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敗北宣言

127 敗北宣言






 ギルバートにとっては魔力を削り合う大激戦だったが、最後はエリーの魔法によって呆気なく決着した。

 

 ケルとエリーの魔法はギルバート達のパーティの隠し玉であり切り札だった。

 

 そのエリーの活躍で決まったことは、パーティとして喜ばしいことだったが、エリーの咄嗟の機転が無ければ、またしても相当マズい状況だった。

 

 ギルバートもケルも動きづらい状況で、ビスマルクス宰相の実力も未知数のまま、全てをエリーに任せざるを得なかったことは正直、忸怩たる思いだった。

 

 そして国王が降伏を宣言したとは言え、実際にはまだ何も終わっていなかった。何しろ、未だにお互いの魔法攻撃は続いていたからだ。 

 

 

「……えー、国王陛下の降伏宣言は承りました!つきましては王宮魔法使い達の魔法を即時停止してください!」 

 


 ギルバートは、非常に消耗していたが、気合を入れなおして大声を張り上げた。

 

 ギルバート達を取り巻いている文官達がどよめいたが、数瞬後、ギルバート達の「結界」の魔法の盾に対する圧力が無くなり、同時にギルバートとケルの「重力視」の魔法で、視界に居る殆どの人間が蹲り、床に這いつくばった。

 

 横目で玉座の方を見ると、さすがに国王とその周囲に侍る臣下数人は無事だったので、国王周辺だけは「結界」の魔法の盾を張っているようだった。

 

 ギルバートもそこに文句を言うつもりはない。やることは山ほどあるので、どんどん処理していきたかったせいでもある。

 

 此処でひとまず、エリーが「水」の魔法を解除し、ビスマルクス宰相を水球から解放した。

 

 流石に時間を掛け過ぎると、殺してしまうかもしれなかったからだ。別にビスマルクス宰相が死んでもギルバートは何の痛痒も感じないが、国王の慌てぶりからしても、ビスマルクス宰相を死なせると、また別の戦いが始まりそうだ。

  

 水球から解放した後、今度は、縄によって手足をギッチギチに拘束し直した。その後、ケルが「念動」の魔法の腕でビスマルクス宰相の腹部を圧迫すると、彼は咳き込みながら水を吐き出し、息を吹き返した。

 

 その後、ビスマルクス宰相の首元から、「念話」の魔法石のペンダントを回収する。



「では、今から魔法石を回収します。魔法使いの皆さんは頑張って魔法石を取り出して提示してください。どうしても取り出せない人は、挙手をお願いします」


 ギルバートがそう宣言すると、皆、苦しそうにジワジワと身動きし、魔法石やそれを入れている小袋などを取り出し始めた。

 

 それをエリーが「水」の魔法の水流と水球で捕らえて回収していく。

 

「水」の魔法はかなりの有効射程距離を有しており、エリーの操作技術もあいまって、まるで小舟が川を下るように次々と魔法石がギルバート達の元に集まった。


 同じ要領で武器も回収し、謁見の間中央に山積みにした。

 

「では今から魔法を解除しますので、国王陛下の周囲に残った魔法使いも魔法石を提出してください」


 そう言って、ギルバートとケルが「重力視」の魔法を解除すると、謁見の間全体に安堵のどよめきが響いた。

 

 国王の両脇に控えていた「結界」の魔法使い達からも魔法石を回収し、次に国王以外、全員壁際に整列させ、ケルが一人ずつ「念動」の魔法で魔法石を隠し持っていないかを再確認し、謁見の間から追い出してゆく。

 

 ケルの「雷」に倒れた文官や王宮騎士達も同僚たちが運び出した。


 重臣や側仕えは気色ばみ、追い出されることを拒んだが、ギルバートは一切取り合わなかった。

 

 最終的に国王と王太子、それぞれの側仕え一人ずつ、あとは気絶して縛られているビスマルクス宰相の五人を残して、全ての人間を謁見の間から追い出すと、ギルバートは停戦交渉に乗り出した。

 

 交渉と言ってもギルバートの要求を一方的に押し付けるだけだ。念書もあるので、それに幾つかの項目を付け足し、国王が頷き、署名する事であっという間に終わった。


 内容は概ね以下の通り。

 

 

 ・ゼクストフィール王国は、ギルバート夫妻への大逆罪を取り消し、冤罪であった事を謝罪する。

 

 ・ゼクストフィール王国とギルバート夫妻は、今後、お互いに仲良く出来るよう努力する。

 

 ・今後、ギルバート夫妻が攻撃を受けたら自分で捕まえて罰するが、それに関して国は一切感知しない。

 

 ・ゼクストフィール王国の身分関係はギルバート夫妻には適用しない。

 

 ・ギルバート夫妻はゼクストフィール王国中で好きなように生活し、経済活動を行い、移動する。

 

