付け焼刃的彼是(あれこれ)2
115 付け焼刃的彼是2
昼食後、ギルバートは考えていた。
これまで自分は、エリーを守る事ばかり考えていたが、竜戦でエリーに助けられ、エリーが立派に戦うのを見た時、エリーの戦いの助けになる魔法具を作ろうと思い立った。
だが、まずは竜肉のおすそ分けだ。魔獣肉は足が早い。竜肉がどの程度早いかは分からないが、おすそ分けするなら早い方が良い。
「よし、エリー、ケル、アンナおばさんにおすそ分けに行こうか」
「あー、それは良いわね♪」
『了解だ』
ギルバート達は、早速、「念動」の魔法の腕で竜肉を持ち、グレイヴァルのアンナおばさんの家まで一気に飛んで行った。
前回の訪問の時は監視を警戒して、かなり面倒な手順を踏んだため、非常に時間がかかった。
だが今回はギルバートも「認識阻害」の魔法を使えるようになり、ケルが「認識阻害」の魔法の効果範囲にエリーを含める事が出来るようになっていたので、あっという間の到着だった。
「おや、いらっしゃい!」
アンナおばさんは笑顔で出迎えてくれながらも、周りを気にして素早く家の中に招き入れてくれた。
その心配は、おそらく必要ないのだが、ギルバートはおばさんのその心遣いのおかげで少し心が暖かくなった。
今回は知り合いの多いアンナおばさんのために、獲って来た竜肉の半分ほどを持って来た。
それゆえ、台所のテーブルの上にドンと置かれた巨大な竜肉の塊を見て、アンナおばさんは目を丸くした。
「これ全部、竜の肉なのかい!?」
「全然こんなもんじゃなかったよ!この台所くらい大きかったんだから!」
エリーが嬉しそうに報告し、アンナおばさんはますます目を見開いて驚いていた。
ギルバート達はしばらく居て、おしゃべり(主にエリーが)すると、「いっぱい食べてね!」と言ってアンナおばさんの家を後にした。
その後、隠れ家に戻ってきたギルバート達は、竜から獲った「魔法強化」の魔法石を誰が持つか、少しだけ話し合った。
話し合いの前にまず、エリーが使えるかどうかを触ってみて判定したが、残念ながら適正なしだった。
エリーが使えるのが最良だったため、三人とも、少しだけガッカリしたが、そういつも上手くいくはずもないので、すぐに気持ちを切り替えた。
ならば次の候補は自分だな、とギルバートは思ったが、これにケルが異を唱えた。理由は二つ。
一つは、確かにケルのほうが技量も魔法の威力も優れているが、それだけにギルバートを強化した方が、パーティとして、より隙が無くなるということ。
もう一つは、ギルバートとケルでは魔力量が圧倒的に違うので、常時発動する魔法を増やすなら、急激に増える魔力消費に耐えられる、ケルの方が適していること。
そう言われてみれば、最初の頃は魔法の二つ同時使用でも結構、消費魔力量が激増していたが、今では二つ程度なら、ほとんど消費量は変わらない。
ギルバートも短期間でたくさん実戦を熟すことにより、魔法使いとしてかなり熟練していたのだった。
三人で合意に達すると、ケルは早速、「魔法強化」の魔法石をパクリと飲み込んだ。
魔法石を誰が持つかの話し合いが終わると、今度はギルバートが魔法具づくりを始めた。
エリーはいつも文句は言わなかったが、置いて行かれるときは、どこか不満そうだった。
だが、一緒に竜をも倒した以上、これからはよほどの理由がない限り、残ってくれそうにない。
その上、これまで色々あったせいで、ギルバートも、エリーを一人で残しておけなくなっていた。
エリーを残すならケルに一緒に居てもらう必要がある。
実際、ケルは頼まなくてもそうしてくれており、それなら確かにエリーの方は安心なのだが、一方で、ギルバートもケルの助けは欲しいのだ。
結局、だったらエリーには常に同行してもらうのが一番良いという結論になった。
ついでに、発想の転換、と言う程のものではなかったが、ギルバートは細かい調整が必要なく、魔力を注げばサッと使えて役に立つ魔法を、疑似魔法石にすると、エリーに「直接」魔力を注いでもらって効果を確認した。
「魔法具」として考えれば、疑似魔法石と魔導線(もしくはその代用品)と魔石を一つの筐体に配置する必要があったが、疑似魔法石を「魔法石」として使えるのであれば筐体も魔導線も魔石も必要ないのでは?とギルバートは思い至ったからだ。
早速ケルに確認すると、あっさり可能だと教えてくれた。
ギルバートは、過去にケルが作った疑似魔法石を魔法具から取り出して使っていた、疑似魔法使いがたくさん居たのでは?と思ったが、それはまたあっさりとケルに否定された。
わざわざ魔法具として体裁を整えてある便利で高価な道具から取り出しても、疑似魔法石は所詮、機能も威力も相当に限定された劣化版。自由度もなく、決められた一つの事しか出来ないのに、魔力はそこそこ消費するのだから、コンパクトに隠し持てる利点くらいしかない、と言う。
しかも魔力を自在に注入するのもそれなりの技術を要する。安定して注入するだけでも簡単ではない。
