バスーラ
34 バスーラ
宿はいくつか回って、中程度のお値段の、そこそこ清潔そうなところを選んだ。
個室でお湯が使えて、鍵が壊れておらず部屋の中もまあまあ綺麗にしてあり、ベッドも気持ちよさそうだった。
その上、朝食も付くというので、値段の割にかなり良いところを見つけたと、ギルバートとエリーは部屋に鞄を置いてホクホク顔で街に出たのだった。
その後、エリーの先導に引き回され、二人でかなりの数の屋台を回り、スパイシーな薄切り肉で芋や野菜を巻いてある肉巻き料理と辛そうなスープ、甘酸っぱそうな果物を買って宿に帰った。
美味しくて、二人には珍しい昼食をおしゃべりしながら楽しく食べると、ギルバートは魔法の研究を始めた。
「何の魔法を使うの?」
「「結界」の魔法。魔法の盾を作る魔法だよ。エリーにも山で試してもらったやつ」
「ああ、あれ。でもちゃんと魔法の盾、出来てたんじゃないの?」
「うん。だけど、あのモグラの魔獣が使ったときは、魔法の盾に当たったものが弾け飛んでたんだよ。だけどオレが使ったときは短剣がピタッと止まったでしょ?」
「うーん、そういえば?」
そうなのだ。アレはアレでいいのだが、弾くパターンも使えそうなので覚えたいのだ。
「で、どうするの?」
「これ」
「何?これ、小石?」
ギルバートは帰ってくるときに、ものすごく小さい小石を拾ってきたのだ。
「今から魔法の盾を出すから、横から小石を落としてみてくれる?正面に立っちゃだめだよ?」
「了解。いくよー?」
「まってまって!」
ギルバートは慌てて「結界」の魔法石に魔力を注ぐ。注ぎながら「相手の攻撃」を攻撃するイメージで魔法の盾を作る。
ケル曰く、普通、「結界」の魔法を使うときのイメージは「守る」「防ぐ」だ。ゆえに、魔法の盾は攻撃をピタッと止める。相手の攻撃の勢いを削ぐものになる。
だが、例えば噛みついて来た獣の牙を逆に折る硬い金属、のような「攻め」のイメージで「結界」の魔法を使えば。
「いいよ」
「ほいっ!」
エリーが小石を魔法の盾に投げ落とす。すると、小石はあるところまで落ちた時、ピシッ!と僅かに音を立て、勢いよく跳ね飛ばされて、壁に当たって床を転がった。
「おぉ!」
「成功かな」
反射する魔法の盾も習得完了だ。止める魔法の盾と使い分ければ戦略も広がりそうだ。
ギルバートはニヤリと笑った。
「ギル、黒い笑顔……」
「えっ!?」
ギルバートは慌てて顔をこする。無意識に変な顔をしていたらしい。
「いいよ。カッコイイから♪」
「そ……そう?」
エリーがちょっと照れながら褒めてくれるので、ギルバートも照れてしまう。
しばらくの間、二人で見つめあって、照れ照れしながら、お互いを褒めあうギルバートとエリーであった。
☆
モータル家の嫡子であるシーモ・モータルは、バスーラの街にいる、「友人」と言う名の手下の住処を順に回っていた。
部屋に居ろと言われたが、バスーラから出なければ大した違いなどない。用が有れば父親の方から使いをよこせばいいのだ。
そう考えながら、自分の連絡先を知らせていない事を、シーモは全く考慮していなかった。
バスーラの街は子供の頃からシーモの庭のようなものだったが、父親の権力を笠に着て勝手放題のシーモにとって、街の人々はよそよそしく慇懃無礼な者達だった。
シーモはある程度の年齢になると、同じように街の人々からあぶれた者達を束ねて手下とし、ある意味本職の無法者達よりも幅を利かせていた。
「そういや聞いたか?シーモ」
「なにを?」
「メルトの店に、新しくイイ女が入ったらしいぜ!」
「へぇ?じゃあちょっと挨拶がてら行ってみるか?」
シーモはニヤニヤと口角を引き上げる。
「あれ?でもたしかあの店、シーモは出入り禁止になったんじゃないのか?」
別の手下が何かを思い出そうとするように首を傾げた。
「ああ。メルトの野郎一押しとかいう女の態度が悪いんで教育してやったら、怪我をしたとかで、メルトの野郎、何やら頻りに文句を言ってやがったな」
「じゃあ、むりじゃねぇの?」
手下が残念そうに眉根を寄せる。
「当然、メルトの野郎も生意気な口をきかなくなるまで教育してやったがな」
「ってことは、イケるのかよ。さすがシーモ!」
「行きたい時は行くに決まってるだろう。だいたい俺は、金を払った上に店の人間の教育までしてやってるんだ。感謝くらいするべきだろう?それをメルトの奴、ふざけた野郎だぜ。なぁ?」
シーモは手下共と一緒に大笑いした。
「それじゃあ、久々に皆でメルトの野郎のご機嫌でも伺いに行くか!」
「おぉ~っ!」
「一生ついて行くぜ!」
そうして、シーモと手下達は腰を上げ、バスーラの歓楽街を目指して歩き出したのだった。
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本日、1話目。2話更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。
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次回予定「バスーラ2」
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