ギルバートの気持ち
5 ギルバートの気持ち
エリーとの散策ついでの狩りから帰ると、ギルバートはすぐに狩ってきた二羽の鳥を処理した。
内臓の処理は早い方がいいのだが、森で処理して来なかったのは、穴を掘る道具を持って行かなかったからだ。
不要な部分をその辺に放置すると、その肉片や血の臭いが魔獣や獣を呼ぶこともあるので推奨されない。
さっさと一羽目の鳥の内臓を抜き羽を雑にむしる。
後から狩ったほうの二羽目は鳥型魔獣で、体内に魔石を持っていたので、それもさっさと回収し内臓を抜き、羽をむしった。
そこまでして手を洗うと、母親が台所のテーブルの上に取り置いてくれていた昼食を手早く口に放り込んだ。
「あぁ~~~もう!どうしてもっと、早くから動かなかったんだ!?」
「だが……動くと言ってもどう動けば良かった!?そもそも……!」
「だけど……!」
「いや、でも……!」
ギルバートは食後、自室にこもり、ベッドの上で静かにのたうち回った。
物心がついた時から、エリーという幼馴染の少女はギルバートの中で、「何故かいつも一緒に居る子」から「誰よりも大好きな娘でいつか結婚する娘」になった。
だが、もう少し成長すると、自分の家が貧乏貴族だとか、貴族の割には自分の容姿が「奇抜」であるとか、知りたくもない情報に否も応もなく晒された。
一方でエリーはと言えば、家が貧乏なのはギルバートと同じだが、容姿は貴族らしく、その辺の平民の子たちより遥かに 可愛らしく美しい。何なら上級貴族のご令嬢にだって全然負けてない……多分。
つまりエリーは結婚相手としての価値が高いのに、ギルバートにはエリーに釣り合うだけの価値がないのだ。
何故今まで、そんな簡単なことに気づかなかったのか。
その答えも簡単だ。ギルバートはそんな現実に気づきたくなかったのだ。見たくなかったのだ。
そして今日、見ないようにしてきた現実が突然やって来た。
エリーがあんな風に元気がなくなる程、現状に危機感を感じているのなら、もう、思っている以上に時間が無いのかもしれない。
……エリーと今のまま、ずっと近くで、毎日を変わらず過ごしていきたい……この先もずっと……
その願いは、このまま何もしなければ、確実に叶う事はない。
でも、じゃあ、どうすればいいと言うのか。何をすればエリーに釣り合う自分になれるのか。
その答えを見いだせないまま、思考は停止し、やがて初めに戻って悶々とした悩みに落ちる、堂々巡りに陥っていた。
まさにそんな時だった。
『……ん、……じん、……じどの……』
ギルバートはギョッとして、素早く上半身を起こし、部屋を見回した。
だが、入口の扉は閉まっていたし、窓の外から誰かが覗いている、という事もない。そもそもここは二階の一室だ。
入口の扉を開けてみたが、廊下にも誰もいなかった。
……確かに誰かの声が聞こえたと思ったが……?
だが、よくよく思い返してみても、誰の声だったか覚えがない。実際、知らない声だと感じたので飛び起きたのだが。
『……ゅじん、あるじどの……主殿?おお!やっと……繋がったようだな……危うく魔力が切れる……ところであった』
ところが、誰だか分からないその声は、消えるどころかどんどんはっきりと聞こえるようになってきた。
「……誰か居るのか?」
誰もいない部屋で、見えない誰かに話しかける自分……客観的にみてかなり怖い。
……考えすぎて、ちょっと疲れただけだ、そうに違いない
だが、現実は無情だった。
『……あー……申し訳ないが、幻の類ではないぞ、主殿よ。まずは落ち着いてこの現実を受け入れてほしいのだが、どうかね?』
……ダメだ。はっきりくっきり聞こえる。聞こえてしまっている。オレはもうダメらしい。
ギルバートは再びベッドに仰向けに倒れた。
ただでさえ良いところがない自分が、こんな幻聴持ちになってしまって、価値を上げるどころかダダ下がりも良いところだ。
『いやいや、落ち着きなさい、ご主人よ。主殿よ。其方の精神は正常だ。我声は幻聴ではない。ゆえに耳の異常も疑う必要はない。何も終わってなどおらんよ』
……幻聴が……頭で考えた事に返事をしてくる……
『……そんなに受け入れ難いかね?主殿よ。一旦、とりあえずそういうものだと受け入れて、我と言葉を交わしてみれば、大方の疑問は解決しようというものではないかね?ご主人よ、主殿よ』
……なるほど……一理ある、のか?……
ギルバートは幻聴の言う事を、とりあえず、一旦、受け入れてみることにした。
『では……』
************************************************
本日、5話目、ラストです。明日は4話更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。
読んでくれて、ありがとうございました♪
もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます