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襲撃

12 襲撃






 ケルの声が脳内に響いた瞬間、ギルバートは身体を横に捻りながら、思いっきり跳んで地面に転がった。

 

「ビュンッ!」


 すぐ脇を風切り音が通り抜けていく。

 

 ギルバートは急いで立ち上がり、襲撃者を探す。

 

 ……いた!

 

 ギルバートの後方の巨木の、先ほどより低い位置に、黒っぽい鱗で全身を覆われた大きな蜥蜴が張り付いている。

 

 大きな頭に大きな目、大きな顎を持つその蜥蜴は、目測だが尻尾を除く体長が、平均的な人間の成人男性一人半ほどもあった。

 

 一見して羽や飛膜のような器官は見当たらず、代わりに平べったい胴体の側面や前脚の外側に鋭利な突起が多数生えている。

 

 大蜥蜴は巨木から一気に飛び降り、着地しないでギルバートを襲い、そのまま後方の巨木まで飛んだらしい。

 

 ふと、気づけば右肩が熱い。視線だけで、一瞬肩を確認すると、服ごとざっくり切り裂かれ、早くも傷口付近の服の生地に血が染みて来ていた。

 

 避けたと思ったのに、喰らっていたらしい。

 

 殆ど衝撃がなかったし、掠った程度だろう。それなのに、この威力だ。

 

 ケルの言う通り、まともに喰らえばひとたまりもないだろう。と言うか、顎のサイズ的に丸呑みにされてもおかしくはない。

 

 そのイメージが恐怖になり、一瞬、ギルバートの身体を固くする。

 

『主殿!魔法を!』 


 ケルが鋭い声で指示を飛ばす。

 

 ……そうだ。まともに戦っても勝てるはずがない!魔法を!

 

 ギルバートは慌てて気を取り直し、すぐさま念動の魔法を発動し、魔法の腕を最大サイズで装備した。

 

 魔法石はケルの助言でズボンのポケットに入れてあったが、直接触れていなくても問題なく魔力を供給出来ているようだ。

 

 自前の腕よりよほど俊敏に、正確に魔法の腕が動き、大蜥蜴を捕えようと最大限ピンと伸び切るが、五~六歩程度の距離では全く届かない。

 

 改めて見直すと、ギルバートから大蜥蜴までの距離は、魔法の腕の有効射程範囲の三~四倍はあった。

 

 大蜥蜴がもぞもぞと身動きをしている。今にも、再度、飛び掛かってきそうだ。

 

 瞬間、不安がギルバートの頭をよぎる。あのスピードで飛んでくる大蜥蜴に自分が対抗出来るだろうか。

 

 一つには、反射速度勝負に勝てるか、一つには力勝負に勝てるかどうか。

 

 魔法の腕の速さも力も、全力ではまだ試していないので、結果を推し量ることが出来ない。

 

 こんな危険な挑戦の前に、何故、前もって試しておかなかったのかと、ギルバートは臍を噛んだ。

 

『主殿、集中しなさい!大丈夫、飛行型の生物は軽い!たとえ魔獣であってもだ!』


 その時、ケルからの鋭い指示が飛び、同時に大蜥蜴が物凄い速さで飛び込んで来る。

 

 ギルバートは、ほぼ無意識の脊髄反射で大蜥蜴を掴もうとした。

 

 掴もうとした魔法の両腕を大蜥蜴がギリギリですり抜けたが、魔法の両腕がかろうじて大蜥蜴の尻尾を掴む。

 

 ビンッ!と張った尻尾はたちまち千切れ、大蜥蜴の飛行進路が僅かに逸れた。

 

 今度は左側の肩を高速で擦りながら大蜥蜴が地面に墜落し、転がって巨木にぶち当たり、ようやく止まる。

 

 その瞬間、新たに加わった左肩の痛みと血が噴き出す感覚、もともとあった右肩の痛みを感じながらギルバートは有効射程内に墜落した大蜥蜴を、魔法の両腕の全力で抑え込んだ。

 

 激しく暴れる大蜥蜴。だが、ケルの言う通り、大蜥蜴には意外にもそこまでの重量感も力強さも感じなかった。


「……ハァ!……ハァ!……ハァ!……ッ!」

 

 戦いの趨勢が決すると、一気に汗が吹き出し、呼吸が苦しくなる。

 

 魔法の腕による大蜥蜴の拘束に緩みは無いが、自前の腕や足が震えて、止めようとしてもなかなか止まらない。

 

 目の端の地面で、大蜥蜴から千切れた巨大な尻尾がビタンビタンと跳ね回っていた。

 

『見事だ、主殿!よく頑張った!』

 

 ケルがまるで自分の事の様に嬉しそうに褒めてくれる。ギルバートはようやく喜びが湧いてくる。

 

「よ、よーし、こ、このまま次、行っちゃおう!」


『その意気や良し!だが既に夕刻、残念ながら次はまた明日だな。夜の戦闘など危険過ぎよう。それより今は早く、此奴に止めを。そのまま魔法で拘束したまま、短剣で首を斬り落とせばよい。心臓を刺すと魔法石を割ってしまう可能性があるからな。喉の方から刃を入れれば、さほど硬くはないはずだ』 

 

 ギルバートは一つ頷くと、大蜥蜴に近づき、喉の側から短剣を入れ、止めを刺した。

 

 大量の血が噴き出し、首を切っても身体がまだ暴れようとするのを、そのまま継続して押さえる。

 

 ケルの指示に従い、大蜥蜴を仰向けに裏返すと、今度は腹を開いて魔法石を取り出した。

 

 そこでようやく、大蜥蜴の体が暴れなくなったので、ギルバートは魔法の腕の拘束を解いた。

 

 息も絶え絶えになりながら、ズボンの端で魔法石を拭って綺麗にすると、透明度の高い、黄色の魔法石になった。

 

 

 

 ギルバートは、第一目標であった「飛行」の魔法石を手に入れたのだった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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誤字脱字報告、ありがとうございました。


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次回予定「アローズ家」


読んでくれて、ありがとうございました♪

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