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作戦会議3

110 作戦会議3






 グレイヴァル近郊の森の隠れ家に戻ったギルバートは、シャルロットとの会談内容を、テーブルについたエリーと、椅子の背に留まるケルに話して聞かせた。

 

 すべての隠れ家にテーブルやイス、棚などの家具が入って、ちゃんと部屋らしくなっている。

  

  

 ギルバートは全て話すと勢い込んで立ち上がり、早速、明日朝一番で領主の城に行き、未署名の念書をもらって出発しよう、とケルを見たが、ケルは首を横に振って待ったをかけた。

 

『気持ちは分かるが、焦るなギルよ』 

 

 ケルにそう言われ、多少不満だったが、ギルバートは一旦、落ち着く事にして、エリーのとなりに座りなおした。


 そう、ギルバートは、自分が焦っているのかもしれない、と自覚していた。


 ゼクストフィール王国中に指名手配されて、早数か月。監視を外して隠れ家に移り住み、防衛策を立てて実行し、日常生活は一応、安定していた。

 

 王国からは今のところ、攻撃や積極的な敵対行動の気配はない。


 自分だけなら、元々引きこもり気味だった今までの生活とそう変わらないし、たいして苦でもない。

 

 だが、やはりエリーを元の、会いたい人間に自由に会いに行ける生活に戻してやりたい。常に狙われているかもしれない緊張感から解放してやりたいと思うのだ。


 正直、手段があるというなら、さっさとやってしまいたいと思うのだが、そう思っているという事はやはり、ギルバートも焦っている、追い詰められているという事なのかもしれない。


『……落ち着いたようだな?』


「まあね。それで、とりあえず明日、念書をもらいに行って、その後どうしようか?」


 当然、何か案があるんだろうな?という少し不機嫌な目でギルバートがケルを見た。

 

 ケルは、そんな視線など柳に風と受け流す。


『無論だ。当たり前の事だが大貴族の警備兵はみな手練れだ。領主やその一族を守る護衛ともなると一騎当千の者ばかりなのは、リンドヴァーンで体験している筈だ』


 そう言われて、ギルバートは即座にリンドヴァーン伯爵の護衛兵に冷や汗を掻かされた事を思い出した。

 

 エリーと離婚しろと言われ、ブチ切れた瞬間、いつの間にか、あと一歩で必殺の間合い、という程の位置まで護衛兵達が近づいて来ていた。

 

 あのまま戦闘になっていたら、リンドヴァーン伯爵は討ち取れたかも知れないが、自分も高い確率で殺されていたかもしれない。

 

 それどころか、自分だけ殺されていた可能性も決して低くは無かっただろう。


「……まさか、三家とも、あのレベルの兵が揃っているのか?」


『そうであっても、おかしくはないという事だ。それゆえ、出来る限りの準備をしっかりしておいたほうが良い、と某は思うのだ』


「……良いと思うよ、ギル」


 エリーがケルに賛同の意を示す。無論、ギルバートも賛成に決まっている。ギルバートはエリーに頷き、ケルを見た。

 

「分かったよ。で、具体的には何を準備する?」 

 

『無論、我々は魔法使いだ。用意するのは魔法石だな』


「魔法石は、もう十分集まってるだろ?」


 ギルバートが首を傾げた。実際、既にその辺の小領地の城であれば一人でも簡単に制圧できるほどだ。リンドヴァーン並みの城であってもギルバートとケルが二人でかかれば、何とかなるのではないだろうか。

 

『確かに十分と言えるだろうが、完璧ではない。安心材料はいくらあっても多すぎるということはない』 

 

 ケルはそう言うと、「フフンッ」とでも言いた気に嘴の端を吊り上げた。

 

『三家に乗り込む前に、どうしても欲しい魔法石があと一つある。それを獲りに行くとしよう』 


 ケルがそこまで言うのであれば、相当に優秀な魔法石だろう。ギルバートは既に焦りも不機嫌も忘れて、興味津々になった。

 

「何の魔法?」


「持ってるのはどんな魔獣?」


「何処に居るのか、知ってるの?」


 同じくエリーも興味津々の様子で、二人でケルに矢継ぎ早に質問する。

 

『落ち着け二人とも』


 再びケルに宥められ、ギルバートとエリーは口を閉じて答えを待つ。ケルはそんな二人を順に見ると、おもむろに口を開いた。

 

『……王都の北に、昔から有名な攻略不可と言われたダンジョンがあってな。そこの上層階に強力な魔獣が居座っている。それゆえ、それ以下の階層は探索が出来ていない未知の階層であり、何階層まで存在するかすら分かっていない、そんな場所だ』


