グレイヴァル
44 グレイヴァル
目が覚めるとギルバートは、エリーに声をかけて軽く肩を揺すり、客間を出た。
たっぷり寝たので魔力は漲っていたし、疲れは全く残っていない。
「おばさん、おはようございます。昨日は泊めてくれて有難うございました」
台所に行くと朝の空気の中、鍛冶屋の老婦人が朝食を作っていたので、ギルバートは朝の挨拶をした。
「おはようさん、良く寝たねぇ。丸一日寝てたよ!」
老婦人は軽く笑って作業を続けている。ギルバートは手伝った方が良いだろうか、と思い、そう言ってみたが、さっさと追い払われた。
まあ、台所仕事など手伝ったこともないので実際のところ、ギルバートは追い払われてホッとした。
ならばと言う事で、ギルバートは庭を借りて日課の朝稽古に励むことにした。
やがて鍛冶屋の老人も起きてきて、さっさと朝ごはんを食べて出て行った。
しばらくすると今度はエリーが眠そうな顔で起きてきたので、老婦人と三人で朝ごはんを食べることになった。
ギルバートは自分の身体の上を手のひらでなぞりながら「集塵」の魔法を発動する。
すると汗や訓練の汚れが薄皮をはぐように剥がれるので、クルクルと丸めて地面に捨てようとしたが、何となく気が咎めたので握ったまま、便所に行って処分することにした。
平民街の最下層の借家であっても、便所の便器の下には深い穴が掘ってあり、汚濁を吸収、分解出来る粘菌生物が放されている。
ギルバートはウネウネと蠢いている粘菌生物を一瞥すると、丸めた汚れの塊を投下処理した。
朝の気温が大分下がってきているが、身体を動かした後なので、まだまだ汗が滲んでくる。
だが一度、「集塵」の魔法で汚れを落としたギルバートの肌はつるっつるの艶っつやに輝いていた。
手拭いで汗を拭きながら台所に戻り、ギルバートはエリーと老婦人と三人で朝ごはんを食べた。
エリーはつるっつるのお肌をしているギルバートを見て、何やら微妙に葛藤しているようすだった。
「それで、アンタたち、これからどうするんだい?」
朝食後、老婦人が二人にそう聞いて来たので、ギルバートは用意した言葉を返した。
「今日は、冒険者ギルドに行ってみようと思ってます」
「それはいいけど、泊るところはあるのかい?」
「当てはないけど、とりあえずは冒険者で稼いで、エリーと二人、暮らしていけるかどうか、試してみるつもりですよ」
「そうかい。まあ、気を付けるんだよ?」
老婦人は心配顔ではあったが、それ以上は何も言う事はなかった。
「有難うございます。……もし、ダメそうなら次の方針が決まるまで、また甘えてもいいですか?」
「もちろん、いいさ♪いつでもおいで!」
老婦人はそう言うと満面の笑みでギルバートとエリーを送り出した。
あんなにおばさんが気にかけてくれるのは何故なのか、ギルバートは不思議だったが、おばさんがエリーを見る目が優しかったので、エリーが童顔で、メチャクチャ可愛いからに違いないと結論付けた。
『……おそらくは、その対象には主殿も入っていると思われる。かの老夫婦はかなり安定した身の上だ。旦那の作業場とは別に庭付きで客間もある大きな家を持っているくらいだからな。寄る辺のない子供を見ると世話の一つも焼きたくなるのだろう』
「いや、オレもう結婚してるんですけど?」
『人の主観だ。主殿にどうこうできるものではあるまい』
ギルバートは若干、納得出来なかったがそれ以上突っ込むのはやめた。
坂を下り、平民街の裏道を抜け、目抜き通りに入ると、朝でも人通りは多かった。
既に街門も開いているようで、商人の荷車が動き始めている。
田舎領地とは言え、領都は人であふれていた。その人の数は体感的にバスーラよりも多いと感じる。
ギルバートは大分、意識がしゃっきりとしてきたらしいエリーを引き連れて冒険者ギルドを目指していた。
「お金も大分減ってきたし、そろそろ何か仕事をしてお金を稼がないと。おばさんが泊めてくれて、ホントに助かったよ」
「おばさん、引き留めたそうな顔だったけど、ギルはあんまり頼りたくないんでしょ?」
そう言うエリーは引き留められても良いと感じているようだ。
「まあせっかく独立したんだし、二人でやってみたいよ、オレは」
「あら、わたしだってそれで良いわよ?」
「じゃあ、さっそく冒険者ギルドで登録して、何か仕事を探そうよ♪」
「いいわ、がんばりましょ!」
ギルバートとエリーは手を繋いで、朝の目抜き通りを闊歩していたので、割と目立っていたが、二人に向けられる視線は微笑ましいものばかりだった。
それから暫し、目抜き通りを見物しながら歩き続け、二人は冒険者ギルドにたどり着いたのであった。
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本日、1話目。2話更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。
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次回予定「ギルド巡り」
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