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エピローグ3

129 エピローグ3






 王城襲撃と国王の敗北宣言から半年ほど過ぎた頃。

 

 王国はすんなりと落ち着いた訳ではなかった。反魔法使い、反国王、反貴族を掲げて騒ぎ立てる有象無象は掃いて捨てるほど出現したが、これまで特に目立った失策の無い国王は支持基盤がしっかりしており、事態は緩やかに回復、鎮静化していった。

 

 魔法使いギルバート・フォルダー・グレイマギウスは表社会から完全に姿を消していた。

 

 恐ろしい魔法使いが消えたことを悲しむ者は少なかった。

 

 だが、魔法使いが死んだわけではないことは皆知っていた為、おおっぴらに喜びを語って、魔法使いに目を付けられることを恐れ、魔法使いの話題はタブーになっていた。

 

 だが、更に半年ほど過ぎる頃には、そんな雰囲気は早くも風化し、時折、「魔法使いギルバート」を名乗る成りすましや詐欺事件も起こるようになった。

 

 ただ、どの事件も暫くすると、成りすましている人間や詐欺業者や詐欺貴族が忽然と姿を消すことから、「魔法使いギルバート」を騙ると「祟る」という新たな噂が広まり、同様の事件はほぼ、起こらなくなった。

 

 

 一方で、グレイヴァルの様々なギルドは魔獣肉の納品復活を期待していただけに、大いに落胆した。

 

 おかげで一時、ただでさえ高い魔獣肉がさらに高騰し、局地的な経済的混乱を齎した。

 

 ところが、魔法使いが消えて暫くしたころ、小柄な壮年の冒険者夫婦が頻度はそれほど高くないものの、定期的に魔獣肉を持ち込むようになった。

 

 

 

 二人はすぐに複数のギルド推薦により中級冒険者として認められ、知る人ぞ知る存在となっていったのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「エリー!行ったよ!」


「任せてッ!」


  

 巨木の森に二人の声が響くと同時に、蹄の暴れる重低音が響き渡った。

 

 待ち構えるエリーの双眸には、頭部の巨大な二本角をで突撃してくる、牛型の魔獣が映っていた。魔獣の巨大な身体の両側面にはナイフのような無数の突起を生やしており、側面を掠めただけでも斬り刻まれる殺意の高い仕様だ。

 

 その巨大牛との距離がゼロになる直前、エリーは残像を残す勢いで身を躱し、巨大牛はエリーの背後に屹立していた巨木に激突する。

 

 大抵の魔獣を一撃で仕留める巨大な角が巨木に深々と突き刺さり、巨大牛の力でもビクとも動けなくなったのを見て、エリーは笑った。

 

「今日は大物だね♪」


「うん。これであちこち配れるな」


 ギルバートは剣を抜いて、一気に巨大牛の首を落とすと、「念動」の魔法の腕で持ち上げつつ、手早く内臓の処理を済ませた。

 

 巨木の森の地面の一部を「沼化」して、内臓など要らない部位を沈めると、血抜きをしながら隠れ家までエリーとケルと三人で飛んで帰る。

 

 隠れ家で、売却する分、知り合いに分ける分、自分達で食べる分、肉以外の素材と切り分け、その日のうちに、あちこちの知り合いに配って回る。

 

 立ち寄り先にはギルバートが肉を置いていけるように、常に清潔にしてある籠が用意されているので、忙しい時は声を掛けずに肉だけ置いて帰るのだ。

 

 ちなみに今の立ち寄り先は、シャルロット、アンナおばさん、クリスとモニカ、ギルバートとエリーの実家、そしてちょっと遠いがベルファームの屋敷だ。


 最終決戦の後、ギルバートはエリーと二人でエリーの友達のクリスとモニカをこっそり訪ね、イシュティ達と会った日の自分の行いの事を謝罪した。


 クリスとモニカはそれぞれ、やや表情を引きつらせながらも、エリーの手前故かギルバートの謝罪を受け入れた。そして、定期的に魔獣肉を持ってくると分かると、二人のギルバートに対する愛想は非常によくなった。


 これにより、エリーはまた友達と交流可能になり大いに喜んだので、ギルバートもホッと胸を撫でおろした。

 

 ベルファームには領主の城にも自室があるが、普段は第三夫人の母の屋敷で暮らしているため、そちらに届けている。

 

 正直、ベルファームはギルバートにとってはほぼ無関係の他人だったが、エリーが何故かそれなりに気にかけている友達らしく、無視できなかった。


 

『それにしても、エリーは随分上達したな』

 

「そぉ?まー、多分直接攻撃でも倒せたと思うけどね」


「凄いと思うけど、それはやめてくれ」 


「もちろん、やらないよ♪」


 

 ギルバートは、手を繋いで飛びながら、上機嫌で鼻歌を歌うエリーを見る。

 

 なんとエリーは、王城で回収した大量の魔法石を整理するため、何気なく触れた瞬間、違和感を感じ、魔力を通してみたら、魔力が通る魔法石が幾つも発見したのだ。

 

 ケルが目を丸くして驚きながら推測するには、疑似魔法石にして使っていたせいで、適正や相性が向上したのかもしれない、らしい。

 

 それが本当であれば、意図的に魔法使いを作ることが出来るのではないだろうか。もしそうなら、世界がひっくり返る程の大発見、大発明だが、もちろんそんな情報を公開する気はない。


 ともあれ、エリーは今では「結界」の魔法も「身体強化」の魔法も、疑似魔法石ではなく魔法石によって使えるようになっていた。

 

 そしてほぼ毎日の狩りで使って練習することで、もはやその辺の騎士が束になって襲ってきても安心して見ていられるほどの実力になった。

 

