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平民街

29 平民街






 昼過ぎ、平民街のとある路地裏に、街の上空から突如、降下してきた塊があった。

 

 もちろん、ギルバートとエリーと魔獣の死体だ。

 

 通りに誰も居ないことをおおよそで確認して降りてきたので、特に人が集まってくることもなかった。

 

 ギルバートは魔獣の死体を「念動」の魔法を発動して、魔法の左腕で持ち運んでいた。

 

 ちなみにギルバートは右利きであり、魔法の腕も右のほうがより自由に扱えるようだった。

 

 やや薄暗く、華やかさとは縁のない平民街の裏通り。エリーはちょっと怖がっていて、ギルバートのコートの端っこを指で摘まんでいる。

 

 そんなエリーの可愛い仕草に内心、物凄くドキドキしているギルバートは、「コートを掴まれてると、いざって時に動き出しが……」と思いつつ、「まぁ、最悪、「結界」か「重力視」があるか」と自分を誤魔化した。

 

 そして幸い、そんな危険な目にも合わずに、ギルバートとエリーは目的のあばら家に到着した。


 

「おじゃまします」


「あぁ?誰だーぁ…………って!?お、お前っ!?」

 

 あばら家に入ってギルバートが挨拶すると、割とガッチリした体格の若者が狭いベッドに寝転がっていた。

 

 歳の頃なら、ギルバートやエリーより少し年上と感じさせる少年は、ギルバートの顔を見るなり飛び起きた。

 

「こんにちは。お久しぶり。今日はちょっと頼みがあってきた」


「て、て、てめぇ!頭、腐ってんのか!?」


「いや、特には?」


「む、昔、ほんのちょっとお前の女にちょっかい出したってだけで、会うたびボッコボコにしやがるくせに!そんで、二度とツラ見せんなって、お前がっ!オレにっ!言ったんじゃねぇか!」


 そう、彼は小さい頃、エリーを虐めてから、今に至るまでギルバートに目撃されるたびにボッコボコにされ続けている彼だった。

 

 彼は、ギルバートの横に浮いている魔獣の死体と、後ろにいるエリーにちらっと一瞬、視線を動かしたが、その瞬間、ギルバートのただでさえ細い吊り目が最上級の鋭さを帯びる。

 

 同時に件の彼の全身が、地面に引き倒されそうになるほどの圧力で上から圧迫され、たまらず床に膝をついた。

 

「ぐっ……うぅ……!?」 

 

「……次、エリーにちょっとでも何かしたら、今度は殺す。二言はない」

 

「ち、ち、ちょっと見ただけだ!」


 彼の心は既に折られているので、脅しなど全く必要なかったのだが、ギルバートの「重力視」の魔法を受けて哀れなほど動揺し、悲鳴を上げた。

 

「そうか、ごめん。で、頼みなんだけど」


「……ハァッ!……ハァッ!……」


 ギルバートが「重力視」の魔法石に魔力を注ぐのを止めると、彼にかかっていた圧力がフッと消える。


 彼は、全く理解できない生物を見る恐怖の目で、ギルバートを見ていた。何故、こいつが寄りによって自分に頼み事をするというのか、しても許されると思うのか。

 

 だが彼にとってギルバートは間違いなく既知外であり、どんなに言動が異常でも今更だった。その上、今は魔法使いになったという。もはや、完全に理解不能の存在だった。

 

 ゆえにこんな危険人物と、争う気など微塵もなく、出来る限り早く出て行ってもらいたいと思うのみだった。

 

 沈黙を了承と判断し、ギルバートは「お願い」をする。

 

 一つ、魔獣肉と魔獣素材を売って来てほしい。

 

 一つ、ついでに何か食べるものを買ってきてほしい。

 

 一つ、数日で良いので、寝泊まり出来る空き家を紹介してほしい。

 

 一つ、ちょっと人目に付きたくないので自分達の事は内密にしてほしい。

 


「お願いをちゃんときいてくれたら、もう君の事を敵じゃなく知り合いだと思う事にする」


「……何ッ!?本当だな!?……分かった、任せろ。しばらくかかるから、ここで待て」


 そう言うと彼は立ち上がり、あばら家を出て、すぐに二人ほど少年を連れて戻り、魔獣の死体を運んで行った。






 しばらくして、彼が帰ってくると、ギルバートとエリーは大きめの鞄を持っていた。

 

「……何だ、それは?」


「ああ、これは、君を待ってる間にちょっと実家に行って、持って来た。着替えやら小銭やら、そういうものだよ」


 ギルバートとエリーは彼が留守の間に、「飛行」の魔法でこっそりと実家の自室の窓から潜入し、必要な着替えや小遣い銭などを鞄に詰めて持って来ていた。

 

 途中、誰かに見られた可能性はあるが、実家ではバレなかった筈だ。

 

 改めて、魔法の便利さには脱帽のギルバートだった。


「そうか、まあそんな事はどうでもいい」


「いや、君が聞いたんだろ」


「そうだな。オレが悪かった。……空き家は手配した。と言うか、オレ達の溜まり場だが、イイと言うまで誰も近づかない様に言ってある。それと、これが飯と、魔獣の代金だ」


 ギルバートが、屋台で買ったという串焼きと一緒に受け取った袋には、たくさんの金貨や銀貨が詰まっていて重く、振ってみるとギチッギチッとたくさん詰まってそうな音がする。

 

「見たこともない魔獣だが、肉屋で端っこを焼いて食ったらメチャクチャ美味かった。悪いがオレもちょっともらったぞ。肉屋の親父がどこで狩ったか散々聞きたがって、教えてくれたらもっと出すと言ってたな。あと、肉以外の素材も冒険者ギルドで高く売れた」


「そうか、助かるよ」 

 

「……それじゃ、案内するからついて来い」 


 そう言うと彼は、ギルバートとエリーを連れて裏路地をさらに奥へ進み、比較的高いところにある廃墟屋敷へ案内した。

 

「この辺りはオレ達の縄張りで、ここはオレ達の溜まり場の一つだ。誰も来ない様に言ってあるから心配するな。……じゃあな」


「わかった、ありがとう。次に会ったら挨拶をするよ」


「……ちっ」


 彼は、そのまま振り返らずに行ってしまった。

 

 ギルバートとエリーは彼を見送ってから屋敷に入った。

 

 廃墟とは言え、雨漏りなどはまだなく、埃っぽいが雨露はしのげそうだ。エリーにはともかく、ギルバートには数日程度なら十分だった。


「まあ、とりあえずご飯にしようか?」


「そ、そうね」




 ギルバートとエリーは、ようやくホッと一息つくと、鞄に腰かけて串焼きをお昼ご飯とするのだった。




 ☆




 ちなみにエリザベスは「冷酷なギルもかっこいぃ~~♪」と内心では全力でジタバタしていたのだった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「平民街2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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