付け焼刃的彼是(あれこれ)
114 付け焼刃的彼是
ケルによれば、「魔法強化」の魔法は、「有効射程圏内にいる自らの眷属達の魔法を強化する魔法」という事らしい。
「つまり、小型の竜擬き達の火柱は、本当に普通の『火』の魔法だったってことか?」
「恐らくは。火蜥蜴とは多少の力の差はあるかもしれんが同様の魔法と思われる」
それが、とても同じとは思えないほどの強力な火柱に変わっていた。確かに強力な魔法だった。眷属が多い程、眷属達の魔法が多彩なほど恐ろしい魔法だ。
そして、特徴的なのが、自分自身は強化しない所だ。つまりイメージ的に、ボスが手下達の背中を押してやっている感じか。「自分が」押してやるのであって、「自分は」押してはもらえない。恐ろしい魔法だが、その辺りは微妙だった。
ギルバート達が使う場合、
・ケルが持てばギルバートとエリーの魔法が強化される。
・ギルバートが使えばケルとエリーの魔法が強化される。
・もし、エリーが使う事が出来ればギルバートとケルの魔法が強化される。
使い手として一番良いのはエリー、次にギルバート、最後にケルと言うところか。当然、強化される者の魔法が元々多彩で強力なほど、強化の効果が大きいだろう。
『……まあ、それは帰ってからにして、早く素材を選んで切り出すぞ』
「む、そうだな」
ケルに促され、ギルバートはケルと協力して「念動」の魔法の腕で短剣を掴み、皮ごと肉を切り取っていく。
外皮は固すぎてとても切れなかったが、内皮までを一緒に切り取り、一旦、持ち帰る分を内皮を下にして地面に置いた。
そして次に爪や牙を獲ろうとしたのだが、骨や外皮にもしっかり固着していて、素人には手が出せなかった。
「うーん、もったいない。グシックトに情報だけでも売るか?」
『まあ、間に合うかどうかは分からぬが、買うのは「あ奴」の自由だな』
という訳で、急ぎ、持てるだけの肉を持って隠れ家に帰ることになった。
かなり欲張って、竜肉をギルバートとケルの「念動」の魔法の腕で持ち上げ、ダンジョンの最上階層を駆け足で抜けた。
来るときにマッピングがてら、かなり掃討してあったのでギルバート達はすんなりと出口まで戻ってこれた。
出口を出ると、外はすっかり暗くなっており、空を見上げると星と月が輝いていた。
ギルバート達は、「認識阻害」の魔法を発動しながらグレイヴァルの隠れ家まで、最短距離を最速で飛んで帰り、台所に竜肉を安置した。
次に、ギルバートはエリーに寝てもらうと、既に深夜だったが、自分はリンドヴァーンへ飛んだ。
夜を徹して飛び続け、翌朝にはリンドヴァーンに着くと、「認識阻害」の魔法を発動しながら冒険者ギルドを訪い、知り合いの髭モジャ短躯のダンジョンシーカーを探した。
こちらが地元だと言っていたグシックトを発見すると、メッセージを書いた紙片を渡すやり方で、グシックトを冒険者ギルド会館の近くの路地裏に誘い出した。
グシックトは警戒しながらも、誘いに乗ってくれたので、ギルバートは周囲を確認して「認識阻害」の魔法を解除した。
「お久しぶりです」
「!……おまえ、大変だろうによくここまで入って来れたな?」
グシックトは目を丸くした。
「まあ、魔法使いっていうのはそう言うものですからね」
「うへ、魔法使いってのは恐ろしい奴らだ……だからこそ、ワシがお前を貴族やらギルドに売るとは思わなかったのか?」
「取引相手として、あなたはある程度、信用できますよ。それに、その時はその時ですし。損をするのはあなただけで、オレはちょっと手間をかけたのに、無駄骨になるってだけですから」
ギルバートが肩を竦めると、グシックトは軽く嘆息した。
「そうかよ。相変わらずのようで何よりだ。……それで、わざわざ訪ねてくれたのはどういう用件だ?」
「話が早いのも、あなたの美点ですね」
ギルバートはそう言ってグシックトを称賛した。
出会った時は面倒臭い奴だと思ったが、以降の取引で、非常に話が早くて機転が利く奴、と評価を変えていた。
ギルバートは早速、自分達が狩った竜の素材の情報を話した。
「何っ!?竜だと!?」
「ええ、まあ、小型の竜ですけどね。倒したものの、持ち帰れない分は捨ててきました。間に合うかどうかは知りませんけど、場所の情報を買います?」
「倒したのが昨夜なら、場所によっちゃ、まだ間に合うかもしれねぇ!」
「そうなんですか?で、どうします?」
「お前たちは何を獲ったんだ?」
「魔石と、お肉を持てるだけ、ですね。爪とか牙は固くて採れなかったので」
「何だと!?なんて勿体ない……だが、それならオレにはチャンスだな。よし、これで売ってくれるなら買うぞ!」
グシックトはそう言うと、既に準備していたのか、財布丸ごとなのか、ずっしりと重い革袋を放って寄越した。
中をチラッと確認すると、中身は大量の金貨のみだった。
「あなたにとっても賭けでしょうしね、これで納得します」
ギルバートは、空振りでもしょうがないと思って来たので、即決した。そしてグシックトに王都北部のダンジョンの場所を話して聞かせた。
「そんな所にダンジョンが……いや、まてよ?」
「ええ、昔から有名な所だって聞いてますけど」
「おいおい!攻略不可ってんで、長年放置されてる有名なとこじゃねぇか!」
「最上階層のすぐ下が竜の巣でした。放置されるわけですよね」
「つっても、お前は倒したんだろうが!って、そんな事言ってる場合じゃねえ!オレはすぐに出発する。何かあったらまた来てくれや!」
グシックトはそう言うと、慌ただしく去っていった。どうやら間に合わせる心算はあるらしい。
あのグシックトの反応を見れば、やはり勿体なかったんだろうな、とギルバートは思ったが仕方がない。ちょっと小遣いを稼ぐ程度ならともかく、ガッツリ商売をしている場合ではないのだ。
ギルバートは再び「認識阻害」の魔法を発動すると、一直線にグレイヴァルの隠れ家に飛び帰り、昼前には隠れ家に戻ってきた。
隠れ家ではエリーが早速、竜肉スープを作ってくれていた。そしてギルバートが帰ってくると同時にエリーが竜肉を三人分焼き、早めの昼食となった。
当然のように、竜肉は激美味であり、三人は物も言わずに竜肉に齧り付いたのであった。
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本日、2話目、ラストです。
楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。
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次回予定「付け焼刃的彼是2」
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