ギルバートとエリザベス
2 ギルバートとエリザベス
「ギルぅ~……おはよぉ~……」
ギルバートが家の裏庭で剣術の型稽古をしていると、まだ眠たそうな声がした。
「おはよ。エリー」
稽古の動きは止めず視線だけ声の方へ向けると、自分と同い年の少女がこちらを向いて立っていた。
彼女は寝間着のままという格好で、上に羽織っているガウンはボタンを掛け違っており、さらに腰まで届く長い朱色の髪は緩く波打ちながら、あちこちでぴんぴんと跳ねている。
エリザベス・アローズ。少し幼げな双眸に朱色の瞳と白い肌。生まれた時からお隣さんで幼馴染の男爵令嬢だ。
「エリー、寒くないの?それに、いくらオレ達が平民同然の貧乏貴族でも、さすがにそろそろその恰好はマズくない?」
ギルバートは思わず動きを止めてエリザベスに苦言を呈してしまう。
季節はすっかり秋めいており、朝晩は少しずつ気温が下がってきている。
「……ふぁあ~~あぁ……平気~……、いつもの事じゃない。ここ裏庭だし……、見られるとしてもギルのおうちの人だけよ……なぁに?見苦しいから寝起きでも正装しろって言うのぉ……?」
「い、いや……別に見苦しくはないけど、オレ達も、もうじき成人だしさ……」
「ふぁ~~ぅうん……ギル?……なぁに?」
エリザベスはそんなギルバートの苦言など柳に風とばかりに聞き流す。
と言うよりまだ頭がちゃんと起きていないようで、すぐに手近な木箱の上にへたり込んでしまう。
ギルバートはそんなエリザベスから目を離せず、顔を赤くしている。
それは二人が小さなころからほぼ毎朝続いている恒例行事だった。
当然それは貴族の、未婚の若い男女としてはあり得ない事だったが、幸いと言うべきか、両家は箸にも棒にもかからない、所謂「新興の木っ端貴族」であり、普通の貴族家とは事情が違っていた。
両家は寄り親の貴族家とすら最低限のご挨拶のみで、付き合いのある貴族家といえばお隣同士のみ、お茶会も夜会等も金が無いのでよほどのことが無い限り欠席という貧乏っぷりだ。
当然、両家ともに、使用人など一人も雇っておらず、言われなければ誰も貴族だと気づかない、そんな環境ゆえに二人を咎める者はいなかった。
会話が途切れると、まだ少し赤い顔で朝稽古を再開するギルバート。
自分には父親の様な文官勤めは無理なので、家を継ぐには領主の騎士になるしかない。
数回、父親が招いてくれた先生に教わったし、ずっと訓練してきが、殆ど自己流なので不安だ。
成人する年に採用されなければ、大変なことになる。翌年以降の採用は絶望的だからだ。
ギルバートの訓練が自然と激しくなってゆく。
エリザベスは少しして頭がしゃっきりしてくると、ギルバートの朝稽古をしばらくの間見学してから、満足したように自宅に戻っていく。
それを見届けたころにギルバートも朝稽古を終え、家に入って着替えてから家族と朝食をとる。
それもいつもの朝の流れであり、特に言伝がなければしばらくして、再び裏庭でエリザベスと合流するのが、ギルバートの日課だった。
「ギル!昨日の地揺れ、結構大きかったよね?」
朝食後、ギルバートが裏庭で待っていると、しばらくして、しゃっきりと目が覚めたらしいエリザベスが戻って来て、合流するなり話し始めた。
「ねえ、もしかしたら近くに新しいダンジョンが出来てるかもしれないじゃない?探しにいってみましょうよ!」
エリザベスは、昨日の夜の地揺れで、自分と同じことを考えていたらしく、勢い込んで提案してくる。もちろんギルバートに否やはない。
「分かった。ただの散歩じゃ、親父たちがグチグチうるさいから、ついでに狩りでもしよう」
「そうね、じゃあ弓を持ってくるわ」
「オレも」
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本日、2話目です。念のため
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