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謁見の間

124 謁見の間






 人影の絶えた王城の廊下を、ギルバートとエリーとケルが進む。

 

 途中の部屋にも人は居るかもしれないが、それが貴族か平民か、戦闘員か非戦闘員かも分からない。

 

 一つ一つの部屋を確かめていては、戦闘員が居た場合、いちいち戦闘になるし、人が居ても居なくても探索作業に相応の時間を要する。

 

 ギルバート達はまず謁見の間を捜索することにして、そこに至る道を、所々「土」の魔法と「硬化」の魔法で封鎖しながら進んでいた。

 

 謁見の間までの順路はケルが知っていたので、三人は迷わず謁見の間まで到着した。

 

 謁見の間は静かではあったが、中からたくさんの人の気配がした。

 

 ……居るね?

 

 ……うん。ここで間違いなさそうだ

 

『私室の方であれば、捕らえるのも敵の排除も楽だったのだがな』


 ケルが念話でそう言って嘆息した。

 

 ……まあ、それはしょうがないよ。それより、いよいよだけど、二人とも、準備は良いね?

 

 ……いいよ!

 

『問題ないぞ』


 ギルバートは頷くエリーとケルの顔を順に見ると、一つ頷いた。


 ……よし、じゃあ行くよ! 

 

 振り返って、ギルバートは謁見の間の大きな扉を「念動」の魔法の腕で押し開けた。

 

 そして、「念動」の魔法を解除すると、「結界」の魔法の盾を、自分の頭頂部を根拠地にして六重に発動する。

 

 根拠地を手ではなく頭にすることで両手を空けた。魔法の盾は今までで最高の六重成型だ。これ以上の数でも成型できるとは思うが、制御が怪しくなるので、破られたらその都度再成型するしかない。

 

 謁見の間に入って、通路を進むと全体が見えてきた。

 

 壁際にずらりと文官らしき者達が並び、正面の玉座には黄金の髪、黄金の瞳で異様なほど美しい壮年男性、国王ルクスファウストが。その周囲に重臣らしき文官武官が侍り、玉座の手前に王宮騎士団が陣取っている。

 

 だが、王宮騎士達の数は十人余り。どうやら作戦通り、大幅に敵戦力を封じる事に成功したようだ。

 

 ギルバートはそのまま、頭を動かさないように全体を観察した。やはり、周囲に立っている文官達の一部あるいは全員が魔法使いということだろうか?だとすると相当な数である。

 

 まるで、わざわざ周囲を囲まれる為に、自ら飛び込んでいる様な状況だった。

 

 だが、たとえ罠の可能性が極大であっても王国と「話し合う」為には行くしかない。

 

 単純に戦って雌雄を決してもいいが、確実に勝てる保証もなく、今の作戦より勝率が高いかどうかも分からない。何より、王と重臣たちを殲滅してしまったら、他国の侵攻を許し、この国に混沌と破滅をもたらしてしまう。

 

 数は少ないがこの国には自分達が気に掛ける人達も暮らしているのだ。ギルバート達は話し合って「分かってもらう」ほうを選択した。

 

 ギルバートは王宮騎士団の隊列から十数歩ほどの地点で止まった。この位置であれば十分、国王がケルの「雷」の魔法とエリーの弓の射程圏内に入るし、それほど声を張らずに会話できる。

 

 

「……久しいな、魔法使いよ」



 不思議な、良く通る声で国王ルクスファウストが口火を切った。 

 

 

「お久しぶりです、国王陛下」 

 

 

 ギルバートが軽く会釈すると、周囲の王国家臣たちが不穏に騒めいた。

 

 ギルバートの態度があまりに無礼、不遜であるという声が幾つも聞こえてくる。

  

  

「良い。皆、騒ぐでない」



 ルクスファウストが軽く手を上げると、騒めきは小さくなりほぼ消えた。

 

 だがギルバートとしては、そんなものに構ってはいられなかった。なにしろ王宮騎士団の隊列がはち切れんばかりの闘気を発していたからだ。

 

 

「……遺憾ながら、我が国は其方等を罪人として指名手配しておる。何故、此処に参ったのだ?」 

 

 

 ルクスファウストの表情にも声色にも、恐怖や焦り、怒りや侮蔑といった否定的な色は見えなかった。

 

 単に、圧倒的な勝利を確信しているだけかもしれないし、そうではないかもしれないが、どちらにせよ、こういう所は流石に王者の貫禄というものだな、とギルバートは感心した。

