エリザベスの悩み
3 エリザベスの悩み
グレイヴァルの街は領主様の住む領都であり、街は領主の住む城、貴族街、平民街に分けられていて、かなり広大だ。
街の周辺は、街の大部分の人間を養うべく穀倉地帯となっており、それを抜けると南は山岳地帯、北は草原や平原が続き、遥か先はもっと大きな街や王都に通じている。東と西は森林地帯だ。
二人は、昔から遊んだり野草や木の実を採取するためによく行く、東の森にやって来た。
当然、馬など飼っていないので、徒歩で街道沿いに四半時ほど進み、森の入口に到着。
エリザベスがチラリと横に視線を向けると、同じタイミングで細い目の少年が自分を見て頷いている。
「さ、じゃあ行くわよ!」
「了解。慌てずゆっくりとね」
エリザベスのワクワク探検気分は早くも軽くつんのめる。
……固い。固いのよね~ギルってば
幼馴染のギルはエリザベスの言った事に反対することは滅多にないが、慎重な性格ゆえか、いつも微妙にノリが悪い。
もちろんそれは、エリザベスを心配してのことだろうと、理解はしているつもりだが、一緒に遊ぶときはもっとパーッとはしゃいで気分を上げていきたい時もあるのだ。
改めてギルを見ると、右手で弓を持ち、矢筒を背負い、左手には分厚い籠手を装備し、腰には剣を吊っている。
そこまで用心しなくても、街の近くの森では危険な獣も魔物もほぼ出ない。だから時には小さい子供やお年寄りでも木の実や薬草の採取に来るのだ。
実際、エリザベスは腰に小さい解体用ナイフと、あとは弓と矢筒しか持ってきていない。
「いや、一応ね。獣も賊も絶対出ないとは限らないし」
エリザベスの視線の意味を正確に読み取ったギルが何やら言い訳をしている。
「別に、何も言ってないじゃない?」
「言いたそうにしてたから」
二人は目を見合わせて少し笑い、それからしばらく無言で森をそぞろ歩いた。
「……エリー、何か悩んでる?」
唐突に、ギルがそんなことを問うてくる。
そう、エリザベスには最近、悩んでいることがあった。そしてそれは、ある意味どうにもできない事だった。
「……うん、まあ、アレよ。もうすぐ成人でしょ。最近のお父様を見てるとね、すぐにわたしの婚約を決めてしまいそうでね……」
いくら貧乏で、名ばかりであっても、家の為に親の決めた相手と結婚する事は、貴族の子女の責務であると教育されてきたし、本意でなくとも仕方のない事とエリザベスも理解はしている。
親とも特に仲が悪いわけでもないし、より家の為になる婚約をすべきだと納得もしている。
ただ、最近届き始めている婚約の打診が、裕福な商人(ご老人)の後添えであるとか、男爵家の当主の弟(ご老人)の後添えであるとか……とにかく、ご老人の後添えばかりなのだ。
候補者達はどなたも裕福な方々ばかりであり、父親の様子が満更でもない風に見えるのが憂鬱だった。
「そうか……」
ギルは何か言いたげな目をしてそう言ったきり、また前を向いてしまう。それを横目に見てエリザベスは小さくため息をついた。
……そうか、って……はぁ
そして、エリザベスのもう一つの悩みがこれだった。
……小さい頃は、ギルと結婚するんだと思ってたんだけどなぁ……
ギルの事は好きだし、ギルのおうちとは家格も似たり寄ったりだし、年も同じで親同士も仲は悪くないし、普通にそうなるものだと思っていた。
ギルも自分と同じ気持ちだとずっと思っていた。
でも最近は、なんだかギルの様子も以前と違う気がするし……分からなくなってしまった。
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本日、3話目です。念のため
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