新婚フライト2
26 新婚フライト2
「昼までにもう一つ、魔法石を獲りたいな」
ギルバートは、ほぼ戦闘なしで「結界」の魔法石を獲れたので、まだ元気いっぱいだった。
『ふむ。第三目標は「重力視」の魔法石だな。ここからさらに南下した海岸付近に生息する魔獣から獲る魔法石だ。まあ、距離はあるが「飛行」の魔法で行けば昼までには行って、戻って来ることが出来るだろう』
「えっ、海へ行くの?わたし、海って見たことないわ」
「そりゃあ、オレもだよ。近場の森以外、グレイヴァルから出たことないし」
ギルバートもエリーも、生れてこの方、一度も領都グレイヴァルを離れたことは無い。
そもそも、街の外は獣や魔獣、盗賊なんかが出るから非常に危険だし、親の仕事に同行するなどの特別な事情がない限り、子供が街から遠出することなどあり得なかった。
「……でも、待てよ。昼までに戻れると言っても、結構かかりそうだし……この魔獣の血抜きも同時にやっちゃうか」
「血抜きって、この魔獣、食べれるの?」
「これだけ肉がついてりゃ、二人で食っても結構持つんじゃないかな?」
「いや、そうじゃなくて、食べても大丈夫なお肉なの?ってこと」
「あー、それはどうだろう?いけると思ったんだけど、ケル、分かる?」
『主殿、御内儀殿、ある魔獣が食用に適すか否かの判断は、だいたい同じタイプの獣で判断可能だ。この魔獣の場合は、モグラの魔獣であろうから、大丈夫だと思うぞ。そして、魔獣の肉は大抵の獣の肉より美味いと言うな』
ギルバートが、ケルなら知ってるかなー?と軽い気持ちで聞いたら、意外な情報が飛び出した。魔獣の肉は美味いらしい。
「……そう言えば、魔獣の肉なんて食べたことないよね?」
エリーが興味津々で目を輝かせ始めている。
「うん……あっ、しまった!」
「なに?」
「ほら、一昨日の鳥型魔獣。あれも魔獣だったのに、オレ、まだ食ってなかった……」
「えっ?……でも、あれは……イイんじゃない?」
「なんで?……って、ああ、そっか、うん」
そう言えば、その鳥型魔獣は、ケルが憑依している魔法石の元の持ち主だった魔獣だ。
たった数日だけど、ケルはもう大事な相棒だ。ケルそのものではないとは言え、ケルがちらついた瞬間、その魔獣の肉を食べる気は無くなってしまった。
……と言うか、そんな事、エリーに言われるまでもなく気付くべきだった
「ケル、ごめん」
『主殿、御内儀殿、気にするな。アレは元々、某の従魔であり某そのものではない。そして、アレを死なせたのは某の油断。二人には何の落ち度もないし、食する事を気に病む必要など何一つない。そして、狩りで命を奪ったなら、これを食すのは当然のことだ』
相変わらずの、達観した考え方にギルバートもエリーもそれ以上、二の句が継げなかった。
しばし、沈黙した後、ギルバートが先ほどの会話を蒸し返した。
「……じゃあ、まあ食えるっていうなら、この魔獣を吊るしながら、次の目的地に行こうか。飛んでる間に血抜き出来るだろうし」
そう言って、ギルバートはエリーの合意を得ると、魔獣の内臓を抜いて、丁度、魔獣のいた穴に埋めた。
そして、片手でエリーを、もう片方の手で魔獣の足を持ってぶら下げながら、第三目標である南の海岸地帯へと飛行を開始した。
かなり「飛行」の魔法に慣れてきたギルバートは、山岳地帯上空をさらに南下しながらグングンとスピードを上げていく。
高度を上げると地上の景色がゆっくりと流れるようになったが、実際には一瞬で物凄い距離を移動しているはずだ。
ギルバートがそのギャップに感心していると、エリーが声を震わせた。
「ちょ、ちょっと、ギル、高すぎて、こ、怖いよっ」
「あ、ごめん」
ギルバートが慌てて高度を落とす。すると今度は地面までの距離が近くなり、地上の景色が高速でグングンと流れ始めた。
「飛行」の魔法自体が飛行中の風圧などをかなり阻害するらしく、目が開かなくなるようなことは無かったが、ビュンビュンと後方に飛んでいく景色は、上空を飛んでいた時と違って恐ろしくスピード感があり、エリーは自然と目を瞑ってしまう。
「……もっとゆっくり行こうか?」
「……い、イイ、このままでっ!……」
「エリー」
「な、慣れたら、きっと、楽しいから、平気っ!」
エリーが、何やら頑張ってるらしいので、一応、気持ちを尊重して、ギルバートは少しずつ、分からない程度に減速する。
「了解。無理だったらすぐ言ってくれよ?」
「う、うん!」
何だかよく分からないけど、頑張ってるらしいエリーも、もちろん可愛かった。
……結婚したおかげで、いろんなエリーが見れて最高だな♪
思えば、ギルバートはエリーに対し、あまり踏み込まないようにしてきたのかもしれなかった。
ここ数日だけで、今までの人生分よりも、見たことのない色んなエリーを見ているかもしれない。
『……お邪魔かもしれんが、主殿、そろそろ着くようだぞ』
ギルバートの思考を読んだらしいケルが、何やら呆れたような空気を出している。一度も見たことのない筈の、ケルの呆れ顔が見えるようだ。
だが、口に出して惚気ている訳でもないのに、咎められる謂れはない。
ギルバートはそんな空気感はスッパリと無視する。
「じ、じゃまって?」
「さぁ?ケルは時々、よくわからないことを言うんだよ」
徐々に、砂浜が見えてきた。この浜辺のどこかに、第三目標の魔法石を持っている魔獣がいるはずだ。
浜辺の上空に到着し、空中で着地する地点を選んでいると、ギルバートとエリーはほぼ同時にその魔獣に気が付いた。
「あっ、あれ!」
「うん、あれだな」
『左様、あれだ』
そこには、ゆっくりと動く、巨大な魔獣がいたのだった。
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本日、2話目です。
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次回予定「第三目標の魔法石」
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