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証明と登録

19 証明と登録






 ギルバートの目の前には、ちょっと偉そうな顔をした文官が立っていた。

 

 彼は領主の補佐官の部下の部下か、そのまた部下くらいの下級文官だが、自分の部下の報告を信じていないらしく、ギルバートとエリーを胡散臭そうな目つきで見比べていた。

 

「……で?」 

 

 下級文官の男は、ものすごく横柄に顎でしゃくってきたが、ギルバートはそういう態度は無視して事務的に告げる。 

 

「魔法使いの登録はオレで、婚姻届けはオレと彼女です。オレがギルバート・フォルダー、フォルダー家の長子。彼女はエリザベス・アローズ、アローズ家の次子」 


「ふん、フォルダーとアローズの、な。いいかよく聞け。貴様等は二人とも成人前の身。当然、婚姻にはそれぞれの当主の許可が必要になる。分かったらこの話は終わりだ」


 ギルバートは一瞬、不安になりケルに確認する。

 

 ……ケル?

 

『問題ない。この国の法では、魔法使いが国に恭順を示す限りにおいて、魔法石と魔法の知識や技術を継承するため、様々な例外規定がある。婚姻についても同様で当事者だけの同意で婚姻可能だ。配偶者が未成年でも当主、後見人、魔法使い、いずれかの許可があれば婚姻可能だ。当然、婚姻する魔法使い本人が許可を出すことも可能だ』


 ……えーと、つまり先に魔法使いとして登録してしまえば、その後の婚姻で年齢は問題にならないんだよな?

 

『そういうことだな、主殿よ』 


 ケルに確認して、ギルバートはホッと胸を撫でおろす。

 

 ケルを信じなかったわけではないが、未成年の婚姻については下級文官の男の言う通りだと、ギルバートも当然知っていたので、ちょっと自信を失いかけてしまった。

 

 下級文官の男は魔法使いに関する例外規定など知らないのだろう。五十年もの間、魔法使いが公的には出現していないのだから無理もない。

 



「……それで、お前が魔法石を手に入れたと?」


 下級文官の男が今度は、ギルを重点的に睨めつける。

 

「それは本当に魔法石だったのか?ちょっと珍しい色の魔石とか、変わった形の石ころとかではあるまいな?」


 まるで信じていないらしく下級文官の男は侮蔑の態度を隠しもしなかった。

 

 ……いや、だったらわざわざ登録しに来ないと思うんだが

 

 あまりにも安直で軽率な煽り文句に、ギルバートは呆れたが、脳内で彼を、今後、名前を覚える必要のない男として分類、登録しておいた。

 

「それで、証明はどちらでどなたにお見せすればいいですか?」 

 

 彼との余分な問答は無駄以外の何物でもない。ギルバートは、早く仕事をしろと促す。

 

 ギルバートの態度に、額に浮いた血管をピクピクさせながら下級文官の男は吐き捨てた。

 

「……だったら、今すぐここで魔法を使って見せてみろ。ここには多数の目撃者も証人もいる。もし、ダメだったら我々の職務を愚弄、妨害し、虚偽の申請した罪で、即刻、牢にぶち込んでやる!」

 

 下級文官の男は、すでに親の仇でも見るような目でギルバートを睨み据えていた。

 

 ギルバートは目の前に誰もいなかったように、周囲で観ている下級文官たちを振り返ると、ズボンのポケットに入れてある「飛行」の魔法石に魔力を注ぐ。

 

 

 突如、ギルバートは、下級文官たちの執務室の天井まで浮き上がり、天井に手をついた。

 

 その高さは軽く平均的な人間の成人男性の身長三人分以上はある。

 

「おおぉ!」


「う、浮いたぞ!」


「人間が、飛んでいる!……な、何てことだ……!」 

 

 周囲が騒めくのを聞いて、ギルバートはこれで十分かとも思ったが、つまらない言いがかりを予防するため、直立の姿勢を維持、制御して滑るような不思議な動きで天井付近から降下し、エリーの手を取って再び浮かび上がった。

 

「おおおおぉっ!」


「ま、まさか、これ程とは……」

 

「なんと……魔法とは、斯くも神秘的なものであったか……」 

 

 既に、疑問の余地のない程の時間、空中に留まり続けているので、ギルバートはもういいだろうと判断してエリーと床に着地した。

 

 エリーは、ギルバートの突然の行動に驚いて目を丸くした。

 

 そしてギルバートと目を合わせると、ちょっとだけ咎めるように睨む。

 

 可愛い。失敗した。この姿を下級文官のおじさんたちの視線の中心で披露させてしまうとは。

 

 ギルバートは出来るだけ、周囲の視線を遮るように立ち、エリーを隠す。

 

 それを見ていた下級文官の幾人かは微笑ましそうに少し笑ったが、ギルバートはそれには気が付かなかった。

 

 ギルバートは先ほどから物凄く怒りまくっている下級文官の男に向き直り、言った。


「……で?」


 下級文官の男は、今にも血管がブチ切れそうな顔をしている。


「証明はこれで足りますか?」


「……そのようだな」


「では、魔法使いとして登録をお願いします」


「……すでに聞いた。何度も言うな……オイ、お前」


「えっ?あ、はい」


 下級文官の男は、憎々し気に吐き捨てると、部下らしき男に格式が高そうな紙を持ってこさせる。

 

 そして、手近な机で、自らの名前と今日の日付、証明の内容を書き記し、最後にギルバートへ向けて余白部分を示した。

 

「貴様の署名を」


 ギルバートが黙って署名すると、下級文官の男は用紙を取り上げる。

 

「これで貴様は魔法使いであると証明、登録された」


 下級文官の男は、それでそっぽを向いて何処かへ行ってしまう。そして、入れ替わりに、別の男が当たり前のような顔をして、別の用紙を持って来た。


「では、婚姻届けはこちらの用紙に、二人で署名を」


 ギルバートは少しだけ驚いてその男を見る。頬や額に刻まれた深い皺が、ギルバートの父親世代よりさらに上の世代の人間だと感じさせる。


 意外にも彼は、魔法使いに関する例外規定を知っているらしい。所謂、年の功というやつだろうか。

 

 ギルバートが魔法を披露している間に、届け出用の用紙を用意していたらしい。


 ギルバートは、早速「フォルダー家長子」という肩書の代わりに「魔法使い」と書いてあるその横の余白に、自分の名前を「ギルバート・フォルダー」と署名する。

 

 立ち位置を譲ると、今度はエリーが用紙に向かい、「エリザベス・フォルダー」と署名して、ギルバートを見上げて笑った。

 

 ギルバートもエリーと目を合わせて笑う。




 晴れて二人は、夫婦になったのだった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「男爵達」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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