新婚フライト
24 新婚フライト
ギルバートとエリーは今、第二目標の魔法石を体内に宿す魔獣を倒すため、領都グレイヴァルの南の山岳地帯を目指して飛行しながら、「三人で」話をしていた。
「レイング男爵はどうしてあそこまでの凶行に踏み切ったのかしら?」
『御内儀殿、本当のところは本人に聞くしかないが、いくつかの理由は考えられる』
エリーは今、ケルの声を聴くことが出来るようになっていた。
ギルバートが最初に手に入れた魔法石は、ケルの魂が憑依しており「憑依」「調伏」「念話」「念動」の四つの魔法が取り込まれていた。
この内、ギルバートがすぐにでも使える魔法は「念動」と「念話」だったのだが、「念話」は使用する相手がいないため、今まで試すことが出来なかった。
だが、ギルバートは既に魔法使いであることを公言したので、まさにたった今、この飛行中に、エリーを練習台にして念話を習得したのだった。
ちなみにケルとギルバートの会話も「念話」ではあるが、電話で例えるなら、魔力回路を経由した内線のようなもので、外線にあたる魔法石の「念話」の魔法とは別ものらしい。
それでも、ギルバートが「念話」の魔法を使用中の時であれば、ギルバートを経由することでケルの言葉がエリーにも届くようになったため、三人での会話が実現したのだった。
『一つにはモータル子爵、あるいはレイング男爵自身の面子が傷ついたと判断しての報復の可能性』
『一つには既に婚姻届けを提出して、正式にフォルダー夫人になってしまった御内儀殿をもう一度独り身に戻すため。……交渉するよりよほど手っ取り早いと考えた可能性。その場合、あの場に居た御内儀殿以外の全員を皆殺しにすることで、御内儀殿や、この話を後に聞くであろう他の貴族への脅しにもなると考えたのかもしれぬ』
『一つにはアローズ家、フォルダー家が、言っては何だが取るに足らぬと判断された可能性。大した後ろ盾もなく、始末しても後腐れがないと判断したのだろう。主殿の事も同様に、魔法使いになったと言ってもまだ未成年の小僧に、何ができるものかと舐めておっただろうしな』
『そして、さらに言えば、レイング男爵がモータル子爵に対して阿るため、功を焦って先走ったという可能性も大いに考えられる』
ケルの見解を聞き、ギルバートもそんな所だろうと思った。
あの様子では、レイング男爵は今までにも同様の罪を何度も犯していそうだ。
「……そんな事で……あの、そんな彼らを、そのままにして来てよかったのかしら?やっぱりちゃんとご領主様に突き出すべきだったんじゃ……」
エリーはギルバートが去り際に、アローズ男爵にした忠告が気になっているようだ。
アローズ男爵やギルバートの両親がこの期に及んでも日和見を選び、モータル子爵に阿るため、何もなかった事としてレイング男爵とその使用人を解放してしまう可能性は、確かに無いとは言えない。
そうなった時、両親が口封じに殺される可能性があると聞いては、エリーも心穏やかではいられないのだろう。
「理由は、おじさん達、それにうちの両親の出方を見るためだよ。彼らがレイング男爵を放免するようなら、残念だけど全員、モータル子爵側についたと判断するしかない。悪いけど、完全に袂を分かつことになるね……」
ギルバートは恐る恐る、エリーを横目に見て、申し訳なさそうな顔をした。
エリーが「そんな事は出来ない」「そんなのは嫌だ」と言えば、ギルバートはいきなり捨てられることになる。
淡々と話して見せたが、内心は冷や汗ドッパドパ、心臓バックバクで祈るようにエリーの反応を待っていた。
「……うん、その場合は……仕方ないね……」
エリーは寂しそうな顔でそう呟いた。
ギルバートは、そんなエリーを見て物凄く申し訳なくなったが、一方で最悪の事態を避けられたことでホッと胸を撫でおろした。
何となく話が一段落した、丁度その時、ケルの声がギルバートとエリーの頭に響いた。
『お話し中のところ、申し訳ないが主殿、御内儀殿、そろそろ目的の一帯の上空に差し掛かったようだ』
ギルバートとエリーは眼下に広がる山岳地帯を見渡した。
山岳地帯といっても急峻な山は無く、なだらかな傾斜の山肌を巨大な木々が覆っていた。そしてよく見れば傾斜の中にところどころ大小の窪地が見受けられる。
これは空気中の魔力含有量が多い地域に多く見られる傾向であり、現在もしくは過去において、ダンジョンが数多く存在する、あるいは存在した印であり、魔獣が多く生息する証でもあった。
「……まあ、まずはオレ達の自由を、誰にも邪魔させないために、最低限の力を身に着けるよ!」
「そうね。ギル、気を付けてね!」
「まかせてよ!エリーはオレが守るから!」
「えっ!?も、もう、ギルってば、気をひきしめなきゃ!」
エリーが目を丸くして、頬を染めた。
「もちろん分かってるよ。ただの決意表明だよ!」
ギルバートがグイッ!と、エリーとの距離を縮める。だが、ギルバートの顔も赤くなっていた。
「そ、そーいうの、急だとちょっと恥ずかしいんだけど……」
「ごめん、じゃ、やめようか?」
「…………たまに、だったら……」
「分かった。たまに言うね!」
誰にも見られていないのをいいことに、ギルバートとエリーはお互いに見事なバカップルっぷりを発揮しあった。
だが、二人は新婚初日なのでしばらくはこんな感じでもいいのかもしれない(謎目線)。
ギルバートとエリーは仲良く頬を染めながら、ゆっくりと山岳の斜面に降下して行くのだった。
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本日、3話目、ラストです。
楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。
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次回予定「第二目標の魔法石」
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