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グレイヴァル2

104 グレイヴァル2






 エリーが使える魔法石の判別が終わると、次は魔法石の配分だが、こちらもすぐに決まった。

 

 ギルバートが魔法具を作ってみたいと言ったので、「木魂」の魔法石と「警報」の魔法石はギルバートが持つことになった。

 

 そして、エリーが唯一使えた「擬態」の魔法石は二つあったので、ギルバートとエリーが一つずつ持つことになった。

 

 ケルに聞いたら、「認識阻害」の魔法があるので「擬態」の魔法は不要、との事だった。

 

 最後にクルエルダードから手に入れた「雷」「結界」「重力視」の魔法石だが、ケルが欲しいと言うのでケルの物になった。理由はケルの戦力アップのためだ。

 

 以前のギルバートがそうだったように、現状、ケルには「念動」の魔法以外、戦闘に使える魔法がない。

 

 そして物理無効系の敵にたいする攻撃手段がない。

 

「雷」の魔法があれば、物理無効系の敵にも攻撃可能だし、「念動」の魔法よりも遠距離まで攻撃できるようになる。


 そしてもう一つの理由が、消費魔力の問題だ。

 

「雷」の魔法石は基本の魔力消費量が他の魔法より格段に多いのが特徴で、試しに使用してみると、魔法効率が規格外に優れているギルバートであっても、相当に負担が大きかった。


 その点、ケルであれば魔獣ゆえに魔力量はギルバートの比ではなく、そこまで大きな負担にはならない。

 

「結界」と「重力視」の魔法石については、すでにギルバートも持っているためこちらも自動的にケルに振り分けた。

 

 そういう訳で、魔法石をそれぞれに分配すると、ケルは早速、「雷」「結界」「重力視」の魔法石を食べて吸収した。



 その後、ギルバートとエリーはケルの指導の下、「擬態」の魔法の練習をした。

 

「集塵」の魔法と同様、「擬態」の魔法は、ケルが「攻撃魔法」や「防御魔法」ではなく、「小魔法」に分類している、謂わば、魔獣達の「生活魔法」だった。

 

 それゆえに、威力も効果範囲も極少だが、同時に消費魔力も非常に小さく、使い勝手が良い。



 ギルバートとエリーは、リンドヴァーンやリオーリアで身近に接した宿屋の主人や従業員を思い出し、擬態した。

 

 いつものことながら、ギルバートは一度でスッと成功したが、エリーはしばらく上手くいかず、夕食前までかかってようやく成功した。

 

 エリーは少し気落ちしたが、実際には、午後のほんの数時間で一つの魔法をマスターするなど、普通ではありえないほどの習得速度だ。それに、既に「集塵」と「水」の魔法の扱いは相当に熟練していると言って良く、十分、凄腕の魔法使いと言える力量であった。

 

 ケルがそう言って褒めると、エリーの気分はすぐに鼻歌が出るほど回復した。

 

「ま、まあ、わたしは『集塵』と『水』しかないから、こればっかり練習してるからねー♪」

 

 

 そんなこんなで、ギルバートとエリーはお互いに、別人になった自分の連れ合いをじっくりと見たが、大いに違和感を覚えた。

 

 そして同時に、自分達の隠れ家に全然知らない人が居るのが妙に可笑しくて、二人して笑いあった。

 

 

 夕食後、実験と練習を兼ねて、ギルバートとエリーは、「擬態」の魔法をかけたまま就寝することになった。

 

 ケルによれば、寝る前に、自分にキッチリ「言い聞かせる」ことで、眠っている間も魔法が解除されることは無くなると言う。

 

「結界」の魔法や「念話」の魔法など、場合によっては就寝中でも、効果を切らさない使い方をするので、ぜひ覚えたい。

 

 


 ☆

 

 

 

 翌朝、エリザベスが目を覚ますと、自分の隣で知らないおじさんが寝ていて、死ぬほど驚いた。

 

 

「きゃああああああああああぁっ!?」


「エリーッ!?無事かッ!?」


「クケエエエエエエエエエエェッ!?」



 ケルがバッサバッサと羽ばたき、知らないおじさんが自分を愛称で呼び、エリザベスを背中に庇うのを見て、やっと昨夜のことを思い出した。

 

