ダンジョンは結局
4 ダンジョンは結局
結局、ダンジョンは見つからなかった。もともと確たる情報も手掛かりも何もなかったので、ギルバートには特に落胆もなかった。
エリーと森を散策するのはいつだって楽しい。ダンジョン探しなんて、エリーと森に来る言い訳みたいなものだ。
ただ今日は、いきなりエリーから悪い情報を聞いてしまったので、いつものように心躍る時間とはならなかった。
それは、予想されていた事態ではあったが、いざ来てみるとあまりにも早く、困惑しかなかった。
……エリーが、誰かと結婚する……
言葉の意味は分かるが理解できない。いや、理解したくない。エリーが自分以外の誰かと結婚する未来など、ギルバートにとってはあり得なかった。
「さすがエリー。オレより断然、腕がいい」
ダンジョンを探す間、同時に手ごろに狩れる獲物も探しつつ歩き、食いでのある鳥型魔獣を、ギルバートは一羽、エリーは二羽、弓で仕留めた。
「わたしは剣は使えないし弓くらいはね」
そう言って笑うエリーは、やっぱり少し元気がない。
やはりまだ結婚したくないという事か。もしくは、打診してきている相手が意に染まない相手という事だろうか。
悩んでいるエリーには悪いが、エリーが縁談に乗り気ではなさそうな事に、ギルバートは胸をホッと撫でおろす。
ただ、エリーから見て親父さんが乗り気に見えるというなら、打診して来ている相手はきっと金持ちなんだろう。
格上の貴族家という可能性は低いと思う。だって付き合いとか面倒そうだし。となると、家格は同程度。
それで同じ年頃なら親父さんも焦って飛びつくかもしれないが、その場合、そもそも自分達みたいな貧乏木っ端貴族に打診は来ないだろう。
とすればかなり年上の相手、下手をすれば後添えに望まれているのかもしれない。はやい話がお妾さん、良くて第二、第三夫人。
そんな話に、自分の父親が乗り気になっているように見えるなら、それは憂鬱にもなるだろう。
なんとかエリーを励ましたいが、どう言えば元気づけられるか全く分からず、結局ギルバートの元気もなくなり口数が減ってしまう。
なぜならギルバートもエリーの悩みを理解してしまったからだった。
ギルバートは幸い、まだ親から婚約の打診があったとは聞かされていないが、下手をすれば自分にも年配の裕福な女性からの打診があるかもしれないのだ。
ギルバートはお世辞にも美形とは言えないが、一応貴族ではあるので、平民からすれば手っ取り早く爵位を買うようなもので、需要が無いわけではない。
……うちの親父も金に目が眩みそうだし……はぁ
そんなわけで、せっかくのエリーとの森歩きにもかかわらず、ギルバートは散策中ずっと、乱れる心を抑え付け、なるべく平静を装っていたのだった。
昼になり、そろそろ帰ろうということで二人は街の方へ戻り始める。
帰途、ギルバートが鹿を発見し、即座に弓を向けて矢を射ったが、慌てたせいか大ファンブル。
矢は狙った獲物から大きく外れて茂みへ飛び込んで消え、当然、狙った鹿はその場で待ってくれたりはせずに瞬時に走り去った。
「ギャッ!?」
ところが、矢が消えた茂みの奥から短い悲鳴が聞こえた。
ギルバートは、「まさか、人に当たってしまったのか!?」と、ゾッとした。
だが、急いで二人で駆けつけてみると、そこでは珍妙な鳥?もしくは鳥型魔獣?が、矢が刺さった状態で死んでいた。
その鳥は、鳥としては大型でギルバートの腕でひと抱え程もあった。頭には色とりどりの原色が奇抜な飾り羽、身体は白い羽毛に覆われていてたくましく、実に食いでがありそうだった。
最終的にギルバートも二羽の獲物を得て、散策ついでの狩りとしては十分な成果だったが、二人は家に帰り着くまで終始、言葉少なだった。
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本日、4話目です。念のため