平民街2
30 平民街2
「エリー?」
お昼ご飯を食べ終え、人心地ついたギルバートは、エリーが何やら落ち着かない様子なのを見て声をかけた。
「えっ?」
「どうかした?なんか、落ち着かない感じだけど」
やっぱり、突発的に連れてきてしまったのがマズかったのかと、ギルバートは心配になった。
「ううん、そんなことないけど……」
そう言いつつもエリーは、やはりソワソワしているように見える。
「ねえ、エリー、変に我慢するのはやめようよ。何か問題が起きたら、二人で相談して解決していこう?」
ギルがエリーの手を取って、真剣に語り掛けると、エリーはフッと笑った。
「ごめん、ギル、問題とかそんなんじゃないの。わたしのちょっとした我儘だから……」
「わがままでもいいよ。何か思ったなら言ってみてよ」
ギルバートが更に追及すると、エリーがついに白状した。
「……うん、あのね。この屋敷、ものすごく埃っぽいというか、床も砂だらけで汚いからね、最初は掃除しなきゃって思ったけど、数日、泊まるだけなら余計なお世話というか、あちこち触らないほうがいいのかな、って思ってたの」
ギルバートが改めて室内を見回すと、家具や調度品はあらかた無くなり、ガランとしていたが、確かに床だけでなく部屋中が何処を見ても薄汚い。
あの半チンピラのような連中の溜まり場だから仕方がないし、ギルバートはそこまで気にならなかったが、考えてみればエリーは女で、曲がりなりにも貴族令嬢だ。こんな汚いところで落ち着けるはずもない。
「そうか、ごめんエリー、気づかなかった」
「ううん、別にこれくらい平気よ。ただね、ふと思ったの。お掃除の魔法ってないのかなーって」
エリーがちょっと恥ずかしそうに笑う。
そのふとした笑顔がメチャクチャ可愛くて、ギルバートは恥も外聞もなく、身悶えしそうになるのを必死で我慢する。
「……げふんげふんっ!んんっ!……なるほど、面白い。それはあったら便利そうだけど……ケル、そういう魔法ってある?」
ギルバートはケルに話しかけつつ、自然と「念話」の魔法石に魔力を注ぐ。
『主殿、御内儀殿、「掃除」という魔法は聞いた事がない。元々、魔法は魔獣の能力だ。自らの巣を掃除したり身を清めたりする魔獣がいれば、そういう魔法を持っているかもしれんが……』
ギルバートが「それは居ないだろうな」と思った時、ケルが言葉を続けた。
『……だが、そう言えば、まだ某が人間の魔法使いであったころは、確か……そうだ、確か水辺の生物の魔法を応用していたのではなかったか……』
「え、あるの?」
ダメ元で言ってみたらホントにあったので、エリーは目を丸くしている。
『本来は微細な生物を餌にしている水棲生物の魔法だ。確か「集塵」の魔法と名付けたのだったな。この魔法で集める対象のイメージを、上手く埃や汚れに限定出来れば可能だったはず?……だが、某もイメージの習得にはかなり手こずった記憶もあるような?』
ケルにしては妙に曖昧な言い草だ。
「昔、ケルも持ってたんだろ?その魔法」
『持っていたとは思うが、某は自分で掃除などせんかったからな。何かの折に一、二度試した程度だった気がするな……む、いや、習得、出来なかったのだったか……?』
なるほど、ありそうな話だが、それはそれとして、だ。
ギルバートとエリーがどこかに定住できる家を買えるようになるまで、どれくらいかかるか分からない。
だったら、その魔法も入手しておいて損はないだろう。
「ケル、その魔法はどこに行けば手に入る?」
『山や森の清流であれば、何処にでもいると思うぞ、主殿』
「じゃあ、近場の森でもいいのか?」
『大丈夫だ』
ギルバートはケルの返答に拍子抜けしたが、エリーと目を合わせて頷きあった。
「だったら今から獲りに行こう」
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本日、1話目。2話更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。
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次回予定「平民街3」
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