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王城を辞す

39 王城を辞す






 国王の面前での魔法の披露と、ギルバートの叙爵の話は用意されていたかのように、トントン拍子で進んだ。

 

 ギルバートは要求に従い、国王の前で「飛行」の魔法石を使い、広くて天井の高い華美な応接室を、ふわりふわりと飛んで見せた。

 

 国王は手を叩いて喜び、子供のような笑顔を見せたが、周囲の護衛達は魔法を警戒して、蛇蝎を睨むが如く、ギルバートの一挙手一投足から目を離さない。

 

 特にギルバートが少しでも国王の方へ動くと、護衛達の殺気が一気に膨れ上がるため、ギルバートは非常に緊張させられた。

 

 だが緊張を強いられた魔法披露の後、ギルバートはケルの助言通りの要求をし、願いは驚くほどあっさり叶えられた。

 

 一つ、伯爵位を賜る代わりに、有事の際は魔法を使って貢献するよう努力する。

 

 一つ、自分は上級貴族の貴族家当主としての教育を受けていないので、領地は要らない。その代わりに貴族としての義務は最小限に。 

 

 一つ、お披露目は辞退する。代わりにご祝儀等も辞退する。 




 ギルバートは魔法使いとして伯爵位を賜った証に、王家の紋章の入った短剣を授かった。

 

 そして、紋章官から家名と紋章を決めるように言われ、迷わず「グレイマギウス」という名で登録した。

 

 これについても、ケルから家名が必要になると前もって助言があり、ギルバートとエリーで相談して予め決めていた家名だった。

 

 この家名は「グレイヴァル」出身の「マギウス(魔法使い)」である、という事を意味しており、エリーがとても気に入ったのが決定の決め手になった。

 

 そんなわけで、二人は最終的にギルバート・フォルダー・グレイマギウス伯爵と、エリザベス・アローズ・グレイマギウス伯爵夫人として貴族名鑑に登録されたのだった。

 

 一方、紋章は、紋章官の助けを借り、杖と弓と植物の蔦を組み合わせた絵柄に決定。

 

 杖は魔法使い、弓はギルバートとエリーの、ある意味、生業に近いもので、植物は狩場の森からとったものだった。

 

 本来、魔法使いと言えば魔法石なのだが、杖のほうが魔法使いのイメージとして強く、紋章のデザインとしても馴染むので杖が採用された。

 

 こうして、ギルバートとエリーは急造の家名と紋章を登録したが、意外にも二人にとって、すんなりと馴染む名前となったのであった。

  

 


 その後、ギルバートとエリーは、やんわりと慰留を受けたが、きっぱりと断り、王城を後にした。




「……いやぁ~っ、終わったねぇ~!」


「つっ……っかれたぁ~~~!」


 ギルバートとエリーは、ガチガチに凝り固まった体の各部を解しながら、呻いた。


 いつの間にか、外は黄昏時だった。

 

 ギルバートはこんなにも時間が経っていたのかと驚きつつ、これからの予定を考える。

 

 正直、もう、必ずしもグレイヴァルに戻る必要は無いのだが、王都は物価が高い。考えればバスーラもやや高かった。

 

 領都とは言え、グレイヴァルは田舎の領地で物価も安めだし、何よりギルバートもエリーも土地鑑がある。

 

 王家お墨付きの伯爵位があれば、ごたごたは何とかなるだろうし、魔法が有れば冒険者でも何でもやって生きていけるだろう。

 

 エリーと手を繋いで宿に戻る道を歩きながら、ギルバートは自分の考えをまとめた。あとはエリーの希望次第だった。

 

 宿につくと自分達が借りた部屋に入り、ギルバートはエリーに希望を聞いた。エリーの答えは明快だった。

 

「グレイヴァルに帰りたい」


「オレも」

 

 自分もそう思っていたので、ギルバートも即答し、二人は観光などはせずに、翌日、グレイヴァルに向けて出発することにした。

 

 結局ギルバートもエリーも、田舎でこそ心安らぐ田舎者だったのだ。早くも里心が付いたとも言える。

 

 ただ、ギルバートは念のため、帰り際にケルが選んだ最後の魔法石、第四目標の「身体強化」を獲りに行くことを提案し、エリーに了承された。

 

「まあ、爵位の上ではご領主様と同格なわけだし、いくらモータル子爵と言えども余計な手出しをして来たりはしないと思うんだけどね」 


「だよね~、グレイマギウス伯爵様っ♪」


 エリーが悪戯っぽく笑いながらギルバートを揶揄い、ベッドに飛び込んだ。

 

「ぐえっ!?」


 そして固いマット越しのベッドで、お腹を痛打して呻き声をあげる。


「エリーだって、グレイマギウス伯爵夫人なんだけど?ちょっとお転婆が過ぎませんかね?」


 ギルバートは微妙に赤くした顔でやり返す。


 やり返しながら、手を差し伸べるとエリーが捕まって身を起こした。

 

「痛たたっ……治療の魔法とか、身を清める専用の魔法とか、あったら欲しいね」


 エリーが肘やお腹をさすりながら、真面目な顔で言うので、ギルバートも考えてみた。

 

「それはあるならぜひ欲しいけど、オレは火の魔法とか水の魔法とか便利なやつも欲しいな」


「あー、それもいいねぇ♪」


 エリーも笑って頷く。


「じゃあ、そのうち魔法石を探して世界中を旅してまわるとか!?」


 そしてエリーが突拍子もない事を言い出した。だがそれは、案外、ギルバートにも心が躍る提案に思えた。


「……じゃあ、夫婦で冒険者でもやる?」


「いいね♪」


「いや、冗談なんだけど。大変だよ?冒険者なんて」


「ギルの魔法があれば、イケると思うよ!」


 ギルバートは苦笑いを浮かべたが、エリーは存外、本気の表情をしている。

 

 ……まあ、若いうちに大きく稼いで家を買って、子供が出来たらエリーは引退して、そんなのもいいかもしれない


 エリーの顔を見ているとギルバートもつい、そんな妄想をしてしまう。

 

 ……いや、もう結婚もしたんだし、実現可能な未来じゃないか?

 

 ギルバートの想像の中では、二人の間にエリーにそっくりの小さな子供がいて、三人共、剣を握って笑っている。

 

 微妙に物騒な絵面だったが、ギルバートは大変満足して、ニヤニヤと細目の吊り目の目尻を限界まで下げた。


「ギル、変な事考えてない?」


「えっ、別に。考えてないよ?」


「うそ」


「いや。ほんとに」


 突然の尋問を受け、ギルバートは顔を作り損ね、ニヤケ顔をゆがませ、真っ赤になった。


 わずかの攻防の末、ギルバートは考えていた内容を白状させられたが、それによりエリーの顔も火を噴く事になった。

 

 

 

 決着は、エリーの自爆による痛み分けであった。



************************************************

本日、2話目です。


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次回予定「帰還」


読んでくれて、ありがとうございました♪

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