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帰還

40 帰還






 油断、していたのだと思う。

 

 二人で初めて王都まで出てきて、目的を果たして満足し、安心していた。

 

 色んなものを見て、色んなものを食べて、笑いあい、未来を語り合ったりして浮かれていた。

 

 魔法の強さと便利さに酔いしれ、まるで自分が自分の力で強くなったと思い上がっていたのだ。

 

 

「エリーーーーーーーーーーーーッ!」



 ギルバートが絶叫したその瞬間、巨大な魔獣の腕が、弓を持って立ちすくむエリーに向って、高速で繰り出されたのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 その少し前、エリザベスはギルの後にくっ付いて、ギルが持ってきていた弓を片手に森の中を歩いていた。

 

 バスーラと王都を隔てる山岳地帯の、王都側の麓には、広大な森が広がっていたが、往路では、ギルとエリザベスは「飛行」の魔法であっという間に上空を飛び越えて来た。

 

 そして、復路を行く今、その大森林で目標の魔獣を探していた。

 

 最初、ギルとエリザベスは「飛行」の魔法で飛びながら、森の上空から探してみたが、森の木々が邪魔で姿を捉えることが難しく、捜索は難航した。

 

 仕方なく、二人は魔獣の立てる声を頼りに森に降下し、しばらく徒歩で探し、また森の上空に飛び上がって魔獣の声を探す、という事を繰り返していた。

 

 そして、街道からは相当に離れた森の奥地でその魔獣を発見した。正確には魔獣「達」を。

 

 彼らは人間のように手足が二本ずつで、顔以外の全身に長い体毛を蓄え、脚は短く腕は非常に長く、凶悪な牙を持つ、巨大な猿のような魔獣だった。

 

 その力強く長い腕で、森の巨木の枝にぶら下がりながら、魔獣たちはギルとエリザベスを睥睨していた。

 

 その目に映るのは、殺意なのか食欲なのか、いずれにせよ身の毛もよだつ眼光だった。

 

 即座にギルが短剣を抜き、戦闘態勢へ移行すると、同時にギルの身体で魔力の強い波動が起こり、森の巨木にぶら下がっていた魔獣たちが次々に地面に落下し始めた。

 

 これは、ギルの「重力視」の魔法だろうとエリザベスは判別できた。

 

 エリザベスは受けたことはないが、ギルは地面に押さえつけるような魔法だと言っていた。 

 

「エリー、押さえてるから弓でしとめて!」


「了解!」


 ギルの指示を受け、エリザベスは弓を引き絞り、一匹、また一匹と魔獣を射抜いていく。

 

 魔獣たちはギルの魔法の圧力に抗っているので、矢で止めを刺せた時、抗している力が緩み、その瞬間、より一層ギュッと縮む。 

 

 それでエリザベスは止めを刺せたか判断が可能で、次々と魔獣に止めを刺していった。

 

 ギルが近づけるように群れの端っこのほうから仕留めて行ったが、矢が無くなった時点でまだ数匹の魔獣が生きていた。

 

 ギルが短剣で止めを刺そうと、一歩足を踏み出した、その時だった。

 

 群れの中央にいた、一際大きな魔獣が憤怒の表情で身を起こした。

 

 魔獣達の体長は人間の平均的成人男性と変わらないように見えたが、その一匹は、同様の比較で、頭二つか三つ以上は大きかった。

 

 エリザベスは慌ててギルを見て、また魔獣たちを見た。だが、ギルは魔法を止めていない様に見える。

 

 にも拘らず、巨大猿はギルの魔法の拘束から逃れようとしていた。

 

 そしてその時、間の悪い事に魔獣たちの後方から、更に同種の魔獣達の増援が現れた。

 

「ギャアアアアッ!」


「ギャギャギャッ!」


「ギィイイイッ!」


 奇声を上げながら我先に、木の枝を伝って突進してくる魔獣達が、倒れた魔獣達を跳び越えた瞬間、地面に転がった。

 

 そして彼らも仲間の魔獣と同じく、体を捩るように痙攣し始めた。


 ギルバートの魔法が、即座に魔獣の増援をも捕らえたようだ。

 

 だが、一際大きな巨大猿は、今や完全に立ち上がり、ギルとエリザベスを睨みながらじわじわと二人を回り込むように動き始めた。

 

「ま……まずい!エリー、アイツがオレの視界から外れたら完全に魔法の効力が切れてしまう!自由に動けるようになる!」


「で、でも矢がもう無いわ!」


「だっ……ダメだ!もうっ……!」


 そう話している間も、巨大猿は移動を続けていた。 



「エリーーーーーーーーーーーーッ!」



 ギルが絶叫した、その瞬間、エリザベスは、ギルバートのほぼ背面に回り込んだ巨大猿が、自分に向って飛び掛かってくるのを見て硬直した。



「バチィイイイッ!!」



 だが、巨大猿の腕は見えない壁に阻まれて、鋭い破裂音を立てる。

 

 ギルが魔法の盾を発動したらしい。ほんの一瞬でも遅ければ、エリザベスは今、既に生きていなかっただろう。



「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」



 エリザベスは恐怖のあまり声も出ず、呼吸は一瞬で酷く乱れていた。



「ま……間に合った……!」



 そして、そう絞り出すように言ったギルは、まだエリザベスに背中を向けたままだ。

 

 なぜなら、ギルが巨大猿に対応するために、振り返って視線を逸らせると、「重力視」の魔法で押さえつけている他の魔獣が自由になってしまうからだ。

 

 ギルが振り向きざま、エリザベスを拾って即座に空に逃れることは出来るだろうか。

 

 ここは、この素早い魔獣達の庭であり、ギルとエリザベスは木々をよけながら飛び上がる必要がある。

 

 単純なスピード勝負でも勝てる保証はない。そして、捕まったら終わりなのだ。

 

 エリザベスが考えている間にも、魔法の盾に弾かれ、一瞬退いていた巨大猿が、またエリザベスに向って腕を伸ばしては弾かれる、を繰り返している。

 

 二人と魔獣達は完全に膠着状態に入ってしまった。

 

 そして攻め手を欠くギルとエリザベスは、この膠着状態を自力で打開することが出来ない。




 エリザベスは唐突に、自分達の人生が詰んでしまったのだと痛感したのだった。



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本日、3話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「帰還2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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