依前に判定できるのか?」


『無論、可能だ』


「じゃあ、要するにケルの好みの魔獣を見つけて、とっ捕まえて、相性を計ってみればいいんだな?」

 

『まあ、そうだが……見つかるまでどれ程かかるか分からぬし、その間、主殿の寿命を削り続けることになる。お勧めはできない』 


 ……なるほど、それで言わなかったという事か 

 

 ギルバートのイライラは頂点に達した。

 

「……ケル、一言いいか?」

 

『無論だ。主殿』




「……この…………大馬鹿野郎ッ!水臭いんだよっ!」 



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「その後の事」


読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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