失踪
14 失踪
ギルバートは、一つ目の目標である「飛行」の魔法石を手に入れたが、ある程度、空が暗くなるまで、巨木の森で「飛行」の魔法の練習に時間を費やした。
ギルバートが街の付近まで、森の上空を一気に飛んで帰る時、極力、目撃されないためだ。
「念動」の魔法の習得があまりにも簡単だったため、「飛行」も同様だと高を括っていたギルバートは、練習を始めてすぐに思い違いに気づかされた。
そもそも「飛行」の魔法石はケルが取り込んでいないので、相性、適正が有るかどうかから試す必要があった。
実際、全ての計画も目標も、いきなり此処でとん挫する可能性があったのだが……。
ギルバートが恐る恐る魔力を送り出すと、「飛行」の魔法石は僅かの抵抗もなく、魔力の注入を受け入れた。
ホッと胸を撫でおろしたギルバートだったが、それで終わりではなかった。
「念動」の魔法の場合、魔法の腕を生成して装備する、二組目の腕のようなもので、腕を動かす感覚は元々ギルバートの中にあった。
だが「飛行」の魔法の場合、その当たり前の感覚がなかった。
魔力を注入しても、ギルバートの感覚による舵取りが未熟で、なかなか浮き上がらなかったり、進まなかったり、急に落下したりと散々だった。
いきなり木の上から飛び出したりしなくて、本当に良かった、と冷や汗を掻いたギルバートは、ほんの少し浮かぶところから始めた。
少しずつできることを増やしていき、ようやく「飛行」と言える程度の体裁が整ったころ、既に辺りは真っ暗だった。
この辺りの「主」かもしれない大蜥蜴の魔獣を倒したとは言え、他にも危険な獣や魔獣がいるかもしれない。
そう思うと、ギルバートは急に森の闇が恐ろしくなり、慌てて「飛行」の魔法に魔力を注いだ。
木々を飛び越えて森の上空に出ると、星も月もあって結構明るかったので、ギルバートはホッと一息ついた。
あれほど時間を掛け、苦労して歩いた森だったが、木々の上を一直線に飛べばあっという間に森の端が見えてきた。
目を凝らせば、穀倉地帯にはもう人影はなかったが、念のため地上に降りて歩くかどうか、ギルバートは少しだけ迷った。
だが、ギルバートは今日、昼食抜きだったので既にお腹はぺこぺこ、怪我をして消毒と止血をしただけの両肩は酷く痛む上に、一日歩いて走った両足もガクガクだ。
とても馬鹿正直に歩いていられないとばかりに、森の端の上空も飛び越えたギルバートは、門衛から見えるか見えないかギリギリという辺りまで、低空で飛行した。
やっとの事で門までたどり着いたギルバートを見て、当直の門衛達が少しざわついたが、怪我は森の奥で魔物に襲われたせいであり、魔物は討伐済みだと説明して事なきを得た。
門衛たちは、ギルバートの怪我を見て、そこまでの怪我をして素材も成果も、何も持ち帰っていなさそうな様子を確認すると、大いに同情したり、哀れんだりした。
ギルバートは苦笑し、適当に相槌を打ちながら街門の脇の小門を抜けてやっと街に入った。
早足で歩いて、家の近くまでようやく帰り着いたとき、ギルバートは自宅付近の異変に気付いた。
普段、この時間なら静かな貴族街の端っこの端っこ、平民街にほど近い場所にある自宅と、お隣のアローズ家の周りにいつもより多めの灯りがともり、しかもそれが右往左往している。
慌てて灯りに走り寄ると、灯りはアローズ家の人々の他に、ギルバートの母親、それに幾人かの野次馬?……か、どうか分からないが近所に住む誰からしい。
「母上!何があったんですか!?」
「ギルバート!あなたこんな時間まで、いったい何処に……!?その怪我はどうしたのっ!?まあ!なんて酷い!」
ギルバートは母親に駆け寄って問いただそうとするが、ギルバートのあまりの格好に小パニックを起こしてしまい、問答にならなくなってしまった。
ギルバートは丁寧に、消毒と止血はしたので大丈夫だと伝え、今何が起きているのかを母親から必死に聞き出そうとする。
「あ、あなたは大丈夫なのね?」
「大丈夫です。全然平気ですよ、ほら。それより、いったいどうしたんですか?アローズ家に何かあったんですか?それともうちに?」
母親が一瞬、ホッとした表情になり、それからまた心配そうな顔で口を開いた。
「……エリーちゃんが、居なくなっちゃったらしいのよ、最初は、あなたが一緒なのかと思って焦ったけど……こうなると、逆に心配ね」
************************************************
本日、1話目。2話更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。
************************************************
4話にギルとエリーの会話シーンのイラストをアップしました。
良かったら見てみてください♪
https://ncode.syosetu.com/n0097ik/4/
************************************************
次回予定「捜索」
読んでくれて、ありがとうございました♪
もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます