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ケルに聞く「そう言えば」の話

43 ケルに聞く「そう言えば」の話






 バスーラに立ち寄る理由など無かったギルバートとエリーは、夜のバスーラ上空をさっさと通過した。

 

 夜の空はさすがに寒く、「飛行」の魔法でも寒さを阻害しきれなかった。

 

 二人は時々平原に着地して、体を動かしたり、抱きしめあって温めあったりしながらグレイヴァルを目指して飛び続けた。

 

 そのため往路よりかなりゆっくりの進行になり、グレイヴァルに着いたのは翌早朝だった。


 

 街門はまだどこも閉まっていたが、ギルバートは気にせずに上空から街に舞い戻り、着地した。

 

 ギルバートが着地点に選んだのは平民街の裏通り。出発前に泊めてもらった半チンピラの彼のグループの拠点近くだった。

 


「やっぱり!帰ってきたんだね!」


 着地して二人が周りを見回していると、聞き覚えのある声が飛んできた。

 

 振り返ってみると、鍛冶屋の老婦人だった。

 

「おばさん、今戻りました」


「おばさん、ただいま♪」


「早かったねぇ♪王都に行くって言ってたから、まだまだかかると思ってたよ」


「それなのに、良く分かりましたね。オレ達が帰ってきたこと」


「あれから何となく、空を見る癖がついちまってね」


 鍛冶屋の老婦人は、そう言って笑った。

 

「まあ、立ち話もなんだから、うちにおいでよ!」


「わーい♪」


「ありがとうございます。実は期待してました」


「そうかい?嬉しいよ。いつでも来ていいからね♪」




 三人は、そんな会話をしながら鍛冶屋の自宅に向って路地を下って行ったのだった。 

 

 

 鍛冶屋の老婦人が泊って行っても良いと言うその言葉に甘え、ギルバートとエリーは客間で眠らせてもらう事にした。

 

 昨晩の死力を尽くした戦いの後、一晩中、一睡もせずに寒空を飛んできたので身体は冷え切って、疲れていたのだ。 

 

 

 

 ギルバートが次に起きると、良い匂いがしていた。

 

 どうやら昼ごはんか、夜ごはんの時間のようだ。まさか次の日の朝と言う事はあるまい。

 

 窓を見ると、差し込む光がない。ということは夕方の遅い時間なのだろう。

 

 変な時差が付いてしまったようだ。不便なので近々、矯正しないといけない。

 

 ギルバートは欠伸をしつつ、ケルに話しかける。

 

 ……ケル、起きてる?

 

『某は現状では睡眠を必要としないぞ。主殿』

 

 ……ああ、そう言えばそうだったな

 

 ……で、ちょっと聞きたい事があるんだけど

 

『もちろん何でも聞いてくれ、主殿』 

 

 ケルは答えてくれる気が有る、と感じたギルバートは単刀直入に聞くことにした。

 

 ……ケルは今、自分の意思で魔法を使えるのか? 


『某は今、肉体を持たない。ゆえに自らの存在を維持するための魔力すら、主殿から拝借している身。主殿の許しなくそれ以上の魔力は使えない』


 ……許しが有れば?

 

『可能だ』


 ズバリ、聞きたかった答えが返ってきた。

 

 そう考えないと、巨大猿との闘いを生き抜けた理由が分からないからだ。

 

 ……でも、オレ、あの時許可なんて出してない気がするけど?

 

『主殿はあの時、生命の危機を感じていた。それは某の存在の危機とも連結し、非常事態における管理権限の優先順位をあやふやなものにしたのだ。そして、某がそれに付け込み、優先順位に割り込んだ。緊急時ゆえ、容赦願いたい』


 ……なるほど。さすが大魔法使いと言う事か。


 ギルバートは妙に感心してしまった。

 

 ……つまり、普通なら「管理権限」とやらの優先順位はオレの方が上?

 

『左様』


 ……ケルがオレに知られず魔法を使う事は?

 

『主殿の睡眠時や酩酊時、気を失っている時などなら可能だな』


 ……ケルが魔法を勝手に使ったとして、オレはそれを止められるの?

 

『もちろん可能だ。それが管理権限の優先順位という事だ』 

 

 ……なるほど。それで巨大猿はどうやって倒したの?

 

『何と言う事もない。「念動」で頭を捻り潰しただけだ、主殿よ』


 ケルはしれっと、恐ろしい事を言ったが、もちろんギルバートもそうだとは思っていた。

 

 現場を見たし、それは想像がついていた。ただ、確認しただけだ。

 

 ギルバートでは「念動」の魔法の腕でそんな芸当は出来ない、気がする。多分。

  

 要するに、ケルはギルバートより遥かに魔法に長けているという事だ。

 

 王国史に名を残し、大魔法使いと呼ばれたほどの存在だ。考えてみれば当たり前のことかもしれない。


 ……了解。大体わかったよ

 

『それは何よりだ。主殿』


 ギルバートがすっきりした所で、エリーがもぞもぞと動き出す。

 

「……ギルゥ?……何か、良い、匂いぃ……スー……スー……」

 

 

 

 エリーはまだ寝るようだ。ギルバートも時差ボケを直すべく、もう一度眠ることにして、再びベッドに横になるのだった。

 


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本日、3話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「グレイヴァル」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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