帰還3
42 帰還3
ギルバートが意識を取り戻すと、傍らに座っているエリーが泣いていた。
「……エ……リー……」
「ギル!」
ギルバートの意識が戻るや否や、エリーは倒れているギルバートに飛びついた。
上体を起こそうとしていたギルバートは、そのままエリーを受け止めながら押し倒された。
二人は森の地面の上で、そのまましばらく抱き合ったままでいた。
ギルバートは自分が気を失っていたにもかかわらず、自分とエリーの周りに魔法の盾が設置されている事に気づいた。
……ケル……か?
『……主殿よ、緊急事態だ。今は眠って魔力を戻すがよかろう』
その言葉に従い、ギルバートは再び意識を手放した。
次に目が覚めると、やはり気を失う前と同じ森の中だったが、既に日が暮れ始めており、辺りは相当暗くなってきていた。
「エリー」
「ギル。やっと起きた」
ギルバートはエリーを抱きしめて無事を確認すると、起き上がった。
多少、まだ手足が震えるものの、力は入ると分かり、ギルバートはホッとした。
「エリー、さっさと森を出よう。でも、その前にせっかくこのために来たんだから、魔法石をとらないと」
エリーが頷いて、視線を横に振った。
ギルバートがその視線を追うと、頭のない巨大猿の死体が転がっていた。
どうやら気を失っていた間に、獣に荒らされたりはしなかったようだ。ケルが守ってくれたのだろうか。
『いや、主殿。某は何もしていない。大猿の奴があれほど暴れたせいだろう。周囲の獣も魔獣も一斉に逃げ散ってしまったな』
「……なるほど」
『だが、そろそろまた集まりだすだろう。大猿の脅威が消えれば、森の生物にとっては、極上肉という単なる餌が落ちているに過ぎんからな』
「た、大変だわ!早く逃げましょう!」
エリーも目に見えて焦りだした。
ギルバートは腰に下げた解体用のナイフを抜くと、魔法の腕を使ってサッサと巨大猿の首元から胸を開き、魔法石を獲りだした。
そして、魔法石をいつものように服の端っこで拭うのではなく、「集塵」の魔法で汚れを剥がした。
まだ固まってない「血液」という汚れも、「集塵」の魔法にかかれば良く分からない固形の物体になる。
ギルバートは汚れの塊を森にポイッと投げ捨てた。汚れの内容からしてきっと肥料的な何かになるだろう。いや多分。
さんざん苦労して手に入れた魔法石がどんな色かは、残念ながら分からなかった。森の闇がますます深くなってきたからだ。
「それじゃ、飛ぶよエリー」
ギルバートは魔法石をズボンのポケットに仕舞ってエリーの手を取った。
……いい加減、魔法石を入れる袋か何かを用意するべきか
ギルバートはそんな事を思いながら、暗くなった森の中を、慎重に枝をよけながら浮上していく。
そして、森の上空に出ると、月と星が明るい宵の口の空が広がっていた。
ギルバートが今手に入れた魔法石を取り出して月にかざすと、どうやら紫っぽい色をした透明の魔法石に見えた。
「ほら、エリー、紫だね」
「渋いね♪」
待望の魔法石をギルバートは感慨深く見つめた。
危うく命を失いかけたが、この魔法石が有ると無いとでは全く話が違って来る。それ程有用な魔法石だ。
「確か身体強化の魔法だっけ?」
「そうそう。これが有れば、攻撃から逃亡まで何でも強力になる……まあ、どの程度やれるかは試してみないと分からないけどね」
「あまり、無茶な使い方はしないでね?」
「もちろん。安全第一でいくよ」
ギルバートが魔法石をズボンのポケットに仕舞ってから、エリーを見ると、エリーもギルバートを見ていた。
「……怖かったね」
「うん……死ぬかと思ったし……エリーを失うかと思ったよ……反省してる」
「わたしも、もう少し、強くなりたいな……」
「まあ……でも、焦らず、ゆっくり行こうよ……二人でさ」
「そうね。二人でね」
それからギルバートとエリーは、グレイヴァルに向って、ゆっくりと空を進み始めた。
そんな二人のシルエットは、まるで一羽の巨大な鳥型魔獣のようだった。
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本日、2話目です。
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次回予定「ケルに聞く『そう言えば』の話」
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