表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/130

111 竜






 翌朝、ギルバート達は、グレイヴァルの領主の城を訪れ、シャルロットが手配してくれていた、未署名の念書を三枚、セリオ・コートス子爵から受け取った。

 

 そこには

 

 ・ギルバートは正当防衛を行っただけで、大逆罪には当たらず無実である。

 

 ・今後はお互い仲良くしましょう。

 

 ・今後、攻撃を受けたらギルバートが自分で捕まえて罰してもらって結構です、国は一切感知しません。ただし、疑いある場合は根拠を明示してもらうかもしれません。

 

 ・ゼクストフィール王国の身分関係はギルバートには関係ありません。

 

 ・ゼクストフィール王国中を好きなように移動していいですよ。

 

 ・ゼクストフィール王国内では出来るだけゼクストフィール王国の法を守ってね。どうしても無理な場合は個別に話し合いましょう。

 

 と言うような特別法の草案と、『今回の顛末を王宮以外に口外しない代わりに全てを不問にする』『法案には賛成する』という内容が書いてあった。

 

 以前聞いたのは、国に忠誠を誓う限り、自由を保障する、みたいなことだったはずだが、そういう文言はなかった。 

 

 ……何と言うか、お互いに干渉せず、良い隣人でいてね、っていう感じだな

 

 気になるとすれば、ギルバートが不当な攻撃に晒されようと国は助けてくれない、と読めることだがそこはもともと期待していない。実際守ってもらえなかったわけだし。

 

 国内法は努力義務で、個別に融通を聞かせてもらえるようだし、これで十分だと思う。まあ、文言通り、不都合があれば相談すれば良いのだろう。シャルロットが作ってくれたものだから問題ないはずだ。

 

 ギルバートは受け渡しに来てくれたセリオ子爵に頭を下げた。

 

「有難うございます、子爵様。シャルロット様にもよろしくお伝えください」

 

「……セリオで結構ですよ。ギルバート様。お気をつけて」


「有難うございます。行ってきます」 

 

 ギルバートはちょっと笑うと、そう答え城を後にした。

 

 その後、すぐにギルバートは「認識阻害」の魔法石に魔力を注ぎ、エリーを連れて空に舞い上がったが、最早、誰もギルバートを見ていなかった。

 

 ちなみにケルとエリーはずっと、ギルバートのすぐ傍に居たのだが、ケルの「認識阻害」の魔法により誰の認識からも外れていたのだった。

 

 

 ギルバートとケルは「飛行」の魔法で高速飛行し一気にグレイヴァルを抜け、山岳地帯を越え、続けて王都上空を通過した。

 

 再び秋になり、上空の飛行はやや寒かったが、まだ休憩を入れるほどではない。

 

 昼過ぎには、今や人も訪れない王都北部の山岳地帯にあるダンジョンに到着した。

 

 入口はたくさんの植物に覆い隠されていて、パッと見た感じ、そこにダンジョンの入口があるとは分からない。ケルの案内が無ければ絶対たどり着けなかっただろう。

 

 攻略不可という評判が定着して早数十年。いつ魔獣が溢れてもおかしくないと言われ続けているが、今のところ溢れたという話は聞いた事がない。

 

 魔獣の間引きの必要性を叫ぶ声もあるというが、現実はこの閑古鳥だった。

 

「……本当に溢れたら、真っ先にマズい事になるのは王都の人だと思うけどね」


『まあ、その時、冒険者であれば、何かできるかもしれぬ。今は考えまいよ』


「そうだな。よし、行こう」

 

「はーい!」 


『了解だ』



 ギルバートの号令に、ケルとエリーの応えが返ってきた。


 ちなみに何故、エリーが居るのかといえば、一人で置いておけなかったからだ。

 

 もはや、何処に居ても安全とは思えない。むしろ、ケルの傍が一番安全だろう、という事で連れてきた。

 

 その点について、「自分の傍が」と言い切れないギルバートは忸怩たる思いだが、現実は現実だ。

 

 

 兎にも角にも、まずは入口を覆っている植物をギルバートとケルが「念動」の魔法の腕で引き千切っていく。

 

「火」の魔法を使っても良かったが、一応、ギルバート達は、山火事になる可能性を考えて使わないことにした。

 

 

 中に入ったギルバート達の前後には松明が一本ずつ浮いている。ギルバートとケルが「念動」の魔法の腕で松明を持っているからだ。

 

「ねぇ、ケル、灯りの魔法はないの?」


 エリーがケルに質問をする。ギルバートも、あるなら灯りの魔法は欲しいと思うので、ケルの答えに耳を傾けた。

 

『あるとは思うが……そもそも魔獣は夜行性の暗視持ちが多いし、光を扱う必要があまりないからな。某が知っている魔法も一つ、あるにはあるが、そこまでお勧めではないしな』


「どんなの?」


『左様、「鬼火」という魔法でな。蒼白い炎の小玉が目の前に浮かび、周囲をゆらゆらと青く照らすのだが、元々、暗闇で獲物をおびき寄せるための魔法ゆえ、誘導や催眠の効果もあるのだ』 

 

「それは……ちょっと不気味そうだね?」


「まあ、控えめに言っても不気味であろうな。ダンジョンで使えばなかなかの雰囲気であろうし、日常生活で使うには適さぬと思うぞ」


「そうかー残念」


 興味深く聞いていたギルバートとエリーだったが、エリーは入手するのを諦めたようで、ガックリと肩を落としていた。

 

 相変わらず、エリーが率先してマッピングを行いながら、一つずつ、支道をつぶして行く。

 

 古いダンジョンだけあって支道も多く、その一つ一つが深くまで繋がっており、さらに複数の支道につながっている事もあった。

 

 そして地面にも壁や天井にもたくさんの虫が這いまわっており、時折、それを狙う小さな魔獣に出くわした。

 

 

「はい、エリー」 

 

「んっ」



 ギルバートは、アナグマのような小型の魔獣を発見すると、「土」の魔法石と「硬化」の魔法石に魔力を注入し、美しい透明な矢を成型して、エリーに手渡した。

 

 透明な魔法の矢は、ギルバートが中を空洞になるように成型しているため軽く、「硬化」の魔法により超高硬度で、矢尻まで狂いなくまっすぐだった。

 

 矢羽根も、以前ギルバートが自作した傑作の矢を参考にして成型しており、全体的に非常に質高く仕上がった透明の矢は、エリーの腕前で放たれると過たず魔獣の眼窩を撃ち抜き、壁に縫い留めた。

 

 この透明の矢を回収しなくても良いように、ギルバートは追加で十本ほど作ってエリーに渡す。

 

 もはや矢が切れる心配も少なくなり、エリーの弓も十分戦力としてカウント出来るようになっていた。

 

 

 エリーのマッピングにより、ダンジョン一階層がどんどん広がって行く。

 

 ダンジョン内なので正確な時間は分からないが、お腹が減ってエリーがへばってきたところで、一旦、昼食にした。

 

 もちろんエリーが作ってくれた、昨夜の残りの何でも挟みパンだが、食材が良いのとエリーの愛情入りの為、常に激美味だ。

 

 実際、エリーも料理の回数が増え、かなり手慣れてきている。

 

 食事の途中で小型の魔獣が何度も襲ってきたが、ギルバートとケルの二重の「結界」の魔法の盾に弾かれて、逃げて行った。

 

 

 ギルバートは「結界」の魔法を随分と使い慣れてきたので、かなり応用が利くようになっていた。

 

 今も、かなり繊細に成型することで、反射属性を相当に強化してある。おかげで小さな魔獣は手酷い傷を負って、這う這うの体だった。

 

 本来、魔法の盾は防御が目的のため、反射はそこまで強化する必要はないのだが、ギルバートは色々出来ないか、常に実験しているのだ。

 

 昼食を済ませ、少し休んでから三人は探索を再開した。そして小魔獣討伐とマッピングを続けること暫し。

 

 

 

 ついにギルバート達は、下層への道と思われる細い下り坂を発見したのであった。



************************************************

本日、2話目。3話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


************************************************

次回予定「竜2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