出発
33 出発
朝のうちに、ギルバートとエリーは領都グレイヴァルの北街門を通過し、街道をバスーラ方面へと歩き出した。
グレイヴァルから北へ行くと平原地帯で、街道沿いには、モータル子爵が代官を務めるバスーラという大きな街があり、王都への要衝となっていた。
此処をわざわざ避けなくても、普通に歩いて街に入れば自分達の身分もバレないだろうし、バスーラで一泊してから王都を目指そうという事になった。
では、なぜ王都へ行く必要があるのか。それは朝食後にケルが説明してくれた。
曰く、魔法使いが独立したなら伯爵以上の貴族家当主相当となる。
曰く、正式に伯爵家当主と認められるためには王都で王から正式に叙爵される必要がある。
爵位の任免は王の専権だという。そして、王は王都から動かない。
ギルバートはエリーと、伯爵家当主になる必要があるかどうか、王都へ行くかどうかを話し合った。
基本的にギルバートもエリーも出世欲などは皆無だったのでそんな身分は必要ないと思った。
だが、モータル子爵と揉めてしまった現状、子爵より上位の貴族家当主の肩書は有難い。
ただ、二人とも全くそう言った教育を受けていないため、伯爵と認められて領地を授かったとしても、とても自分達で運営できるとは思えなかった。
それに伯爵となれば付随する貴族的責任も重くなる。正直それはかなり煩わしかった。
モータル子爵対策の為だけに叙爵されるのは割に合わないのでは?と二人が考え始めた時、ケルが助言した。
『主殿、魔法使いに関しては、万事例外が罷り通る。そもそも王は魔法使いに、この国に所属していて欲しいのだ。ゆえに大抵の事は融通されるはずだ。例えば、「領地無しの伯爵として、有事の際は国に魔法で貢献する」という括りであれば、他の義務はほぼ免除されるはずだ』
ケルのその助言によって、ギルバートとエリーは王都行きを決断した。
そうと決まれば、二人は鍛冶屋の老婦人に王都に行くと挨拶し、半チンピラの彼にも一晩世話になったと礼を言って、早速出発したのだった。
ただ、ギルバートとエリーは、バスーラへの街道を、馬鹿正直に徒歩で進み続けたりはしなかった。
ギルバートの魔法で飛んでいけるのだから、バスーラの手前まで飛んでいけばいいのだ。
街が見えなくなると街道を逸れ、周囲から人影が無くなった時点で上空へ飛び上がった。
かなりの高度まで上昇し、街道がギリギリ見える位置を飛び続けていると、あっという間にバスーラの街が見えてくる。
徒歩であれば、朝出発すれば夕方に着く、それくらいの距離だったが、ギルバートとエリーは朝のうちにバスーラ近辺の平原に着地し、昼になる前には徒歩でバスーラの門をくぐることが出来た。
飛んでいる間は「飛行」の魔法が風圧や温度変化をある程度阻害してくれるが、それでも上空の飛行は寒く、二人は体が冷えて固まった。
だが、その後、しばらく徒歩で門を目指し、たどり着くころには身体もあったまっていた。
「さて、宿を探そうか」
「そうね」
ギルバートとエリーは、今日はバスーラ泊まりと決めていた。
この後、すぐ王都へと出発すると、夕方以降、寒くなった中を飛行することになりそうだからだ。
さらに、野営になるとギルバートはともかくエリーは心配だった。
バスーラは、あの有名なモータル子爵が代官を務める地と言う事もあり、ギルバートはあまり良いイメージを持っていなかったが、街を見ると、普通に栄えているように見えた。
「まぁまぁ綺麗だし、変な雰囲気は感じないね」
「だね。良い匂いもするわ♪」
そう言えば、もうすぐお昼時だ。通りの屋台からは料理のおいしそうな匂いが漂ってきている。
二人は鍛冶屋の老婦人から弁当は貰っているが、お店の料理も気になるところだ。
「ギル、お弁当は夜ごはんにして、お昼は何か買って食べない?」
「そうしようか!」
ギルバートとエリーはそうと決めると、通りの屋台を物色しながら歩き始めた。
目抜き通りにはたくさんの脇道があり、どの脇道にもいくつもの屋台が軒を連ねている。
「全部のお店をまわったら大変そうね♪」
「エリー、まさか全部まわる気?」
「まさか。適当に見て選びましょ♪」
ギルバートはホッとしたが、エリーが早速、ギルバートの腕をとって脇道へ歩き出した。
「まず宿ね。鞄がじゃまでしょ?」
「あら、そうだったわ♪」
エリーは上機嫌で笑う。その笑顔を見るとギルバートも自然と笑ってしまった。
「さあ、さっさと鞄をおいてくるよ」
「ええ♪」
そうして、二人はようやく宿を探して歩き始めたのだった。
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本日、2話目、ラストです。
楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。
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次回予定「バスーラ」
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