 そう言って、ケルはいったん間を置いた。ケルの語りは相変わらずもったいぶっている。ギルバートは黙って続きを待つ。

 

 それにしても、昔というからには、ケルが人間だった頃から、という事か。それほど長く討伐されない魔獣なら、相当だろう。

 

『その魔獣は、子供でも知っている有名で強力な魔獣だ』


 ……ん?子供でも?そんなに有名で強力な魔獣といえば、アレくらいしか思いつかないが

 

 ギルバートがその魔獣を思い浮かべたとたん、正解だ、と言うようにケルが頷いた。

 

『魔獣の名は竜。そのダンジョンの上層階には小型の竜とその眷属達が居座っているのだ』

 

 ケルがそう言った瞬間、ギルバートは目を見張り、あんぐりと口を開けた。


 その辺の森に居る魔獣ですら、大きくて強力で凶悪だ。そして、それらすべての魔獣や魔物の頂点たる存在が、竜なのだ。

 

 確かにギルバート達は魔獣を狩って生活しているが、勢力図の端っこの弱い魔獣を狩っているに過ぎない。

 

 それが並み居る強力な魔獣や魔物を全てとばして、いきなり頂点に挑むというのは、無謀に過ぎるのではないだろうか。

 

 正直、ギルバートは、竜に挑むくらいならリンドヴァーンの騎士達に挑む方が全然易しいのでは?と思った。

 

 だが、ケルが不敵に笑いながらギルバートを見て言った。

 

『大丈夫だ、ギル。某はこれまで、ギルの成長を見てきた。勝てぬ戦いを勧めたりせんよ』

 

「ケル……」 

 

 不思議なもので、ケルに確信的にそう言い切られると、ギルバートは何だかやれそうな気がしてきた。

 

『それに、全くの無策というわけでもない』


 ケルはそう言うと、バッサバッサと飛び上がり、棚の上から小さな袋を銜えて戻って来ると、ギルバートの目の前に置いた。

 

「……これは?」


『開けてみると良い』 


 ケルが何やらもったいぶるので、ギルバートはエリーの顔を見たが、エリーも分かっていないようだったので、袋を開けて中身を取り出した。

 

 中に入っていたのは、たくさんの魔法石だった。

 

 その計十一個の魔法石の内、「認識阻害」「暗視」「消音」「身体強化」「火」「水」「土」「硬化」「飛行」の九個は、ギルバートは全て見たことがあり、判別できた。

 

 残り二つの見たことのない魔法石は、茶色と緑色のマーブル模様の透明な魔法石で、ケルによれば「沼化」の魔法石との事だった。

 

「どうしたの、これ!?」


 エリーが目を丸くしている。ギルバートも同じ気持ちだ。

 

『何、春から一人で集めておったのよ。どうだ、驚いたであろう?』


 何やらケルが物凄く得意気だ。超ドヤ顔だった。

 

 だが、まさか、ケルがそんな事をしていたとは。確かに凄いドヤ顔になるだけの事はある、十分すぎる成果だった。

 

『これを、ギルと某で分ければ、お互い、ほぼ同じ魔法が揃うであろう?』


 ギルバートは思い出してみた。これを分ければ、あとはケルが「集塵」「擬態」「解毒」「警報」「木魂」の魔法石を持っていないのと、ギルバートが「雷」「憑依」「調伏」を持っていないだけになる。 

 戦闘に関係ありそうなもので言えば、揃っていないのは「雷」と「水」くらいだ。

 

「『水』の魔法石はどうする?」


『ギルが持つがよい。某には「雷」がある』


 ケルがそう言うので、ギルバートは有難く、「水」「認識阻害」「暗視」「消音」「沼化」の五つの魔法石を新たに装備した。

 

 そして、ケルは早速残りの「火」「土」「硬化」「身体強化」「飛行」「沼化」の六つの魔法石を食べて、吸収した。

 

「身体強化」の効果か、はたまた魔法石をたくさん食べたことによるものか、ケルは一段と逞しくなり精悍な顔立ちになった。


 頭の飾り羽も以前よりさらに派手になっている。

 

 正直、今は肉弾戦でも全く勝てる気がしないほどだ。

 

『……これで、あとは竜を倒せば準備完了、として良いだろう』




 ケルは一つ頷くと、満足そうにそう言ったのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ちなみに、ケルが食べる前に、念のためもう一度、エリーが十一個の魔法石全てに触れてみたが、やはり「水」の魔法石しか適正は確認できなかったのであった。



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本日、1話目。3話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「竜」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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