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王都へ3

38 王都へ3






 ギルバートは宰相と聞いて、一瞬硬直したが、必死に頭を再起動した。

 

 一国の宰相に任じられるほどの大貴族が、自分で言うのもなんだが、どこの馬の骨とも知れない若造に、護衛をたった一人しか連れずに自ら応対するなど、豪胆にもほどがある。

 

 逆に言えば、それ程、自らの安全について自信がある。あるいは、ギルバートとエリーを全く脅威と認識していないという事か。

 

 いずれにせよ、ギルバートとエリーにとって待ち時間が短いのは良い事だったので、そのまま話を進めることにした。

 

 用件は?と聞かれたが当然、ギルバート達の用件は既に告げてあるので伝わっているはずだ。

 

 だが、もう一度、本人の口から聞きたいということだろうか。ギルバートはそういうものかと疑問を飲み込みつつ口を開いた。

 

「オレはグレイヴァルから来たフォルダー男爵の長子、ギルバート・フォルダーです。彼女はオレの妻で、同じくグレイヴァル出身のアローズ男爵令嬢のエリザベスです。二人とも既に実家から勘当され、籍は抜かれていると思います。こちらに伺ったのは魔法使いとして、国王陛下から叙爵を賜りたいと思ったからです」 

 

 ギルバートが一気に告げるが、ビスマルクス宰相は特に驚く事もなく、軽く頷くのみだった。


「なるほど、君たちの用件は分かりました。報告通りですね。それで、どちらが魔法使いに成られたので?」


「オレです。既にグレイヴァル領で魔法使いの証明と登録は済ませてあります」


「成る程成る程、これですね」


 そう言ってビスマルクス宰相は、手元の紙に視線を落とす。

 

 ギルバートが魔法使いの証明と登録を行ってからまだ丸二日。にも拘わらず既に宰相まで報告が上がっているのは驚きだった。

 

 この分だと、自ら王都に来なくとも、王都の方から招聘なり要請なりがあったかもしれないな、とギルバートは思った。


「……ギルバート君は、魔法使いについてどの程度ご存じかな?」


「ほとんど何も知りません。五十年前の大魔法使いの昔話を知っている程度でしょうか」


「成る程、基礎知識はお持ちであると」


 ビスマルクス宰相との面談は、淡々と続いた。


「では、魔法石についてお聞きしたいのですが……」


「何でしょう?」


「登録されているのは「飛行」の魔法のみのようですが手に入れたのは「飛行」の魔法石だけですか?」


「申し訳ありませんが、それはお答えできません」


 ギルバートは迷いなく答えた。これは事前にケルの助言を受けていた。

 

 魔法使いの魔法に関しての秘密は尊重される、というのは暗黙の了解らしく、答える必要はないと聞いていたからだ。


「成る程、成る程。では、もし今後、ギルバート君が別の魔法石を手に入れた場合、我国にお売り頂くことは可能ですか?」


「すみません、それもお答えできません」


 ギルバートとしてはスッパリ断りたかったが、断る事で、「これからも別の魔法石を探す意思がある」「ということは既に複数の魔法石を所持している可能性が高い」と判断される恐れがあるらしい。

 

 返答を濁したら濁したで、勘繰られそうだとギルバートは思ったが、結局はケルの助言に従った。

 

「ちなみにギルバート君は、魔法具というものについてはご存じかな?」 


 するとビスマルクス宰相が質問の方向性を変えてきた。

 

 この質問についてギルバートは、ほぼ何も知らなかったので逆に楽に答えることが出来た。

 

「名前だけは知ってます。うちは貧乏なので見たこともありませんが、たしか大魔法使いが生きていたころに開発された物ですよね?魔法石以外の道具を使って魔法が再現出来るものだと聞いています」 


「そうですね。ただ、再現と言ってもごく一部の機能をごく小規模で、という但し書きが付きますけどね」

 

 その後もギルバートは、ビスマルクス宰相からいくつかの質問を受け、ケルの助言に従って応答していった。

 

「成る程、結構です。ではこれから国王陛下にもご臨席を賜りますので、軽く魔法を披露していただいた後、ご希望の叙爵についてご相談いたしましょう。それでよろしいですか?」

 

「はい」 


 ギルバートの返答を受けて、ビスマルクス宰相は席を立ち、一旦退室した。


 そして、わずかな時間の後、彼は国王と共に再び応接室を訪れた。

 

 ゼクストフィール王国の国王ルクスファウスト・ゼクストフィールは壮年と言って良い年頃だったが、黄金の髪に黄金の瞳を持つ、引き締まった身体をした美丈夫だった。

 

 元々美しい者が多い高位貴族や王族が婚姻を繰り返した結果、生まれた美の結晶と言っても過言ではなかった。


 ギルバートとエリーは慌てて立ち上がると、壁際に下がって臣下の礼をとった。


「ああ、良い良い。其方達、楽にせよ」


 国王は鷹揚に構えたまま、先ほどまでビスマルクス宰相が座っていたソファーにゆっくりと腰を下ろした。

 

 ビスマルクス宰相は今度は座らず、国王の傍らに立つ。その周囲には護衛が数人配置され、国王の和やかな表情とは裏腹に、応接室内は物々しい雰囲気に満たされた。

 

 楽にしろと言われて、即座に姿勢を崩すほど、ギルバートもエリーも、脳みそがお花畑ではなかったので、礼をとったままの姿勢で命令を待った。

 

「……では、ギルバート君、君の魔法を見せていただけるだろうか?」 

 

 

 

 満を持して、ビスマルクス宰相が言葉を発すると、その場の全員の視線がギルバートに集まったのであった。



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本日、1話目。3話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「王城を辞す」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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