密会2
109 密会2
「……うちの古株の文官に、大魔法使いの信奉者がいてな。その男が魔法使いに関する法律にとても詳しいんだよ」
シャルロット言った、その男をギルバートは知っている気がした。
「多分、うちの父と同じく下級文官の執務室で働いている、年配の人じゃないですか?オレとエリーが婚姻届けに来た時、書類を出して来てくれた人です」
「そう、その男だ。よく覚えていたな。あ奴は魔法使いの話が好きでな。ギルバート達が来た時は、楽しそうに話していたようだ」
「だったら、今こんな事になって、申し訳ないですね」
ギルバートは何となく気が咎めた。それ程の義理はないのだが。
「いや、あ奴は黙っておれば良いだけだ。むしろ、君の父上や奥方の父上の方が辛かろうな」
それはもちろん、ギルバートも懸念していたが、どうしても譲れない決断の連続だったのだから仕方がない。
エリーを諦めることはどうしても出来なかったし、エリーを襲って来た連中、命令した連中を、生きたまま野放しにする事など出来なかった。
自分の事は、とっくに捨てた不良品だ、と開き直ってくれれば良いとは思う。まあ、エリーの親父さんはそんな訳はいかないだろうが。
「……まあ、それは良い。それよりも、その男が言うには、過去の愚王のせいで大魔法使いを失った、その次代の王により、魔法使いに関する特別法がたくさん作られたらしい」
それは何となく、ケルに聞いている。
「その中に、魔法使いのための特例措置やその法令化と言うものがあるらしくてな。それを適用出来れば身分の差は克服できるのではないか、と言っていたよ」
「……つまり、たとえ身分が下でも、魔法使いが理不尽な目にあったら、やり返しても良い、とかそういう法律を作るって事ですか?」
ギルバートは考えて言葉を選ぶ。
「……自分で言うのもなんですけど、そんなの作ったら、逆に魔法使いが手に負えなくなるんじゃないですか?」
「もちろん、そうなるだろうね」
シャルロットは、訝しがるギルバートを見て面白そうな顔をした。
「だから魔法使いに対して、ではなく『ギルバート』を特例で赦し、これからも君に手を出した者は誰であっても、君自ら懲らしめるべし、という法を作るのさ。早い話、君のケンカは君が勝手にやってくれ、国は知らないよ、っていう法だな。それなら今後、魔法使いが発見されても問題ないし、今はギルバートしか『居ない』んだから、他の魔法使いに文句を言われる事もないだろう?」
なるほど、とギルバートは思った。だが、なかなか荒唐無稽ではないだろうか。
「……そんな事できます?」
「無論、簡単ではない」
シャルロットは、彼女のいつもの穏やかな言動に不似合いな、少し凶悪な笑顔を見せた。
「まずは、貴族らしく『根回し』だ。相手は序列一位~五位の大貴族。その中から三家以上の賛同を得なくてはならない。アドリアーノ公爵家は当主不在でそんな決定など下せないから、残り四家の中から、だな。それさえ出来れば王家も無視できないし、ひいては貴族社会全体も従わざるを得なくなる」
「……やっぱり無理じゃないですか?」
ギルバートはちょっと考えて無理だと思った。
「そりゃ、権謀術数や金や彼是を使うやり方は、君には無理だろう」
シャルロットは、涼しい顔でそう答えた。それが事実だとしても、やはりギルバートは失望を禁じ得なかった。
だが、シャルロットの言葉にはまだ続きがありそうだ。ギルバートは絶望しそうになりながら彼女の言葉を待った。
「……だが、君は魔法使いだろう?得意の魔法で『説得』してまわればいいじゃないか?」
「……それって」
ギルバートが戸惑いつつ、シャルロットを見ると、彼女は今度こそ、思いっきり凶悪な笑みを浮かべていた。
「ああ。思いっきり『説得』してくると良い。ただし、出来るだけ人死には控えてな。あと、領主家の人間は絶対殺すな」
なるほど。しかし……。
「でも、勝ってしまったら、結局その家も敵になるのでは?他の家と協力とかされても困りますよ?」
ギルバートがそう言うと、シャルロットは首を横に振った。
「兵を率いて攻め込まれたなら、それもあり得るが、たとえ魔法使いと言えども、たった一人相手に負けました、などと他家に助けを求めることは絶対に無いと言える。貴族はなんだかんだ言った所で、面子が命だからな。高位貴族なら、猶更だ。約束も無しに押しかけて、当主に会わせろと詰め寄れば、自然と舞台は整うだろう」
シャルロットは、フフフと不敵に笑った。
「その後、『王家以外に口外しない代わりに不問にする』『法案には賛成する』という念書に署名させれば、面子にかけて約束を果たすだろう。念書はうちで作っておくから明日にでも取りに来るといいよ。必要なら立会人にする文官も出そう」
「いえ、文官は良いです。それ程面子が大事なら、誤魔化しなどしないでしょうし、誤魔化したら、次はもっと酷い目に遭ってもらえば良いだけです。そういう感じでいいならオレでもやれる気がしてきました」
ギルバートもやる気満々の顔で口角と吊り上げた。
「その意気だ。見物出来ないのが残念で仕方がないよ」
ニヤリと笑うシャルロットを見て、ギルバートは、ようやく彼女が嘗て女傑と呼ばれていたという話を実感した。
何となく、今でも戦えるのではないか、と思わせるほどの覇気が滲み出ている。
「……シャルロット様に相談して、良かったです。ありがとうございます」
「いいんだ。友達の間で、遠慮など必要ないさ」
シャルロットはギルバートに向って、片目を閉じ、グッ!と親指を立てて見せたのだった。
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本日、2話目、ラストです。
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次回予定「作戦会議3」
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