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ふて寝

47 ふて寝






 その後、ギルバートは些か気分を害していたので、ふて寝気味に床に就いた。

 

 エリーもギルバートが寝てしまえば、一人で起きていても仕方がないので、ランタンを消して、ベッドに横になり目を閉じた。


 

 やがて二人の深い眠りを示す寝息の音が聞こえ始める。

 

 闇の中、音と言えば二人の緩やかで静かな息遣いと、時折聞こえる鳥や犬の鳴き声くらいだった。

 

 そんな中、ギルバートとエリーが眠る古い屋敷の廊下を、ほんの僅かばかりの音すらもたてず、歩く人影があった。

 

 人影は三つ。台所の検索を皮切りに、人が隠れられる空間を丁寧に調べながら、やがて最奥にある寝室へとたどり着いた。

 

 手指を素早く動かして、お互いに合図を出し合って意思疎通を完了すると、一人はギルバート、もう一人はエリーの眠るベッドへと歩き出した。そして、最後の一人はそれを目視している。

 

 その時、ベッドに向って歩いていた二人が、突如、両手両足をピンと伸ばし、直立する。よく見れば、二人の足先が床に着いていないのが分かった。

 

 異変に気付いた三人目の人影が腰を低くして、何かの動きを見せようとした瞬間、両側で直立していた人影が猛スピードで飛来した。

 

「ドンッ!グシッ!」


「はぐっ!……ぅ!?」


 三つの人影は、今や自らの意思とは無関係に、まるで狭い箱の中に三人で無理やり入ったかの如く、ギュウギュウとお互いの全身を押し付けあっていた。 


 

 そこで、ようやくギルバートが目を開け、上体を起こした。

 

「……ん?何だ……誰だ?」


『主殿、誰かは分からぬが、賊だ。目視による確認が出来なかったので、現在、念動で押さえてある。起きたのなら重力視で押さえながら縄を打ってほしい』 

 

「えっ!?賊?……よ、よし、んっ!」

 

 寝ぼけてぼんやりしていたギルバートの頭が急速に覚醒する。そしてとりあえず、ケルの要望通り、「重力視」の魔法を使って三人いるらしい人影を圧する。

 

「……ッ!?」


「グッ……!?」


「ウッ……!?」 

 

 横からぐいぐい押さえつけられていた賊達は、今度は上を含めた全方位からギュウギュウと圧迫されて苦し気に息を漏らした。

 

「……よし、これで。縄は……鞄に入れた気がする」


『それは某が取ろう。良いか?主殿』 

 

「……頼む」


 ギルバートが目を離せないのでケルが念動で縄を取る。

 

 その縄で一人、二人と、手足をきつく拘束していると背後から声がした。

 

「動くなっ!女の命が惜しければ、三人を解放しろ!」

 

 ……ケルッ!


『すまん、今!』 

 

 ギルバートは驚いて、一瞬、ビクッと体を震わせたがそのまま動きを止めた。

 

 そして数瞬後、背後で「ギャッ!?」という声がした。

 

『……すまん、主殿、もう大丈夫だ。此奴、かなりの手練れの隠形使いであった。目視なしでは気づけなんだ。某は主殿の視界を共有して視覚情報を得ておるのでな』 

 

 ケルの申し訳なさそうな声がそう告げたので、ギルバートは賊の拘束作業を再開し、完遂した。


 

 それから振り向くと、さすがのエリーも恐怖で顔を引きつらせ、ベッドの上で固まっており、エリーを人質に取ろうとしたもう一人の賊は壁際に浮かんでピクピクしていた。

 

 ……ケル、これで最後だと思うか?

 

『完全には言い切れぬが、おそらくは』

 

 ギルバートはようやく大きく息を吐き出して、ケルの念動で壁際に浮かんでいる賊を引き継いで、縄で厳重に拘束した。

 

 そして「念動」の魔法の腕を装着し、四人の賊をひとまず部屋の外に放り出した。


 

「エリー、大丈夫?」


「……ッ!」

 

 エリーはコクコクと頷いて見せたが、まだ身体が小刻みに震えている。

 

 ギルバートはエリーの元へ駆け寄って、ギュッと抱きしめる。エリーからも抱きしめられ、二人は束の間、そうやって無事を喜び合った。

 

 

 暫くしてエリーが、ギルバートの背中をトントンと叩く。まだ終わっていないという事だろう。

 

 ギルバートはエリーを離して頷くと、寝室を出て四人の賊の元へ向う。

 

 四人の賊はジタバタと暴れて縄の拘束を脱しようとしていたが、ギルバートが来ると大人しくなった。

 

 否、ギルバートが「重力視」の魔法を発動して床に押さえつけたのでピクリとも動かなくなった。

 

「……結論から言う。君たちがオレとエリーを襲った事、特にエリーを襲った事と人質に取ろうとした事、オレは絶対に許さない」


「はぉ……ッ!?」


「ググッ……!?」


「フグッ……!?」


「ぐむむっ……!?」


 ギルバートが「重力視」の魔法が圧力を強めてゆく。あるいは無意識に強まってゆく。


「……今からご領主様の元で、目的や誰の命令であるかを、洗いざらいしゃべってもらいたい。従う気があるなら、その後、ご領主様に生きたまま引き渡す」

 

「従えない者は、このまま圧し潰す。大声を出しても捻り潰す。二度とは言わない。では一人ずつ答えを聞かせてもらおう」 

 

 

 

 指一本、ピクリとも動けない賊達は、顔面蒼白になり、このたった数瞬の間に、全身からは真夏のように汗が拭きだしていたのであった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「ご領主様の城」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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