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レイフォエルテの城

117 レイフォエルテの城






『それでどうする?ある程度攻めさせて動ける兵を減らすか?』 

 

 ……いや、このまま城内に入ろう

 

『だが、エリーも「疑似魔法石」の魔法の盾があるとは言え、「結界」の移動には多少の隙が生じるぞ?ここでしばらく様子を見るなら、常に三人分の「結界」を常設しておけるので防御は完璧だ』 

 

 ケルは今ある三枚の「結界」の魔法の盾を、三人で交互に成型し直すことで、少しずつ前進する事を考えているようだ。

 

 確かにその場合、三人のうちの誰かが移動のために「結界」を解除すれば、その瞬間は魔法の盾の枚数が減ることになる。

 

 ケルとギルバートなら魔法の盾を一人で二枚以上成型する事も出来るが、使う魔法は「結界」だけではないので燃費が良くないのは好ましくない。

 

 それが分かった上でギルバートは掌を左上に向けて「結界」の魔法を発動し直し、半球形の魔法の盾を成型した。

 

 そして、そのまま少しずつ前に進んで行く。

 

 ……二人とも、警戒しながらついてきて

 

 ……う、うん

 

『なんと、そんなことが……!?』


 二人は指示通り、ギルバートの後ろを離れずについて来る。

 

 

「と、止まれ!止まらぬと命の保証はない!」


 

 リーダー格の男が左右で隊列を組む警備兵達や、城の上部にいる警備兵達に弓を構えさせて叫んでいる。だが、ギルバートは構わず正面の警備兵の隊列へ歩いて近づいてゆく。

 


「撃てぇーーーーーーーーーーっ!」


 

 号令一下、ギルバート達を蜂の巣にするには十分すぎるほどの矢が放たれ、飛来した。

 

 矢はギルバート達を無数に貫く、直前に「バシィッ!」と鋭い破裂音を響かせてあらぬ方向へ反射される。


「ぎゃああああっ!?」


「や、矢がっ!?矢があぁっ!?」 


「ぐあぁっ!?」


 反射された矢はあちこちで次々と警備兵達に突き刺さってゆく。

 

 

「や、止め!撃ち方止めえぇーーーーーーーー!」 

 

 

 マズいと気が付いたリーダー格の男がすぐさま射撃を停止させるが、既に地上で隊列を組んでいた警備兵には甚大な被害が出た後だった。

 

「第三小隊、前進!拘束せよ!」


 再びの命令を受け、今度は正面の警備兵の隊列が盾を構えて前進してきた。 

 

 ギルバート達も前進しているので、あっという間に両者の距離は縮まり、衝突した。

 

 途端に警備兵達の隊列の前列から「グッ!?」とか「ギャッ!?」という短い悲鳴が響き始め、それと同時に警備兵達の隊列に大きな穴が開いていった。

 

 ギルバートを中心とした円形の内側に警備兵は入ることが出来ず、次々と全身を切り裂かれて血飛沫を上げながら跳ね飛ばされる。

 

 やがて警備兵達の隊列は真っ二つになり、中央には血みどろの道ができた。

 

 ギルバート達は左右に分かれた警備兵達の隊列と、その足元で呻く血みどろの警備兵達を残し、城の中へと進んで行った。

 

 リーダー格の男は、何かを叫ぼうとしたがパクパクと口を動かすのみで声にならず、戦意を喪失してガックリと項垂れる。

 

 そして、この場からギルバート達の後を追う警備兵は一人もいなかったのであった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 入口を通過したあと、ケルとギルは「結界」の魔法の話をしていた。そして、どちらかと言えばケルが興奮しているようだった。

 

『ギルよ、この「結界」は……』


 ……うん、手のひらを根拠地にして魔法の盾を成型してる

 

『そんな事が……できるのか』



 根拠地とは、「結界」を設置する場所、もっと言えば直接触れて「結界」を固定する基点のことで、根拠地を意識せず「結界」の魔法の盾を成型した場合、必ず地面の何処かに魔法の盾の一部が触れる形になる。

 

 半球形の魔法の盾をテーブルの上の茶碗と考えると、上向きに置いても下向きに置いても横に立ててもいいが、必ずテーブルの表面に接している状態だ。



 ……たしかに形は半球形から変えようとすると全く発動できなかったし、根拠地も最初は地面以外には指定できなかった。けど、元々この魔法を使ってたモグラは自分の鼻先を根拠地にしている様に見えたからな

 

『いや……どうみても巣穴の入口が根拠地だったであろう?』


 ……獲物を突き上げるあの勢いは、反射属性だけじゃない気がしたんだ。モグラの動作も突き上げる感じだったろ?

