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巨木の森へ

11 巨木の森へ






 ギルバートは裏庭で、念動の魔法を試した後、しばらく待っていてもエリーが来ないので、今日は来ないと判断して、一旦、自分の部屋に戻った。

 

 そして、外出着に着替えて家を出た。

 

 まあ、外出着と言っても、普段着の上にくたびれていない、よそ行きの服を一枚重ねただけだったが。

 

 外出の目的を極力悟らせないために、武器は嵩張らない短剣を選び、籠手、脛当て、胸当て、兜と一緒に背負い袋に入れて担ぐ。

 

 街の外に出るのに弓くらい持ってないと逆に不自然かと思ったので、弓と矢筒は服の上から見えるように担いだ。 

 

 正直、武器や防具を持っているのがバレても、魔法石を獲りに行くという目的と結びつくはずもないのだが、ケルの脅しが少々効きすぎたせいか、ギルバートは念には念をいれる。

 

『主殿、のんびり時間を掛けられないのであれば、効率よくいこう』 

 

「うん」


 ケルと話しながらも、ギルバートはケルの指示に従って西の街門へと歩く。 

  

『主殿が魔法使いであると公言するとして、自らとエリザベス嬢を守る為に、最低限必要であろうと某が考える魔法は「飛行」「身体強化」「結界」「重力視」だ。入手に要する時間、難度、有用性を鑑みて選んだ』

 

 ギルバートは一つ頷いて先を促した。

 

『まず移動効率を上げるため、「飛行」の魔法を獲りたい。いざと言うとき逃げるためにも役に立つ』


 そんな羽目にはなりたくないと思いつつ、ギルバートは頷く。

 

『次に最低限の攻撃力は現状、「念動」で賄うとして、「結界」か「重力視」の魔法を獲りたい。「結界」は自分やエリザベス嬢を守る盾を作り出す魔法、「重力視」は視界にとらえた相手にかかる重力を強くする魔法だ。分かりやすく言えば、目で見た相手を重くする魔法だな。多人数の敵を殺すことなく押さえつけることが出来る。攻めにも守りにも役に立つ』


 なるほど、凄そうだとギルバートは思った。

 

『余裕があれば「身体強化」の魔法も獲っておきたいな。攻め、守り、逃走、あらゆる面で役に立つ。一番最初に獲りに行きたいくらいだが、四つのなかで最も難度が高い』


 難度と聞いて、ギルバートは思わず喉を鳴らした。

 

『当然、全て、魔獣を殺して奪う事になる。魔獣はそれぞれの魔法を使って襲って来るので、主殿には頑張ってもらう必要がある』


「うん、頑張るよ」


 ギルバートはもちろん、覚悟はできているつもりだ。

 

 ただ、単独で魔獣と闘わなくてはならないので、どうしても恐怖と緊張が拭いきれなかった。

 

 秘密を守る意味でも、誰かに助力を頼むことはできないからだ。

 

 


 西門を抜けて四半刻ほどで穀倉地帯も抜けると、森の端に着き、そのまま間髪入れずに森に入った。

 

 ギルバートはこちら側、西側の森へは殆ど来たことが無い。

 

 西側の森も東側の森も、街の近くはさほど変わらないと言う話だが、それでも西側の森の方が魔物が多い、というのはこの街ではよく知られているからだ。

 

 ギルバートは森の街道をひたすらケルの言う通り進んで行く。


 しばらくは順調に歩いたが、途中でケルの導くまま、獣道に逸れ、進行速度はやや遅くなった。

 

 さらに進むと獣道はどんどん細くなり、ある時、その獣道すら外れて森の奥へと進んで行く。

 

 森の奥へ行くほど、空気中に含まれる魔力濃度が高くなり、植生も徐々に変わっていった。

 

 時折目にする獣も小型のモノばかりだったのが、昼前には中型以上の獣が見られるようになってきた。

 

 じきに魔獣も出始めるだろう。

 

 魔力濃度が高い程、魔獣にとって生きやすく、ダンジョンも生れやすい。そして、ダンジョンが死ねば崩落して窪地になる。

 

 そのため、森の奥へ行けば行くほど、大きな起伏が多くなり視界はますます悪くなっていった。

 

 道を拓きながら進むのは大変な労力が必要なため、極力、木々の隙間を縫って歩いたが、それでも最低限、邪魔な草や木を排除して進むため、一気に進行速度は遅くなってしまった。

 

「ハァ……ハァ……」


 毎朝の鍛錬で鍛えているし、森歩きも慣れているつもりだったが、それはあくまで道らしい道があっての話だったようで、ギルバートは急激に体力を消耗していった。

 

 おまけに弁当を持って持ってこなかったせいで、空腹も、ギルバートの体力を奪ってゆく。


 とうに昼を過ぎ、周りを見ても斜面と森の木々しか見えない。


 幸運にも、まだ魔獣や魔物には遭遇していないがいつ襲われてもおかしくない状況に、体力だけでなく精神力も削られていった。

 

 「エリザベスと結婚するために」という強い動機が無ければ、ギルバートは早々に挫けていただろう。

 

 ギルバートは一人でこんな見知らぬ森の奥まで来るのは初めてだ。

 

 「貧乏貴族で、平民とたいして変わらない」と嘯いてみても、結局ギルバートも世間的には苦労知らずの貴族のボンボンだった。 

 

 だがギルバートは汗をぬぐい、黙々と歩き続けた。

    

 全く先を見通せない森だったが、ケルは迷わず行く先を示し続けている。

  

 遅々として思うように速度を保てず、強引に進もうとすれば、草や枝で細かい傷を負う。

 

 だが、そんな風に、さらに一刻ほども歩き続けると、急激に森の様子が変わってきた。

 

 下草や低木が一気に減り、大きくて背の高い巨木が増えて、木々の隙間も大きくなり、歩きやすくなって来る。

 

『空気中の魔力がかなり濃くなってきた。周囲の様相から見るに、主殿、そろそろ目的の場所が近いようだ』 

 

 ケルのその言葉を聞いて、ギルバートは持って来た胸当て、脛当て、籠手、兜を身に着け、短剣を腰に吊るす。

 

『主殿、防具はあくまで念のためくらいに考えておくとよい。強力な魔獣の攻撃をまともに受ければ防具など、ほぼ役に立たん。可能な限り回避するように』


 そんなケルの有難くない助言のおかげで、ギルバートの緊張はどんどん高まってきた。

 

 巨木の森を、さらに奥へと進んで行くと、小川に行き当たった。ケルによれば、すでに標的の縄張りに入っているらしい。

 

 ギルバートは軽く小川を跳び越えるとさらに奥へと四半刻ほども歩き続けた。

 

 このままではじきに日が暮れる、ギルバートが焦りを感じ始めた、そんな時だった。

 

『いたぞ主殿。正面の、その巨木の上の方だ。見えるかね?』


 ギルバートがケルの示す巨木を見上げる。

 

 枝葉が重なり合って落とす影の中、相当高い位置に、巨木の幹が不自然に大きく膨らんでいる箇所があった。

 

 瘤にしては大きすぎるし、広範囲の上、形も歪だった。

 

 ギルバートがもっとよく見ようと目を凝らした、その時だった。

 

 

  

『来るぞ!主殿!』



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追加2話目、ラストです。明日からは毎日1~2話更新の予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「襲撃」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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