表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/130

捜索

15 捜索






「ギル!ギルバート!うちのエリザベスと一緒じゃなかったのか!?私はてっきり……」


 エリーの親父さんであるアローズ男爵が火事で焼け出された平民のおやじのようなボロボロの様子でギルバートの肩を掴んだ。

 

「うぐっ!?……うぅ」


「なっ!?ス、スマン、どうした、ひどい怪我じゃないか!?」

 

「ぉ……おじさん!エリーが行方不明って、何があったんです!?」

 

 遠慮なく両肩を傷ごと掴まれて、ギルバートは激痛に顔を歪めたが、逆に会話の主導権を握る事が出来た。

 

「それは……それは、当家の問題だ。ギルが何も知らないのであれば、これ以上何も話すことは……」 

 

「おじさん!そんな事を言っている場合ですか!?もうこんな時間なんですよ!?一刻も早くエリーを見つけないと!手がかりがあるなら、少しでも教えてください!オレも探しますから!」 

 

 しばしの沈黙のあと、おじさんは苦々しい表情で、エリーの婚約が決まったこと打ち明けた。 

 

 そして今日の夕方、帰宅後に妻と娘を呼んでその事を告げたところ、絶対に嫌だというエリーと口論になり、エリーはそのまま部屋に閉じこもったという。

 

 ところが、夕食になり、母親がエリーの部屋に呼びに行くと部屋は空っぽで誰もいなかった、というのが事の顛末らしい。


「……でも、どうしてそんなに急に……いったい、相手は誰ですか?エリーが家出するほど嫌がる相手との婚約を、何でそんなに急いで決めたんです?」


「……それは、君には関係ない事だ」 

 

 先ほどまでの動揺は表面上、鳴りを潜め、おじさんはアローズ男爵の顔になっていた。

  

 こういうのを「腐っても貴族」と言うのか、とギルバートは妙に感心させられた。

 

「そうですか。ではオレもこれで失礼します」


 ギルバートは母親やアローズ男爵を尻目に急いで家に入ると、装備も解かずに台所へ直行した。

 

 それから戸棚をあけてパンとジャムのビン詰と焼き菓子入りの箱、スプーンとフォークを数本ずつを取り出し、一回り大きな袋に詰め込み、それを持って台所を出ると早足で自分の部屋へ向う。

 

 部屋に戻るとギルバートは装備の上から、くたびれた古着のコートを着込み、窓を開けると、急いで窓から飛び出した。

 

 フォルダー家とアローズ家の前の道ではまだいくつか灯りが動いていたが、街はすでに闇に包まれていた。

 

 それでも家から直接飛べば、誰に目撃されるかも分からないのだが、彼是あれこれと斟酌する余裕は、今のギルバートにはなかった。

 

『主殿、落ち着きたまえ。急いで向かうのは当然として、心当たりはあるのかね?』


 もちろん心当たりなどないギルバートは、街の上空を全力で飛び越えながら、少し考える。


「……友達のところに転がり込んだなら、心配ない。後日、無事に戻ってくるか連れ戻されるかするはずだ。他にエリーが行く可能性のある場所と言えば、東の森しかないと思う……可能性はかなり低いけど」


『なるほど、森だとすれば一刻を争うな』

 

 ギルバートは頷きながらエリーの事を考える。

 

 思えば、毎日会って話をしているのに、ギルバートはエリーに友達がいるかどうかも知らなかった。  

   

 家に誰かが遊びに来ているのを見たことは無い、気がする。

 

 だが、外で会っていれば分からないし、家に遊びに来たことがあっても、エリーにしか興味がなかったギルバートが覚えていないだけかもしれない。  

   

 ……友達の家に逃げ込んだのであってくれ

 

 ギルバートは祈りながら全力で飛び続けた。

 

 歩けば家から半刻近くかかる東の森にも僅かの時間で到着する。

 

 森の上空から見ても、森の中は真っ暗でよく見えないので、森の端で地面に降りてギルバートは歩き出した。

 

 西の森もそうだったが、夜の森は闇が濃い。

 

 木々の隙間から星や月の明かりが降り注ぐ、その周囲のわずかなエリアだけは少し明るいため、逆にそのエリアの外では闇がさらに深くなるようだった。

 

 夜の森では昼の森とはまた違う虫達の声や、獣達の立てるガサガサという音がする。

 

 時折、獣達の気配を間近で感じる事もあり、街の近くの森であっても死ぬほど恐ろしい。

 

 万が一、エリーがまだ森の中に居るんだとすれば、恐怖で震えているかもしれない。

 

 そう思うと、ギルバートは居ても立っても居られなかった。

 

「エリー!」

 

 ギルバートは焦る気持ちを抑えつつ、狩りの時、二人で一緒に歩くコースを、エリーを探しながら歩いた。

   

「エリー!いるなら返事をしてくれ!」



 一刻ほども探し歩き、ギルバートはいつものコースの折り返し地点に到着した。

 


「……これ以上奥に行くという事はないと思う。夕方に家を出たエリーがここに到着したとすれば、既にかなり暗かったはずだしな」 

 


 そう判断してギルバートが踵を返し、来た道を戻ろうとした、その時。

 

『主殿、当たりのようだ。右の木の上を』






 ギルバートは急いでケルに示された方向を探す。

 

 すると、大きな木の幹の高い位置にある、そこそこ太い枝の根本に、雲が流れたのか、月の光が降り注いだ。

 

 

 

 そしてその太い枝の根元に、紐で体を縛って固定した状態で座り、眠っているエリーがいたのだった。 



************************************************

本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


************************************************

4話にギルとエリーの会話シーンのイラストをアップしました。

良かったら見てみてください♪

https://ncode.syosetu.com/n0097ik/4/


************************************************

次回予定「告白」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