その点、ギルバートは有り得ないほどに規格外。エリーですら相当に非凡と言えるほど優秀なので、その事に思い至らなかった。
そんな話をしながら、ギルバートは「木魂」の魔法と色々な魔法石を同時に使い、次々と疑似魔法石を作っていく。
試しに一つ作り、エリーに試してもらう。その結果を見て、作成過程を調整し、もう一つ作り、また試してもらう。
そんな作業を延々と続ける疑似魔法石作りは案外、一つ完成させるのに結構な時間を要した。
それでも、エリーと二人で行う作業は楽しく、ギルバートは毎日、狩りと疑似魔法石作りに明け暮れた。
そしてせっかく疑似魔法石をたくさん作るのだからという事で、失敗作も無駄にしない為、使い捨ての魔法具も色々作っていった。
また、ギルバートは魔法の応用練習にも力を入れた。
ケル曰く、魔法の応用の難しさは元の持ち主である魔獣のイメージが固着しているためらしい。
「念動」の魔法は腕のイメージで発動するが、それは元々、幽霊がそうやって使っていたからであり、「念動」の魔法の根幹と結びついている。その腕のイメージを払拭するのは難しいという。
ギルバートが試しにタコのような触手のイメージで「念動」の魔法を発動しようとしても、魔法は発動できなかった。慌ててイメージを「腕」に戻すと、今や自然に「念動」の魔法の腕を装備していた。
「やっぱり無理かぁ~」
ギルバートはがっくりと肩を落とした。
『いや、基本イメージを変えるのが難しいだけで、応用は可能なのだ。「念動」であれば、例えば腕の数を増やす事なら比較的簡単にできる。ただ、制御の難度は一気に上がるがな』
そう言うと、ケルが疑似魔法石用の魔石を一つずつ、順に四つ摘まみ上げて、それぞれ別に動かして見せた。
『今、某は腕を二組装備している。増やすなら一組ずつだ。腕一本だけ増やすのも無理ではないかもしれんが、逆に難度は上がる』
「なるほど……」
ギルバートは早速、試しとばかりに「念動」の魔法の腕を装備し、その状態でさらに「念動」の魔法の腕を発動しようとした。
だが、「腕は二本」という固定観念のせいか、全く発動できない。
『そういう事だ。固定観念を解きほぐすのは容易ではない。自らが「そうだ」と信じている事を部分的にでも否定しなくてはならないのだ。信念や根幹が揺らげば、おそらく魔法そのものを扱えなくなる可能性すらある』
魔法の応用という、魅力的な言葉の裏に、恐ろしいリスクが潜んでいると、ギルバートは知った。
だが、不思議と無理だとは思わなかった。
その日から、ギルバートは自分の心に言い聞かせる練習を追加した。
一方エリーは疑似魔法石を試す係と料理係、狩りへの同行、ケルは基本、二人のどちらかと行動を共にした。
実は最初、ケルが毎晩、席を外して何処かへ行こうとするので、ギルバートが必要以上に気を遣うのはやめてくれと、慌てて引き留めたという顛末があった。
夜はケルが居てくれたほうが圧倒的に安心なのだ。そうではなく、「それ」については何か、自然と二人になれる習慣を組み込む必要がある。だが、今すぐでなくても、いずれ考えれば良い。
そんな感じで三人が日々を過ごすうちに秋は深まり、やがてギルバートとエリーが結婚して丸一年という日を迎えた。
疑似魔法石は結局、「結界」「認識阻害」「暗視」「消音」「解毒」「身体強化」の六つが完成を見た。
それぞれ機能、威力限定の劣化版とは言え、調整を重ね、そこそこ実用に耐えるレベルになった。
ただ「身体強化」の疑似魔法石だけは如何ともしがたく、用途を逃走に限定し、走る動作を強化したものを作るのが精いっぱいだった。
それでも一気に使える魔法が増えたことに気をよくしたエリーは、自分用に疑似魔法石収納用装身具を縫いあげ、装備した。
エリーは「結界」の疑似魔法石を試した時、魔力の消費速度に驚き、「身体強化」の疑似魔法石を試した時には、驚くほど速く走れることに大いにはしゃいだ。
ちなみに竜肉は思いの外、持ちがよく、三人は最後に残った竜肉と、街で買った少量の酒でギルバートとエリーの結婚一周年のパーティ(という体裁のちょっと豪華な食事)をして、明日のお弁当まで作って使い切った。
そしてその翌日。魔法石を山盛り装備したギルバートと、魔法石、疑似魔法石をそこそこ装備したエリー、そしてもはやゴリマッチョと言っても過言ではない鳥型魔獣のケルが、揃って「認識阻害」の魔法を発動し、ギルバートとケルの「飛行」の魔法を使って、グレイヴァルの隠れ家を飛び立ったのだった。
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本日、1話目。2話更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。
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次回予定「出撃2」
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