ギルド巡り
45 ギルド巡り
冒険者ギルドの門をくぐったギルバートとエリーは、まずは行列の出来ている「受注カウンター」を避け、「登録その他」というカウンターを訪ねた。
こちらは全く人が並んでおらず、一発で係の人にたどり着く。
たどり着いたカウンターで二人は問題なく冒険者登録を済ませた。
簡単に説明を受けたところ、登録した冒険者は基本的に「新人冒険者」からキャリアをスタートさせるという。
実績ノルマや功績ボーナス、素行評価等を査定されて「下級冒険者」「中級冒険者」「上級冒険者」と位階が上がって行き、「特別級冒険者」が最高位となるらしい。
ただ、通常、位階を上げるには年単位を要するらしく、狙って上げるようなものではないと言うが、それだけに位階が上がるとギルドから依頼される難度、報酬、待遇もガラリと変わるらしく、冒険者にとってはやはり誉となるようだった。
ちなみに、ギルバートは魔法使いなので、新人冒険者としてある程度活動し、経験を積んだ段階で、活動内容を考慮して中級冒険者か上級冒険者から再スタートになると言われた。何事にも例外はあるという事だろう。
説明を聞いている間、近くのカウンターに並んでいた冒険者たちから盛大な舌打ちが聞こえた気がするが気にしない。
そして、いざ!とばかりに気合をいれて、ギルバートとエリーは依頼掲示板を一通りザッと確認し、あまりの報酬の低さに愕然とした。
新人冒険者が受けられる依頼票に提示されている報酬額は、いったい一日にいくつ受ければまともな暮らしができるというのか、と言いたくなる程の低額報酬だった。
だが、やはり何だかんだと言っても二人は世間知らずな貴族出身の子供であり、思い違いをしていた。
二人は「自分達は貧乏貴族であり、まぎれもない貧乏人だ」と思っていたのだが、世間一般の認識では、ギルバートとエリーは腐っても貴族出身であり、しかも現在では伯爵家の肩書を持つただの上級貴族だった。
ゆえに平民出身の者がほぼ100%を占める冒険者ギルドの、更に最下層である新人冒険者が得る報酬で、二人が考える「まともな暮らし」が出来る訳など無かったのであった。
肩を落とすギルバートとエリーに『新人冒険者の期間が終わるまでは魔獣素材の売却一本に絞ればよい』とケルが助言をする。
魔獣素材の売却もギルドでの実績になるらしい。
そして更に、売却先は冒険者ギルドだけではないという。
『商業ギルド、薬師ギルド、鍛冶師ギルド、調理師ギルド、細工工芸士ギルド等々、魔獣素材を欲しがるギルドはたくさんある。そしてギルド加盟者でなくとも普通に売買可能だ』
「ケル、くわしい!」
『御内儀殿、そう言った仕組みは五十年前とそう変わらぬ』
成る程、である。ギルバートは冒険者と言う職業に絶望しかけていたが、気を取り直した。
「じゃあ、ケル、高く売れそうで、比較的簡単に狩れる魔獣を教えてくれ。早速、狩りに行こう!」
「ギル、その前に商業ギルドで貸家と売家の値段とか聞いて行かない?狩りの参考に」
「なるほど、そうしよう!」
エリーの提案で、ギルバートとエリーはその後、商業ギルドから始めて、適当にケルが名前を挙げたギルドを回って、高額買取素材等の情報を集めた。
さすがに売家は一朝一夕でどうにかなるような値段ではなかったが、貸家であれば、適当な魔獣一匹の肉と素材をあちこちに売り捌く事で、二~三ヵ月分の家賃にはなりそうだと分かった。
早速、ギルバートとエリーは、集めた情報の中から、この辺りでも狩れそうな魔獣の情報をケルに聞き、空に飛び上がった。
グングンと空に舞い上がっていく二人を見て、道行く人々が歓声を上げる。
ギルバートはエリーと顔を見合わせて、笑った。まるで人気一座の役者のようだと思ったのだ。
エリーも思うところがあるのか、恥ずかしそうに笑っている。
「人前で魔法を使っちゃって、良かったの?」
エリーが顔に心配、と言うより疑問の色を浮かべて聞いた。
「ごめん、今のはちょっと軽率だったかも。だけど、既にかなり知られちゃってるし、完璧に隠すのは無理だと思うからね。あえて自分からは宣伝しないけど、特に隠しもしない、くらいの姿勢で行こうかなと」
「そんなに知られてるのかな?」
「ギルドでも、どこでも、大抵チラチラと見られてたよ。特にエリーが」
ギルバートは一瞬、舌打ちをしそうな表情になった。一方でエリーは恥ずかしそうな顔をしている。
「うわーっ……何か、照れるね。有名人みたい」
「みたい、じゃなくてエリーは結構、有名だよ?極力、一人にならない様に気を付けて。こんなに可愛いから誘拐されちゃうよ?」
「ギルったら!わたしなんて、普通だよ~♪」
「エリーが普通なら街の人達はみんな不細工ってことになっちゃうよ?」
「ギル、さすがに心配しすぎよ?」
「エリーはちょっと呑気すぎるよ!」
「だって……!」
「でも……!」
……などという、どうでもいい会話でイチャついたり軽く言い合ったりしながら、ギルバートとエリーは飛んだ。
二人は、東の森から山岳地帯、海岸、さらに西の巨木の森へと狩場を回り、一日がかりでケル推奨の魔獣を探した。
ケルという案内役付きであっても、魔獣探しは百発百中とはいかなかったが、それでも夕方前までに二匹の魔獣を仕留め、内臓の処理だけを行った。
グレイヴァルに戻ると、ギルバートとエリーは冒険者ギルドに魔獣を丸ごと持ち込んだ。
今回は冒険者としての実績とギルドへの貢献を優先して全素材をギルドに売却し、前回の二倍近い売却益を得た。
二人はその足で商業ギルドへ赴き、一軒の廃屋敷を格安で借りた。
そこは、以前から、半チンピラの彼らが拠点としてたむろしていた廃屋敷で、王都に行く前にギルバートとエリーが一晩泊まらせてもらった物件だった。
この物件は長期間、所有者も、その係累も不明として、領主の所有するところとなっていたのだが、状態も場所柄も悪く、浮浪者が出入りするというので誰も欲しがらず、領主もわざわざ手を入れなかったため、格安賃貸物件となっていた。
ギルバートとエリーは早速、廃屋へと向かい、半チンピラの彼たちを誠心誠意「説得」した。
半チンピラの彼たちは「説得」を「快く」受け入れ、速やかに退去してくれたので、ギルバートとエリーは晴れてこの廃屋敷を夫婦の初の拠点としたのであった。
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本日、2話目、ラストです。
楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。
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次回予定「ケルに聞く「魔法具」の話」
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