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バスーラ2

35 バスーラ2






 翌朝、宿で朝食を摂ったギルバートとエリーは、宿を引き払い早朝の街に出た。

 

 どこかで昼食用に何か食べ物を買い、バスーラを出る予定だ。

 

 バスーラを出ると、王都までは直線の山越え街道と、山岳地帯を大きく迂回する森沿いの街道がある。

 

 ギルバートとエリーにとっては関係ない話だが、一応、安全度優先なら迂回路、速度優先なら直進路と言う事になる。

 

 ただ、直進路の山越えを選んでも、劇的に日程の短縮になるわけではなく、かといって迂回路を選んでも、そこまで安全という訳でもなかった。

 

 それでも、多く選ばれているのは森沿いを迂回する街道だった。

 

 二人は、旅程の大半を飛行するため、人が少ない直進路、山越えで行こうという事で相談がまとまった。




「……いっ!おい、そこの女!」


 その時、遠くから男の乱暴な声が聞こえた。

 

 ギルバートとエリーが何事かと、声のする方へ振り返ると、不自然に人波が割れて道が出来てゆく。


 早朝とは言え、バスーラの街の目抜き通りは既に活気と人波であふれていたが、今や声の主と二人の間に立ちふさがる者は誰もいなかった。


 ギルバートが素早く周囲に目をやると、街の者達はギルバート達と声の主を見比べて、ひそひそと囁き合い、人によってはギルバート達二人を気の毒そうな顔で見ている者もあった。


 ギルバートが一歩、前に出てエリーを自らの後ろに庇うと、声の主の男は二人の前まで来て止まった。

 

 だがその距離の詰め方は不躾で、既にお互いの拳が届くほど近かった。

 

 さらに男の後ろには似たようなチンピラ風の男が二人つき従っている。


「……男のガキに用はない。さっさと失せろ!」


 後ろの二人がニヤつく前で、手前の男がギルバートを睨みながら、追い払うように手をひらひらさせた。


 その間にギルバートは「結界」の魔法石に魔力を注ぎ、エリーの前後を囲う様に二枚の半球形の魔法の盾を成型した。


 二種類の魔法の同時使用より、同じ魔法の同時使用のほうが魔力的負担がかなり低い事に気づく。

 

 ……こんなクズ共でも、何かの役には立つってことか

 

 ギルバートは妙に感心すると、目の前のチンピラに向って声をかける。

 

 


「オレ達もチンピラに用はない。さっさと消えるなら一度だけ許してやる」




 ☆




 シーモは己の耳を疑った。

 

 目の前のガキは、この俺様に何を言いやがったのか。どちらが格上であるかなど、一目でわかると言うのに。

 

 寄りによって、この俺様に上からモノを言いやがった。


「オイ、シーモ、こいつ完全にアンタを舐めてるぜ」


「こういう勘違いしたガキには教育が必要だぜ、そうだろ?」


 手下どもが後ろから五月蠅くせっついて来る。

 

 もちろんそうだ。イヤ、教育?そんな、ちょっと小突いてやる、とかそんな程度では済まされるはずもない。

 

 ……そうだ、一旦、この二人を攫って、男の方で拷問の練習をしよう

 

 ……子爵を継げば、そんな小技も必要になるかもしれない

 

 ……ついでに女の方も大人しくなるかもしれん。ゴミ掃除のついでに一石三鳥ってやつだ


 シーモはチラリと女を見た。

 

 確かにあの女だ。今は自分の婚約者だと聞いたが、これはどういうことなのか。


 どう見てもこの男は従者と言う感じではない。

 

「……よし、その二人を連れてゆく。お前ら!」


「おう!」


「へへっ、馬鹿な奴だ」


 シーモは手下に命じながら男に視線を戻す。

 

 人の婚約者に手を出したのだ。楽に死ねるとは思っていまい。

 

 シーモは残忍な喜びに内心、舌なめずりをした。




「バチィッ!」


「っ!?」


「なっ!?」


 手下の手が女に向かって伸び、あと腕一本分という所まで来た時、突如、手下の手が後方に弾き飛ばされ、つられて身体もバランスを崩してひっくり返った。


 目の前でそれを目撃した女は、自分の身体を抱きしめるようにして竦んでいる。

 

 シーモが手下、女の順に視線を動かし、男のガキを見失った事に気づいた瞬間、顎に強烈な衝撃を食らって仰向けに転がっていた。


 顎と全身の痛みに耐えてやっと上半身を起こすと、手下が二人とも殴り倒されたところだった。

 

 強烈な殺意が沸き上がり、シーモは地面を蹴って立ち上がると、男のガキに向って駆け寄りながら抜剣、そのまま顔めがけて斬りつけた。

 

 だが、なぜかシーモの剣は目の前でくるくると回って血をまき散らしながら地面に落ちた。シーモの手首から先も一緒に。


 見れば、男のガキの手にも抜かれた短剣があった。

 

「きゃあああああああぁっ!?」

 

「だ、誰か、衛兵を呼んで来い!」


「刃傷沙汰だ!」


「人が斬られたぞ!」 


 その悲鳴を皮切りに、辺りは騒然となった。 




「……次にエリーの近くでお前を見かけたら、殺す。二言はない」


 男のガキは、騒然とする周囲をよそに、そんな捨て台詞を吐き捨てると、女を連れて去っていく。

 

 二人が進むだけ、人波が割れていく。そしてやがて見えなくなった。

 

 シーモはハッとして、右手をついて起き上がろうとしたが、彼の右手は地面につくこともなく、シーモの身体を支えることもなかった。

 

 シーモの視界がグルンと周り、再度、地面に転がった。

 

 

 

 そしてシーモは、気を失った。



************************************************

本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


************************************************

次回予定「王都へ」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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