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第三目標の魔法石

27 第三目標の魔法石






 それは、一見したところでは巨大な亀だった。

 

 巨大な甲羅のある身体が、頭を除いておおよそ、人間の平均的成人男性の四~五歩程度もある。

 

 甲羅の周囲には石器の刃物のような鋭い出っ張りが無数にあり、その下の身体には左右三本ずつ、合計六本の鱗に覆われた足があり、中央に巨大な首と頭が生えていた。

 

 首と頭は身体と同じく鱗に覆われており、その首の太さ、顎の大きさからして、人間サイズなら二~三人でも、まるっとひと飲みに出来るはずだ。

 

 

 

 ギルバートは今度もエリーを高い木の、上の方の丈夫な枝に座らせて、巨大亀に向き直る。

 

「ギル、気を付けて!」


「分かった。エリーも気を付けて、待ってて」


 ギルバートはエリーを座らせた木から少し離れたところで、先ほど倒したシールドバッシュ・モールを地面に落とし、砂浜から少しだけ浮いた状態で、空中を滑るように巨大亀に近づいていく。

 

『そこまで!』


 ケルの号令を受け、ギルバートは砂浜に着地する。 

 

『これ以上近づくと、魔法が来るだろう』


 ギルバートは一つ頷いて、短剣を抜く。そして、巨大亀に向って一歩、踏み出した。

 

 今まで他所を向いていた巨大亀が、今はしっかりとギルバートを視界に捉えている。  

 一歩、二歩、三歩、そして、もう一歩進もうとした瞬間、突如としてギルバートの身体全体に、のしかかるような圧力が加わった。

 

 上からと言わず、横からも、後ろからも前からも、見えない圧力がギュウギュウとのしかかり、締め上げてくる。


「かはっ!?」

 

 ……かっ、身体がっ……重いっ!

 

 巨大亀はギルバートをジッと見ていたが、ゆっくりとした動きで体の向きを変え、ギルバートの方へ移動し始めた。

 

 当然、捕食するつもりだろう。

 

 そのあまりに巨大な魔獣が迫る中、さらにギリギリと締め上げられ、全く身動きができない事にギルバートはゾッとして、一瞬で汗が噴き出した。


 

『……じどの!主殿!「飛行」の魔法だ!』



 ケルの声が途切れながら届いた。どうやら魔力回路まで圧迫されていたらしい。

 

 ギルバートは即座に上空へ逃れようと、「飛行」の魔法を発動した。

 

 だが、飛び上がるどころか、やっと浮き上がった程度しか飛べていない。

 

 ギルバートは再びゾッとさせられたが、強烈に締め上げてきていた圧力が緩み、それほどではなくなっていることに気が付いた。

 

『そうだ、主殿!「飛行」の魔法がある程度「重力視」の魔法に対する「反魔法」になる!』


 そうしている間にも、巨大亀の巨大な頭が近づく。

 

 ギルバートが地面の少し上を水平に飛んで距離をとった、次の瞬間、巨大な頭が猛烈なスピードで突っ込んできて、砂浜を抉った。




 ……あっ…………っぶなぁああああ!

 

 

 

 今、一瞬遅れていたら死んでいたと、ギルバートは飛びながら肝をつぶした。

 

 巨大亀が再び巨大な頭をもたげると、砂浜がごっそりと抉れ、大穴が開いていた。

 

『防御は「結界」の魔法で!攻撃は「念動」で!とどめは短剣で!』


 ケルが事も無げに、三つの魔法の同時使用を要求してくる。

 

 だが確かに、ちょろちょろ周りで飛び回ったところで、接近できなければ勝ち目はない。

 

 ギルは巨大亀の正面方向に飛んで少し距離をとった。今までの巨大亀の動きを参考に「安全の為、このくらいは保っておきたい」という距離だ。

 

 そして巨大亀を見ながら、正面に「結界」の魔法で半球状の盾を出す。途端に身体が浮力を失って着地し、全身にかかる圧力が増す。

 

 飛行中、「念話」の魔法を使った事はあるので魔法二つの同時使用はいけると思っていたが、「念話」の魔法と「結界」の魔法では必要な魔力量が段違いだった。

 

 ギルバートは「飛行」の魔法石へと再度、しっかり多めに魔力を注ぐ。

 

 するとまた「飛行」の魔法が発動し、ギルバートの身体がふわりと浮き上がる。

 

 「飛行」の魔法石への魔力注入を途切れさせないよう多めに注ぎ続けながら、「結界」の魔法石にも同時に魔力を注いでいく。

 

 ギルバートの身体の正面に半球状の魔法の盾が展開されたが、今度は宙に浮いた状態を保っている。

 

 ……よし、何とか成功か

  

 そしてさらに、その状態から「念動」の魔法を発動する。

 

 「飛行」「結界」「念動」の三つの魔法石に、同時に、いつもよりかなり多めに魔力を注いでいく。

 

 そしてギルバートはついに「飛行」と「結界」の魔法を維持しながら「念動」の魔法を発動し、魔法の腕を装着する事に成功した。


 

 ……こっ……これは、魔力の減りが速い!とんでもない消費量だ!


 

 魔法を複数同時に使用することがこれほど魔力を消費するとは、ギルバートは想像もしていなかった。

 

『主殿!それも熟練次第だ!それより早く討伐を!魔力が持たんぞ!』


「わ、分かった!」


 確かに、恐ろしいスピードで魔力が消費されていく。このままのペースではあっという間に魔力が枯渇してしまいそうだ。

 

 魔力が枯渇するという事は、人間だろうと獣だろうと魔獣だろうと、「死」あるのみ。


『正面からで問題ない!』

 

 ケルの指示を受け、ギルバートは巨大亀に向って一気に距離を詰める。

 

 すると巨大亀は待ってましたとばかり、その巨大な頭が霞むほどの超高速で噛みついて来た。

 

 そして、ギルバートが作った半球形の魔法の盾に歯を立てるようにぶち当たり、一瞬、完全に動きを止めた。

 

 そこを、ギルバートは最大サイズの魔法の腕の全力で捕らえ、押さえ込む。

 

 ガパッと大顎を開いたまま、頭を抑え込まれた巨大亀はゆっくりと体の方を前進させ始めた。

 

『急げ、主殿、踏みつぶされるぞ』


 ギルバートは、この拮抗状態を必死で制御していたが、ケルにせかされ、短剣を握りなおすと巨大亀の巨大な頭へと近づいていく。

 

 ギルバートはそのまま近づき、魔法の盾を通り抜けて巨大亀の顎の内側に足を踏み入れた。

 

 自分の魔力で出来た魔法の盾はギルバートを阻まなかったが、魔獣の口内は強烈な悪臭に満たされており、ある意味ギルバートの動きを阻害した。

 

『その上が奴の脳だ、主殿。一気に突き上げろ』 

 

 ギルバートは涙目になりながら、ケルの指示通り、口内上部を短剣で一気に刺し貫く。

 

 すると急激に巨大亀の暴れる力が弱まり、巨体を支える六本の足が動きを止め、やがて巨大な頭も完全に動かなくなった。

 

『お見事だ、主殿』



「…………っはぁああああああぁっ!」



 ギルバートは、声もなく、巨大亀の口の中から出ると、全ての魔法石への魔力注入を止め、一気に息を吐いた。 




 こうして、ギルバートは第三目標であった「重力視」の魔法石をもつ巨大亀を、なんとか倒すことが出来たのであった。



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本日、3話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「お昼時」


読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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