 

 

「オレ達にとっては、無実の罪です。アドリアーノ公こそが罪人であり、オレ達は被害者であり、身を守っただけであるという事を認めていただきたく参上しました」



 玉座でルクスファウストは軽く頭を抱えた。

 

 

「話は聞いている。弟の所業のせいで其方等に大変な思いをさせた事は、兄として慚愧に耐えない」 



 王宮騎士団の様子とはかけ離れた、ルクスファウストの言葉と態度に、ギルバートは一瞬、困惑した。

 

 ルクスファウストの発言は非公式ながら、実質、謝罪に等しい。

 

 まさか、自分達の主張が認められるなどと言う事があるのか?と、ギルバートは虚を突かれた。


 だがそれは、ルクスファウストが死者に手向ける言葉だった。


 ルクスファウストの言葉と共に、周囲から一斉に魔法が降り注ぎ、ギルバートが六重に張った「結界」の魔法の盾四枚を突き破った。

 

 一瞬遅れて、周囲から雨の如く矢が降り注ぐ。

 

 ……ケル!エリー!

 

 ……うん!

 

『了解ッ!』

 

 魔法の攻撃が不意打ちで来るだろう、と言うのは想定済みだったので、焦りは無かったが、想定以上の攻撃力だった。恐らく敵魔法使いの数が多い。

 

 一方で大量の矢も侮れない。矢によって衝撃が加わり、ほんのわずかに揺らいだ瞬間に、別の大きな攻撃を受けると「結界」の魔法の盾は破られやすい。


 ギルバートは「結界」の魔法の盾を素早く成型、補充しながら指示を出す。

 

 序盤は敵の攻撃力が不明な為、戦闘開始直後に補助で「結界」の魔法の盾をエリーは一枚、ケルは二枚、成型する手筈だ。


 こうしてギルバート達の周囲には九重の「結界」の魔法の盾が成型された。竜の攻撃ですら、暫くの間、完璧に防げるだろう防御力だった。

 

 ギルバートは、自分の「結界」の魔法の盾を、一瞬で四枚抜いた敵の魔法を考える。

 

 戦闘開始直後、ギルバートの視界はクリアだったが、「火」や「雷」のような魔法は確認できなかった


 という事は、「念動」や「重力視」ような目に見えない魔法が使われたのだ。そして周囲を取り囲む敵までの距離を考えると、「重力視」の魔法である疑いが濃厚だ。

 

「重力視」の魔法は対象を視認するだけで100%命中する。射程距離もそこそこ長く、敵に使われると厄介な魔法だ。

 

 ギルバートが「重力視」の魔法を持っていた巨大亀を狩った時、既に監視されていたかどうかは微妙だが、いずれにせよ王宮魔法使い達は知っていたという事だろう。

 

 巨大亀は「飛行」の魔法使いが一人居れば狩れなくはないし、数人居れば難しくない魔獣だ。

 

 きっと国中を回って数を揃えたに違いない。そして適性のある使い手もそこそこ居たらしい。

 

 一瞬でも「結界」の魔法の盾が切れると瞬時に圧し潰されると悟り、ギルバートは「結界」の魔法の盾にしっかりと魔力を注ぐ。

 

 ……ケルッ!

 

『うむっ!』 

  

 次に、ギルバートは、ケルと……正確にはエリーと背中合わせになり、全周囲に「重力視」の魔法での攻撃を開始した。


 全員、圧し潰す気で発動したが、敵は誰一人として体勢を崩さなかった。

 

『……やはり、「結界」の魔法使いも複数いるようだ!』


 以前倒したクルエルダードは「重力視」の魔法も「結界」の魔法も一人で使いこなしていたが、ギルバートが三つの魔法を同時に使用した、と驚いていた。

 

 恐らく、王宮魔法使いは一つ二つの魔法しか使えない者が多いのだろうが、だとしても現状を鑑みるに、「結界」の魔法使いも相当数いるらしく、侮れない。

 

 

 ……ギルッ!!

 

 

 その時、脳内にエリーの悲鳴に近い念話が響いた。同時に「ザッ!ザッ!ザッ!」と歩調のぴったり揃った複数の足音が聞こえてくる。

 

 

 

 戦闘開始早々、予断を許さぬ状況の中、王国側は畳みかけるように王宮騎士団を投入したのだった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「謁見の間2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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