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第二目標の魔法石

25 第二目標の魔法石






『主殿、御内儀殿、以前はこの辺りに変わった狩りをする魔獣が生息しておってな……』


 山岳の斜面に着地する前にケルが制止したので、ギルバートとエリーは地上から五~六歩ほどの空中に浮かびながら、地面にケルの言う痕跡がないか探していた。 

 

 しばらくすると、エリーが少し離れた大木と大木の間、地面の一点を指さす。

 

「……あれかな?」 


『お見事、御内儀殿。おそらく相違あるまい』


 エリーが指さしている地面は、よく見れば僅かに土が盛り上がっており、色合いも少し違う。空中から見ると色の違いが良く分かった。

 

 ギルバートはエリーを、傍の大木の、高い位置にある太い枝を選んで座らせた。

 

 そして、空中に浮かんだまま、ゆっくりと件のポイントに近づくと静かに着地し、「念動」の魔法を発動し、魔法の腕を最大サイズで装備する。


 ギルバートが意を決して、魔法の手のひらで上からグイッと押してみると、その瞬間、地面が弾けて森の土が飛び散った。

 

 当然、魔法の腕も跳ね上げられる、かと思いきや、全くピクリとも影響しない。

 

 魔法の便利なところだ。

 

『「魔法の腕」と言っても、あくまで主殿のイメージであって、実体の腕とは違うからな。主殿が物体に影響を及ぼすためのイメージであって、物体からの影響は主殿が受け入れなければ、基本的にはゼロだ』

 

「えっ?何?」


「ああ、エリー、ケルはオレの考えてる内容に返事したんだ。ケル、さすがに思考にまで返事しなくていいぞ?」


『おっと、これは失敬。御内儀殿』


「え、ケル、ギルの考えてること、分かるの?後で詳しく教えて欲しいな~」


『もちろん、何でもお話いたそう、御内儀殿』


「ちょ、二人とも、それはダメでしょ!?」


「え~」


『ハッハッハ』 

 

 などと、ワチャワチャやっている間に、視界がクリアになり、爆心地で黒っぽい毛皮を身にまとった、丸々とした姿の魔獣が大口を開けて、上を向いて待機しているのが見えた。

 

 鋭い歯をずらりと横に並べた歯列を、口の奥に向って縦に何列も連ねた顎は、ほぼ円形に大きく開かれ、跳ね上げたはずの獲物が落ちてくるのを待っているように見える。

 

 だが、魔獣の真横から見ているギルバートには、完全に隙だらけの状態。

 

 早速、魔法の両腕で掴んで爆心地から引きずり出すと、ようやく大口を閉じて暴れ始めた。その頭部は先細りの円錐形で、開いた状態の時の大口、大顎を感じさせない。

 

『シールドバッシュ・モール、別名ビッグマウスと呼ばれる魔獣だ。穴を掘って身を潜め、「結界」の魔法を盾の様に頭上に構えて獲物を待つ。仕掛けた罠の上を獲物が通りがかると、頭上にまっすぐ打ち上げる。捕食可能なサイズの獲物は大抵この段階で足が折れたり、鞭打ちや脳震盪状態となり、落下してそのまま捕食される。大きすぎる獲物だった場合、そのまま穴の入口を「結界」の魔法で塞ぎ、穴の奥に逃げ込んでしまう』

 

 そんな一撃必殺の捕食技を持つ魔獣だったが、魔法のおかげで少しの危険もなく捕獲できてしまった。

 

 ギルバートは、全く戦った感じがしなかったので、今から魔法石を獲るため、この魔獣を殺す事に、多少の後ろめたさを感じていたが、最初からそのつもりで来たので迷いはしなかった。

 

 エリーが顔を背けた瞬間、ギルバートは、一気に短剣で貫き、魔法の腕の中で暴れる魔獣に止めを刺した。

 

 エリーに背を向けたまま、止めを刺した短剣でシールドバッシュ・モールの胸を開くと、魔法の腕で、黄色から赤に色が変化する透明な魔法石を取り出した。

 

 魔法石についた血をコートの裾で拭いて、ギルバートは空中に浮かび上がると、エリーの元に戻り、隣に腰かけた。

 

「ギル、大丈夫だった?」


 エリーが安堵の表情を見せ、ギルバートが笑顔で頷く。


「うん、ほら、「結界」の魔法石だよ」


「綺麗な色……どういう魔法なの?」


 エリーは恐る恐る、魔法石をのぞき込む。

 

「ケルによれば、見えない盾を出して、身を守ることが出来る魔法だって」


「それは凄いわね!……って言うか、さっき持ってたら良かったのに」


「ホントにね。この魔法が有ればレイング男爵の攻撃にも、焦ることなく対処できたかもしれない。……ちょっと、試してみようか?」


「えっ?」


 ふと、ギルバートは悪戯心を出してエリーを誘って地面に降りた。

 

 そして「結界」の魔法を発動すると、自分の前方から側面までを覆うような、見えない半球形の魔法の盾が展開されたのを感じた。

 

「じゃあ、エリー、その短剣でオレに斬りつけてみて」


「ええっ!?イヤよそんなの!魔法が失敗したらギルが死んじゃうかも知れないじゃない!」


 ギルバートが短剣を渡しながら頼むと、エリーは渋い顔で拒絶を示した。だが、そんな表情のエリーもすごく可愛いとギルバートはほっこりした。

 

 エリーに怒られるのは、案外嫌いじゃないかもしれない。

 

「……ギル?何か変な事考えてない?」


「えっ?全然?」


 二人は数秒間、じっとにらめっこをしたが、ギルバートが耐えきったので、一応、不問となった。

 

「えっと、じゃあ、この枝を魔法の盾で守るから、斬れるかどうか試してみてよ」 


 ギルバートが手近な木の枝を指定して「結界」の魔法を発動し、魔法の盾を成型すると、エリーが、最初は恐る恐る、次第に力を込めて短剣を叩きつける。

 

 だが、短剣は枝の手前で音もなく、火花も散らさず、クッと止まった。

 

「どう?」


「うん、何か柔らかいものを叩いたみたいに衝撃が一瞬で吸収される感じ?」


「へぇ?ちょっとオレも良い?」


 ギルバートはそう言って短剣を取り返すと、枝に向って全力で斬りつけた。

 

 鍛錬をしているギルバートの斬撃はエリーよりも格段に威力があるはずだが、結果はエリーの時と全く変わらない。

 

「ホントだピタッと止まるのが面白い……アレ?でも、魔獣が使ってた時は、凄く反発力があったよな……?どのくらい耐えられるのかも、その内、試しておいた方がいいかもだし……」


 ギルバートは新しい魔法に興味津々でブツブツと呟いたが、エリーは心配顔になる。

 

「危ない事はしないでよ、ギル?」

 

「もちろん、十分気を付けるよ」


 そうして、お互いをチラ見して、目が合うとまた、笑いあう二人であった。

 



 兎にも角にも、ギルバートは第二目標である「結界」の魔法石を、あっさりと手に入れることができたのだった。



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本日、1話目。3話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「新婚フライト2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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