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告白

16 告白






 一応の用心だけはしているものの、エリーは月明りに照らされ、木の幹に頭を預けて、無防備な様子で眠っていた。

 

 

 ……よかっ………………ったあぁ~~~!

 

 

 張りつめていたものが、一気に緩みそうになり、ギルバートは慌ててグッと気を引き締める。

 

 まだ、夜の森の中にいるのだ。安全とは言い難い。

 

 だが、ものすごく心配していただけに、ギルバートは今、心の底からホッとしていた。

 

 そのとたんに、ギルバートの足がかすかに震え出して止められなくなった。

 

 震える足をそのままにして、ギルバートは覚えたての魔法でふわりと飛び上がるとエリーが座っている大木の太い枝の前までゆっくり移動してゆく。

 

「エリー……起きて、エリー」


 ギルバートが肩を軽く叩きながら声をかけると、エリーがハッとして目を開けた。

 

「ギル!」


 エリーは自分が今いる場所を失念していたらしく、目を覚ました勢いそのままにギルバートに向って手を伸ばし、落下した。

 

「ひゃああああぁっ!?」

 

 間一髪でギルバートはエリーが差し出した腕をとる。

 

 すると、エリーの身体は落下するのをやめてその場にふわりと浮いたままになった。  

「……ギ、ギル!ギルゥ~~~!」


 かなり怖かったらしく、エリーはギルバートの腕にしがみついてブルブルと震え出した。

 

 一方のギルバートは突然この状況に、生れて初めて、苦しくなる程、胸が締め付けられていた。

 

 ギルバートとエリーは同い年だが、時折、エリーは姉貴分のように振舞ったし、ギルバートは自然と受け入れていた。

 

 

 そのエリーが、自分にしがみついて震えていると思うと、なんとも可愛くて、愛おしい。

 

 そしてギルバートは、エリーを守りたいと、心の底から思った。

 



 

 

 

 

 しばらくすると落ち着いてきたのか、エリーが恐る恐る顔を上げて、キョロキョロと周りを見回した。


 ギルバートは一瞬、エリーと離れるのを残念に思ったが、エリーがさっきまで座っていた枝まで二人でふわりと浮かび上がり、エリーを元の位置に座らせる。


 一方でギルバート自身はエリーの前に浮かんだままでいた。

 

 太くて頑丈そうな枝だし、枯れ木でもないので大丈夫だとは思ったが、二人で座ると、枝が折れないとも限らない。


「……ギル……魔法」


 落ち着いたら、今度はギルバートが浮かんでいる事に驚き、エリーは目を丸くした。


「うん、実は昨日の狩りでね……」


 そしてギルバートは、昨日から今日までの魔法に関する出来事をかいつまんで話した。

 

 すると、エリーも朝、ギルが魔法の練習をしているのを見てしまって、ビックリして隠れてしまったことを告げる。

 

 ギルバートはエリーに魔法を隠す気持ちはまるでなかったが、自分がもう少し慎重に行動していたら、朝食後にエリーと会えたこと、何かしら相談出来た可能性があったことを知って後悔した。

 

 だが、それは今考える事ではないと、努めて頭の隅に追いやった。


 次に、ギルバートは家出について事情を聴いた。

 

 概ね、おじさんに聞いた話と同じだったが、婚約相手があの悪評高いモータル子爵の息子と聞いてギルバートは度肝を抜かれた。


 ギルバートから見ても、おじさんはエリーを目に入れても痛くないと言う程可愛がって、甘やかして育てていると思う。


 その可愛い娘を、モータル家のバカ息子なんかに嫁がせなくても、他にいくらでも縁談は来ているはずだ。

 

 それが何故、そんな話になるのかと思ったが、つらい話を思い出してエリーがまた泣き始めたので、ギルバートはあわてて宥める。


「それで……ギルが……ぐすっ、帰ってない……のは、知ってたから……ぐすっ、だったら森かなって……」


 エリーが自分を頼ってくれたことに、一瞬、胸が熱くなるが、同時に自分のせいでエリーが危険な目に遭う可能性があったと知ってギルバートはゾッとした。


「ギル、わたし、モータル家にお嫁に行くなんて、絶対イヤ!死んだ方がましだわ!」


 エリーは自分を抱きしめるようにして、震えていた。


「……わたしの友達が、モータル子爵の息子の元婚約者と知り合いでね、婚約自体、身分的に逆らえなかったらしいんだけど、その上、婚約した途端、急に横柄になってひどい扱いを受けるようになって、ついには大怪我をさせられたんだって。さすがにモータル子爵も婚約破棄を認めたらしいけど、彼女は今も実家で療養の日々を送っているそうよ」


「……それで今度はおじさんに圧力をかけたんだな。噂以上に最悪な奴らだな」


 ギルバートはエリーをこんなに泣かせ、恐れさせるモータル子爵とその息子に対しての激しい怒りを自覚した。

 

 もちろん、元婚約者の怪我は、ただの事故に悪意的な噂が付いただけ、という可能性も無くはない。

 

 無くはないが、その可能性は極めて低いだろう。元婚約者に近しい人間の証言もあるようだし、そもそもモータル子爵もその息子も評判が悪すぎる 

 

 ギルバートのフォルダー家やエリーのアローズ家にとって、子爵家からの婚約の打診など命令に等しい。

 

 家格も権力も財力も人脈も、ほぼ平民の自分達とは天と地ほどの力の差があるのだ。


 エリーが絶望的になるのも無理はなかった。

 

 だが、ギルバートはとうに覚悟は決まっていたから、相手が悪徳子爵と聞いても、絶望はしなかった。

 

 欲を言えば、もう少し時間が欲しかったが、こうなった以上、言っても仕方がないことだ。

 

 ギルバートは一つ、大きく息を吸うと、エリーの目をまっすぐ見た。




「エリーの気持ちはよく分かったよ。だけど、どうせ死ぬ気ならその前に、オレと結婚してくれないか?」



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「エリザベスの気持ち」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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