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出撃2

116 出撃2






「……それで、まずどこからお邪魔するの?」

 

「そうだな、まずはグランフォエルサ領に行こうかな」 

 

 朝の晴れやかな空を飛びながら、エリーがまるで今から知人の家に遊びにでも行くような気楽さで聞いた。

 

 それに対し、ギルバートも特に気負わず、淡々と答える。


 最近ではまた、朝晩が少し寒くなってきており、上空を飛んでいると猶更、風が冷たくなってきたと感じる。

 

 エリーも冒険者装備のマントを体に巻き付けている。

 

「何か理由はあるの?」


 これから大貴族のお宅へ約束も無しにお邪魔するというのに、エリーは特に緊張する様子もなく更に質問してきた。

 

 どうやらそんな事より、寒さから気を紛らわせたいようだ。

 

「アドリアーノ家以外で大貴族五家に名を連ねるのは、リンドヴァーン家を筆頭にグランフォエルサ領のレイフォエルテ家、ゴーセカフト領のゴーサヘア家、ストルキラフト領のスタルクーン家。その中でリンドヴァーン家が一番格が高く、次いで甲乙つけがたいのがレイフォエルテ家だから、かな」


 そう言われてもギルバートの意図は伝わらなかったようで、エリーは首を傾げている。

 

「ほら、婚姻届けと魔法使いの登録をしたとき、そのたった数日後に王都に行ったらもう王宮に報告が届いていたことがあったの覚えてる?」 

 

「あー、そんな事もあったねー」


 たった一年前の事だが、エリーがちょっと懐かしそうにする。

 

「今回の大貴族の三家訪問の一件目が、何らかの手段で他の二家に伝わると、待ち構えられて難度が上がるかなーと思ってね。王家には魔法使いがいたけど、大貴族も何かしらそういう手段をもってるのかもしれない。だったら、一番強いとこから順に訪問した方が良いかなと思って」


「なるほどね」


『悪くない』


 ギルバートがレイフォエルテ家を選んだ事に、二人の賛同を得られたようだ。


 三人はバスーラ上空を越え、北の山岳地帯を越え、その裾野に広がる大森林地帯を飛び越えた。

 

 平原を越え王都上空を高速で通過し、王都北部の山岳地帯上空も越えていく。

 

 竜が居たダンジョンにはまた冒険者が来るようになったらしく、周辺にはそれらしい格好の集団が幾つか見えた。

 

 きっとグシックトが情報を売って儲けたのだろう。

 

 山頂を越えた辺りで一旦、着地して三人はお弁当を広げた。

 

 既に昼を過ぎているのに加え、ギルバートとエリーはずっと寒さに耐えていたのでお腹が凄く減っていた。

 

 お弁当は正真正銘、最後の竜肉で作った串焼きとパンだ。ちなみに朝は昨日の残りの竜肉スープだった。

 

 ギルバートが「火」の魔法の火力を調節し、低温で串焼きを温め、パンを焼いた。

 

 今回、実感したが、竜肉は本当にメチャクチャ美味かった。出来ればあまり間を開けず、度々食べたいと思った。

 

 だが、その為に毎回、命の危険を覚悟する気はないギルバートは、早くも当分食べられない竜肉を想い、切なくなった。

 

 食事をしながら、三人は直前の申し合わせをする。


「……オレ達の力を十分に分かってもらう必要があるから、正面から小細工なしでいくよ。戦闘が始まったら、エリーはなるべく戦闘に加わっている兵士の手足を撃って無力化してくれ。矢はオレかケルが補充する」


「まかせて!」


 エリーの顔はやる気に満ち溢れていた。ギルバートはシャルロットの指示を思い出し、なるべく殺さないでくれ、と願ったが言葉にはしなかった。

 

 其処を気にして自分達がやられたら意味がない。

 

「今回、基本はオレが『結界』を担当するから、ケルは制圧を担当してくれ。精鋭が出たら全員で協力していこう」


『了解だ』


 作戦も決まり、お腹も満たしたギルバートは、立ち上がって二人の顔を見た。

 

 エリーとケルは何時でも行けるという顔で黙って一つ頷いた。

 

 お弁当を包んできた油紙や串をギルバートの「火」の魔法で燃やして灰にすると、足元に「土」の魔法でちいさな穴をあけて埋める。

 

 今や生活のあらゆるところで、ちょっとしたことでも自然に「魔法」を使っている。

 