 

『それだけで、根拠地を変えられると……?』


 ……まあ、やってみたら出来たという感じだな

 

『……素晴らしい』 


 

 モグラと言うのはギルが結婚したばかりの頃に倒したシールドバッシュ・モールのことだろう。

 

 巣穴の入口で魔法の盾を罠代わりにして、獲物を待ち受け、下から撃ち上げて弱らせ捕食するモグラ型の魔獣だった。

 

 そして、エリザベスが食べた初めての魔獣肉でもあった。凄く美味しかった。

 

 

 使える魔法の少ないエリザベスにとって、二人の話は良く分からない部分も多かったが、確かにギルはこのところ毎日、魔法の応用練習も頑張っていた。

 

 

 ……やー、ケルにとっては、ちょっとした盲点だったんじゃないか?魔法に詳しいだけに

 

 見るとギルは、ケルに絶賛され、嬉しそうに照れている。

  

 だが、すぐに表情を引き締めると、何でもない風を装いながら、チラチラと何度もエリザベスを盗み見ていた。

 

 以前、エリザベスがちょっとした八つ当たりで、ケルとギルが「イチャついている」などと言ってしまったせいで、ギルは今でも相当警戒しているようだ。

 

 戦闘中だというのに、そんな下らない事を気にする余裕があるなんて……自分の夫は、凄いのか凄くないのか良く分からない人だわ、とエリザベスは思った。

 

 そんな事を考えながら、エリザベスはギルの後ろを歩く。

 

 行き交うのは逃げ遅れた文官や使用人、たまに偵察らしい武官が姿を見せては去って行く。

 

 城の構造は城によって全く違うが、城主のエリアへの動線は雰囲気で何となくわかるものだ。

 

 ギルは確実に歩を勧め、大階段を上り、それらしいエリアへ進んで行く。

 

 さすがに一部屋ずつ確かめるのは人手がなさ過ぎて難しいが、逃げ惑う人の流れと伝令の去った先を推測しながら進み、ついに三人は警備兵達が隊列を組んで守っている一角にたどり着いた。

 

 間違いなく彼らが背後に守っているのが領主の執務室だろう。

 

 

「貴様等ッ!直ちに武装を放棄して神妙に縛に就け!」 

 

「断る!悪いが押し通る!」


 ギルは敵の現場指揮官の降伏勧告に、歩みを止めぬまま叫び返す。 

 

 一歩ずつ、警備兵達の隊列が近づき、間合いに入ったところで、エリザベス達に向って無数の槍が突き出された。

 

 その全てが、へし折れ、弾け飛び、あらぬ処へ被害をもたらした。

 

 そしてその直後、エリザベス達が通る道筋から隊列が弾き飛ばされ、弾かれた者達は無数の裂傷を負い、血みどろになって倒れてゆく。

 

 エリザベス達の歩みは一瞬も止まることは無く、宣言通り、警備兵達を鎧袖一触に弾き飛ばしながら押し通った。

 

 そして、ついに三人は豪華な扉の前に到達した。

 

「い、いかん!奴らを止めるのだ!皆、掛かれ!掛かれーっ!」


「し、しかし……」


 エリザベス達の後方では、現場指揮官と警備兵達が押し問答を始めていた。

 

 このままでは自分の責任になる現場指揮官は繰り返し突っ込めと叫んだが、突っ込んで弾かれ斬り裂かれて、血みどろになるのが目に見えている警備兵達は二の足を踏んだ。 

 

 やっぱりリンドヴァーンの方が怖かったかも、とエリザベスが思っていると、ギルは後ろは無視し、そのまま扉に手を掛けた。

 

 ……二人とも、入ったら「結界」の魔法の盾を

 

 ……うん!

 

『了解だ』

 

 

 両開きの豪華な扉を開けて、中に入るとそこは広々とした執務室であり、大きな執務机の奥に貫禄のある男が座っていた。当然、彼が領主だろう。

 

 そして執務机の左右と背後を守るように護衛が立っていた。彼らから感じる覇気はリンドヴァーン伯爵の護衛達と遜色がない。間違いなく一騎当千の凄腕達だ。

 

 エリザベスとケルが素早く「結界」の魔法の盾を成型し直し、同時にケルが「念動」の魔法の腕で扉を閉める。その瞬間、背後の喧騒が遠くなった。

 

 

「……あなたがグランフォエルサの領主か?」



 ギルが一歩前に出て、唯一座っている貫禄のある男を見て問うた。

 

  

「……で、あればなんとする?」 

 

「この念書に署名を頂きたい」


 ギルは懐からセリオ子爵に渡された念書を取り出した。

 

 

 

 貫禄のある男は、念書とギルを順に見ると、暫し黙考し、それからおもむろに口を開いたのであった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「レイフォエルテの城2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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