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作戦会議

32 作戦会議






 モータル子爵、イゴール・モータルは執務室の愛用の椅子に、苦虫を噛み潰したような顔で座っていた。

 

 彼の中で、結論は出ていたのだが、納得が追い付いていなかったのだ。

 

 あの後、手下の者達に事実を確認させると、すぐさま側近に事態の収拾を命じ、アローズ家、フォルダー家へと派遣した。

 

 だが、レイング男爵の不始末を謝罪し、一応両家から、受け入れられはしたものの、再交渉は成らなかった。

 

 既にアローズ家令嬢、フォルダー家子息、ともに勘当され、籍を抜かれた後であり、もう他人だから、と相手にされなかったという。

 

 モータル子爵は思う。

 

 たとえ、ギルバート・フォルダーが正式に「魔法使い伯爵」になっても、人脈や資金力で圧倒的に自分が勝っている。

 

 だが、相手はまだ半分、子供みたいなものだ。大人の対応など期待できない。

 

 もし、自分が強く出て、あの小僧が退かなかった場合、こちらも後には引けなくなる。貴族の名家としての沽券に係わるからだ。

 

 しかも、相手はガキとはいえ魔法使いで、普通の相手ではない。戦って勝てる保証などない。

 

 モータル子爵にとって、リスクばかり大きく、得るモノはほぼ皆無だった。

 

「……癪に障るが、ここはいったん退いて、様子を見るしかあるまい……」

 

 モータル子爵は、苦渋の末、和解あるいは静観を選択した。

 

「ですが、シーモ様はいかがいたしましょう?」 

 

 側近が聞きたくない事を淡々と告げてくる。

 

「……ありのままを、申し渡すしかあるまい。何でもかんでも奴の望み通りになどいくまいよ。奴こそ、そろそろ大人にならねばならぬ」 

 

「左様で。では、早速および致しますか?」 

 

 モータル子爵は、すまし顔の側近に猛烈にイラつき、思わず「私を怒らせるのがそんなに面白いのか?」と真顔で詰問しそうになったが、既の所で踏みとどまった。


 彼は無言で頷いた。側近は速やかに執務室を出て行った。

 

 モータル子爵は、変わらず苦虫を噛み潰したような渋面のまま、深いため息をついた。

 

 これから荒れる息子を怒鳴り付け、睨みを利かせ、馬鹿な頭でも分かるよう言い聞かせねばならないのだ。果てしなく気が重い。


 ところが、戻ってきた側近の報告はモータル子爵を一瞬、吃らせるほどの内容だった。 

 

「お館様、シーモ様は外出されたようで、お部屋におられませんでした」


「何……だと!?……言いつけ一つ、守れん、愚か者がっ……!」


 側近の報告を聞いた途端、モータル子爵はグッと奥歯を噛み締め、またも、再燃した怒りの嵐を万力の精神力で押さえ込むのであった。 

 

 

 

 ☆




 翌朝、ギルバートが廃屋の前の道で短剣を振って朝稽古していると、鍛冶屋の老婦人がやって来て朝ごはんを一緒にと誘ってくれた。

 

 ギルバートは有難く申し出を受け、エリーを起こして連れて行った。


 もちろん、エリーの朝は厄介で、起こしても起こしてもなかなか起きず、ギルバートは相当、起こすのに苦労したが、その分、寝起きのエリーをガッツリ愛でるという眼福もあったとかなかったとか。


 ともあれ、二人は鍛冶屋の自宅で老婦人から朝ごはんを頂いていた。

 

「これ、昨日のお肉がまだこんなに余ってるけど、どうする?」


 大皿にまだまだ盛り上がっている肉の山を指して、老婦人が言ったが、荷物になるしお世話になったので貰ってください、と置いていくことにした。

 

 老婦人はそれなら、と言う事でパンで焼き肉と卵焼きを挟んだ「挟みパン」を籠に詰めて持たせてくれた。


「おばさん、ありがとう!」


「すみません」


「いいのいいの。こっちが貰い過ぎなくらいだよ」


 去り際、エリーとギルバートがお礼を言い、頭を下げると、老婦人は笑って手を振った。


 廃屋に戻った二人は、寝室に戻ってベッドに転がってゆったりと寛いだ。

 

 特にエリーはお腹いっぱいで満ち足りた気分のせいで、少し眠気がぶり返しているようだった。

 

「さて、これからどうしようか?」


 ギルバートはエリーに話しかけたのか独り言か微妙なテンションで呟いた。

 

「そうね……まずは、何かをして働いてお金を稼いで、お家を買わなきゃね」


 だがエリーから返事が有ったので、急遽、作戦会議となった。

 

「家は、買うとなると一朝一夕にはいかないよ。まずは借家か宿暮らしかな?」


「そうなの?そんなに立派な家でなくても、今まで住んでたお家くらいでも良いと思うけど?」


 どうやら、エリーは自分達の実家がボロいので、同程度なら安く買えると思っているようだ。


「たとえ中古の家でも、そう簡単に買える金額じゃないよ」


「昨日、魔獣を売ったお金でも足りないの?」


「ああ、確かにいい値段で売れたけど、残念ながら桁が違うかな」


「そうなのね……」


 エリーはびっくりして、今はがっかりしていた。

 

 ギルバートがエリーに何と言おうか、と考えているとケルが念話してきたので、あわてて「念話」の魔法石に魔力を注ぐ。


『主殿、御内儀殿、拠点の話は一旦保留にして、まずは王都へむかってはどうだろうか?』




 それは、ギルバートもエリーも考えもしなかった提案だった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「出発」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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