 もちろんあくまで実力としては、の話であり、実際には安心して傍観していられるわけではないのだが。

 

 

 そんな感じで、魔獣肉を配り終わり、隠れ家に帰ってきて暫くすれば、夕食の時間だ。今日のメニューはエリーが慣れた手つきでパパっと作ってくれた魔獣肉のステーキと魔獣肉スープである。

 

 だが、笑って食べ始めたエリーが、突然口を押えてトイレに走っていった。

 

 なかなか出てこないエリーが心配で、ギルバートは追いかけて声をかけた。

 

「エリー、大丈夫か?どこか怪我してたんじゃないのか?」


「……だ、だいじょ……おぇっ!……だ、大丈夫……っ!」


 トイレからは全然大丈夫そうじゃない声が聞こえてくるし、エリーは一向に出てこない。

 

 その後も大丈夫としか言わないエリーが心配でギルバートが部屋中をうろうろしていると、ケルが念話で言った。

 

 

『……エリーよ。もしやアレではないのか?』


 ……ソレ……だと思うわ…… 

 

 

 何やらケルとエリーが二人だけで通じ合っている。

 

「……アレとかソレとか、何なんだ?」


 ギルバートがちょっとイラっとして聞くと、ケルがおどけて嘴の端を吊り上げた。

 

『アレといえばアレであろう?某の口から一番に告げることなどできぬ、アレだ』


「だから、アレって何だよ!?」


『ギル……おぬしという男は……はぁ』


 ケルが大げさに肩(翼)を竦める。


 ギルバートはブチ切れて「念動」の魔法の腕による魔法バトルを挑んでゆく。ケルは平然とそれを受ける。

 

 エリーがトイレから出てくるまで静かな魔法バトルが繰り広げられた。



 エリーがトイレから出てくると、ギルバートはケルの大きな爪で頭をがっちりと踏みつけられて、床を這い蹲っていた。

 

「……二人で何してるの?」


 エリーは半眼の呆れ眼でギルバートとケルを見下ろした。

 

「エリー!大丈夫なのか!?」


 ギルバートがケルを頭に装備したまま突撃してくる。

  

「ああ、大丈夫。多分、妊娠してるだけだから」 

 

 エリーが軽く手を上げてギルバートを止めると、一言、世間話のように何げなくそう言った。

 

 

「えっ?」


 その瞬間、ギルバートの全思考が停止した。

 

「多分、妊娠してるとおもうわ」


『おめでとう二人とも』


「ありがとう、ケル♪」


 ギルバートは二人の言葉を、どこか遠くから聞いてる感じだった。

 

 

 

 そして、暫くそのまま放心した後、ギルバートはようやく、喜びを爆発させたのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 数年後。

 

 

 グレイヴァルの街では、吟遊詩人たちの歌う、ある歌が流行していた。

 

 この街で生まれた少年が大魔法使いと呼ばれるようになるまでの歌だ。

 

 東西南北の街門近くや市場、中央広場、宿屋や酒場などで、人々のリクエストに応えて何度も歌われるので、今やグレイヴァルの街でその歌を知らない人はいないと言えるほどだった。

 

 そんなグレイヴァルの平民街の、裏路地を少し登ったところにある大きな家に住む鍛冶屋の老婦人、アンナおばさんは来客を迎えていた。

 

 

「おや、久し振り、よく来たね。さあ、入っておくれ」 

 

 

 客は三人と一羽。若い夫婦とまだ小さい女の子、それに奥方と同じほどもの体躯を持つ巨大な鳥型魔獣という組み合わせだった。

 

「お久しぶりです」


「アンナおばさん、元気してた?」


「元気元気。こっちは変わりないよ」


 若夫婦と老婦人が和やかに挨拶を交わす間に、小さな女の子は家中を探検し始める。 

「……それにしても、こないだまで赤ちゃんだったのにねぇ!」


 アンナおばさんが女の子を見て、目を丸くする。

 

「もうすぐ三歳よ♪」


「もうそんなかい!?月日の経つのは早いねぇ」 

 

 感慨深そうに一人頷いたあと、アンナおばさんは今思い出したかのように言った。

 

「そういや、ギルはいつの間に大魔法使いになったんだい?」


「ブハッ!?……ゲホッゲホッ!?」


 突然のその言葉に、若夫婦の夫の方がお茶を吹き、咳き込んだ。

 

「あはははっ。あの歌ね♪」  

 

「ブホッゲホッ……アレは、国王陛下のせいなんですよ。陛下が例の宣言の時、昔の『大魔法使い』の話の後、うっかり同じ様にオレのことを『大魔法使い』って言っちゃったのを、吟遊詩人が拾ってしまって……」


 王都などではまだまだ忌避感が強く、「新しい大魔法使いの歌」など歌えないので、吟遊詩人達がこぞってグレイヴァルにやってくるようになったのだ。

 

「まあ、久々に会えたんだ。今日はゆっくりして行きなよ、大魔法使い様」


「……それはどうも」


「あははは♪」



 その後、旅装を解いた若夫婦は、アンナおばさんとゆっくり旧交を温め、一晩泊まった翌朝、「また来ます」と言って、「グレイヴァル上空へ」と舞い上がり、消えて行った。

 

 裏路地とは言え、昼間はそこそこ人通りもあるのだが、誰一人として、一組の家族と鳥型魔獣が空に舞い上がるのに気づきもしない。

 

「……魔法ってのは、良く分からないけど、凄いもんだねぇ」




 感嘆の溜息をついた後、アンナおばさんは彼女の日常に戻って行ったのだった。

 

 

<完>



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本日、2話目。3話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「余談」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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