「使うぞ」と気負わなくとも無意識に使えるほどに馴染んでいる魔法がいくつもあった。

 

 正真正銘、魔法使いになったんだなーと、ギルバートは一瞬、妙な感慨に浸った。



 その後、ギルバートとケルは再び「飛行」の魔法を発動して山岳地帯の空へ舞い上がった。

 

 この山岳地帯の北側は既にグランフォエルサ領だ。裾野の大森林地帯を抜けると平原地帯が広がっており、その中心に領都レイフォエルテがあった。

 

 レイフォエルテもご多分に漏れず、グレイヴァルより遥かに大きな街で、街の中心に構えられた領主の城の敷地も広大だった。



「……夕食前には終わらせたいね!」



 領主の城の正面入り口を目指して飛びながら、エリーがそんな軽口を言った。


「あー、そこは考えてなかったな。さすがに制圧後とは言え、敵地で夜を過ごすのは怖い、というか気づまりだな」


『山岳地帯か大森林地帯に適当な隠れ家を作って眠ればよい。まあ、快適とはいかんだろうがな』


「仕方ない。それしかないか。グレイヴァルまで戻ると時間がかかるからな」


 次の目的地はここの隣のゴーセカフト領だ。近いので次は朝からお邪魔できるだろう。


 そんな話をしている間に、城の正面入り口上空へと到着したギルバート達は一気に降下、着地した。

 

 さすがに門からやるのは面倒なので城の入口に降りてきたのだ。

 

「じゃあ、『認識阻害』の魔法を止めるよ」


『了解』


 ケルの応答を受け、ギルバートとケルが「認識阻害」の魔法を停止する。すると、入口の両側に立っている警備兵や巡回している警備兵が、突然現れた(様に見えた)ギルバート達を見て、一瞬、ビクリと硬直した。そして直ちに誰何の声が飛んできた。

 

 

「き、貴様達!何者だ!何処から入った!?」


 巡回していた警備兵達が、侵入者に対処するため素早く駆け寄ってくる。


 そして、警備兵の一人がギルバートに向って手を伸ばした瞬間、「結界」の魔法の盾の反射属性に伸ばした手だけでなく身体ごと弾かれた。

 

 

「ぐあぁあああっ!?」 

 

 

 吹き飛んで倒れた警備兵の腕はズタボロに裂けて血をまき散らしており、苦痛の悲鳴を上げた。

 

 今までならせいぜい腕を弾き飛ばされ、よろめいて後方へ一歩二歩下がるのが関の山だった、ギルバートの魔法の盾の反射属性が、どう見ても格段に進化していた。

 

 

 ……凄い威力だな、「魔法強化」!

 

 ……ちょっと、怖いくらいだよ

 

『だが、おかげでエリーの「疑似魔法石」でも十分な効果が期待できるぞ』


 ……うん、そうだね、それは大事!



 ギルバートは「魔法強化」の魔法の威力に感動すら覚えたが、エリーは若干引いていた。

 

 だが、そのエリーもケルの言葉で気合が入ったようだ。

 

 

「ぞ、賊だ!賊が侵入したぞ!」


「警備の者は直ちに応戦!残りの者達に招集を掛けよ!貴様はご領主様に報告!急げ!」 

 

 ピーッ!ピーーッ!とあちこちで笛が鳴り始め、あっという間にたくさんの警備兵が集まってくる。

 

 ……それなりに機敏だけど……まあまあかな?

 

『此奴らは下級士官に下級兵士ばかりだろう。油断するなよ』


 ……もちろん!

 

 ケルの忠告を受けるまでもなく、ギルバートは気を緩めたりしていない。

 


「貴様ら!何が目的だ!?」


 この場の警備兵達のリーダーらしき男が声高に叫ぶ。ケルが下級士官と呼んだのは彼の事だろう。 

 

 本来、最終防衛ラインとなる筈の位置のさらに内側に、いきなり侵入されてしまっている警備兵達のリーダーは、見るからに困惑し、焦燥している。

 

 ギルバートが一歩前に出て応じる。

 

「ちょっとご領主様に用があってきました。案内は要りません。自分で探しますから!」

 

「な、何をふざけたことを……っ!?」


 ギルバートの返答に、リーダーらしき男は息をのみ、言葉を詰まらせた。 

 

 

 

 だが、ギルバートもエリーもケルも、誰も一つもふざけてなどいなかったのであった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「レイフォエルテの城」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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