 ・ギルバート夫妻はゼクストフィール王国内では出来るだけゼクストフィール王国の法を守るが、事情がある場合は個別に国王、または宰相と話し合う。

 

 ・ゼクストフィール王国側からギルバート夫妻への連絡は一切しない。ギルバート夫妻から連絡がある場合は毎年一回、王家の森の塔の天辺に伝言を置く。緊急の場合はギルバート夫妻が国王の私室を訪う。

 

 ・王宮魔法使いのグレイヴァル領への立ち入りを禁止する。この禁を破った場合、ギルバート夫妻への攻撃と看做す。

 

 

 と、言う感じで、ギルバート達が王国の貴族たちに煩わされずに暮らすために必要な内容の取り決めになっていた。

 

 だが、まだ現状ではこの取り決めがキッチリと守られるかどうか、口約束より心許ない。

 

 ギルバートは謁見の間の扉を開けると法務大臣を呼んだ。幸いにして王城に取り残された中に居たらしく、彼を連れて謁見の間に戻り、また扉を閉ざす。

 

 そしてギルバートは法務大臣に対し、たった今、国王と合意した内容を魔法使い関連の特別法として明文化し、公布することを国王から命じてもらう。

 

 当然のように、法務大臣は断固拒否したが、「重力視」の魔法と「念動」の魔法の腕で「説得」した。

 

 ギルバートとしては最終的に頷くのだから、いちいち抵抗するな、と苛々した。

 

 国王の手前、臣下としては重要なパフォーマンスなのかもしれないが、どうでもいいことに付き合う身にもなって欲しい。


 こうして、急遽、王都中に触れが回され、翌日、全領地に先駆け、王城の広場で特別法の布告が行われることになった。


 

 ギルバート達は王家の森に建てた塔に、王太子である少年とビスマルクス宰相を、人質として連れてゆき、一晩を過ごした。

 

 ビスマルクス宰相の縄の拘束は解かず、王太子と二人で最上階層に閉じ込め床の入口を塞いだ。

 

 一応、空気穴として、壁には人が通れない程度の窓をいくつか開けておいた。

 

 少年には酷な仕打ちかも知れないが、ゼクストフィール王国が約束を果たすまでは戦時である。

 

 それに同じ場所にいればエリーが子供に仏心を出して甘やかしてしまいそうだ。そんな事は断じて認める訳にはいかない。

 


 深夜か早朝にでも、秘かに王宮魔法使いが救出にやってくるかと思い、ギルバートは「警報」の魔法を発動したまま就寝したが、誰も引っかからなかった。



 そして、何事もなく翌日の正午を迎え、王城広場にはたくさんの王都住民が集まった。

 

 彼らに向い、法務大臣が「魔法使いに関する特別法」の説明を行った後、国王が登壇し、法の内容を布告した。


 その内容に、国民はどよめき、大いに騒めいた。

 

 どう聞いても「敗北宣言」、良くて「魔法使い優位の停戦合意」といった内容だったからだ。

 

 その上、「王宮魔法使い」という、今まで聞いた事もない存在まで明らかにされていた。


 

 最後に国王がギルバートと話し合っていなかった内容の声明を発表した。


「……国民諸君、五十有余年の昔、当時の国王と王女はゼクストフィール王国に大いに貢献してくれた大魔法使いに対し、不義を行い、結果としてゼクストフィール王国は大魔法使いを失った。そして今また、予は大魔法使いギルバート・フォルダー・グレイマギウスの逆鱗に触れ、彼の信頼を失った。愚かな国王を許してほしい。そして賢明なる国民諸君は予の轍を踏む事のなきよう、願うものである」


 この、国として前代未聞の法律や、国王の声明を受け、王城広場は怒号と混乱に包まれた。

 

 誰が何を叫んでいるのか、何を言おうとしているのか、誰も聞こうとしていなかったし、暫くの間、全く収拾がつかなかった。

 

 

 

 そんな中、国王がひっそりと私室に戻ると、其処には王太子と拘束を解かれたビスマルクス宰相の姿があったのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 国王ルクスファウストは、王太子に駆け寄ると思い切り抱きしめた。

 

 まだ少年である王太子も、よほど恐ろしかったのかひしとしがみ付いて涙を流す。

 

「……済まぬ……予が愚かだったばかりに、恐ろしい思いをさせた」


 ルクスファウストは大魔法使いを怒らせた先祖の王を愚王と罵った事もあったし、自らは絶対そんな事にはならないと思っていた。

 

 だが、結局、自分も愚王であったと自嘲の笑いを浮かべた。

 

 我が子と、長年の盟友であるビスマルクス宰相を死なせずに済んだことが、不幸中の幸いであった。

 

 

 

 ルクスファウストは、金輪際、魔法使いと関わり合いになるまい、と心に誓うのだった。



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本日、3話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「その後の事3」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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