 ちなみに、エリザベスの「擬態」の魔法は、起きた時には既に解除されていた。



「……あーごめん、おじさんじゃなくてギルだった」



 エリザベスは、寝ぼけてギルを知らないおじさんと思って慌てたことを告げて、二人に謝った。


 二人は相当ビックリしたようだったが、快く(?)許してくれた。


 

 

 その後、昨日の残りのスープが入った寸胴鍋と、同じく昨日の残りの魔獣肉、干からびた植物魔獣を持つと、グレイヴァル近郊の森の隠れ家へと飛んだ。

 

 ケルが用心深く魔力を探り、周囲に誰もいない事を確かめた後、結構離れた位置から森に入った。

 

 そして森の中を低速で飛行し、三人は隠れ家に戻ってきた。

 

 隠れ家に入ると、まず寸胴と自分達用の干からびた植物魔獣を台所に置き、アンナおばさんにおすそ分けする分の干からびた植物魔獣と魔獣肉を持って、一階層の入口から外に出た。


 一応、隠れ家に施錠すると、ギルはエリザベスを連れて、再び森の中を低速で飛んだ。森の上空を飛ぶと遠方からでも丸見えだからだ。


 暫くして、森を出ると、エリザベスとギルは「擬態」の魔法をかけた。

 

 すると二人は知らないおじさんと女の子の姿になった。

 

 おじさんの肩にはデカい鳥型魔獣が止まっていたが、ケルは常に「認識阻害」の魔法と「念話」の魔法を使っているので、周りから見ればおじさんと女の子の二人連れだった。


 そうして三人は、時間を掛け、徒歩でグレイヴァルの街に入った。


 しばらくぶりに戻ってきたグレイヴァルの街は、一見したところ、特に変わった様子は無かった。

 

 エリザベスとギルは、おすそ分けする予定の荷物を抱え、アンナおばさんの家を目指して歩いた。

 

 最近まで、細かい移動も「飛行」の魔法で移動していたため、自分の足で歩く速度が何とも遅く、もどかしい。

 

 

 ……ここの所、ずっと魔法で楽させてもらってるから、すっかり鈍ってるわね

 

 

 エリザベスは便利すぎる魔法の危険性を、少しだけ実感した。

 

 その後も二人は、軽く息を切らしながら平民街を歩き、ようやくアンナおばさんの家に到着した。


 入口の扉を叩くと、少ししてアンナおばさんが外に出てきた。

 

「……やあ。アンタたち、見ない顔だね。ここいらで何の用事だい?」


 アンナおばさんはいつもの親しみの持てる笑顔ではなく、事務的な声と態度でそう言った。

 

 さて、こまったぞ、とエリザベスは思った。こんな人目のあるところで「擬態」の魔法を解除するわけにはいかない。

 

 出来れば家の中に入れて欲しいのだが、何と言えばいいのだろう。

 

 そう思った時、ギル扮するおじさんが、すっと一歩前に出た。

 

「アンナさん、わたし達はギルバートとエリザベスの使いです。内密の話もありますので、ひとまず中に入れていただけませんか?」


 ギルがそう言うと、アンナおばさんは軽く目を見開いた。そして、黙ってうなずくと扉を大きく開けて二人を中に誘った。



『某はしばらく、周囲を監視する』


 ……分かった。ケル、頼む

 

『任された』


 

 同時に、ケルとギルの念話が聞こえる。という事は、今、ギルとも念話で繋がっているようだ。

 

 エリザベスは変な事を考えないよう、ちょっとだけ気を引き締めた。

 

「それで、二人から伝言っていうのは?」


 家の中に入り、扉を閉めるなり、アンナおばさんが心配そうな顔で、そう聞いて来た。


「はい。アンナさん、まずは驚かないで聞いて欲しいんですが」


「……何だい?嫌な話じゃないだろうね?」


 驚かせないように、慎重を期すギルの言い回しに不穏なものを感じたのか、アンナおばさんが眉をしかめる。

 

「いえ、そういうのじゃないです。でもややこしい話で……」


 アンナおばさんは疑問符を浮かべながら首を傾げている。

 

「えっと、まず、伝言というのは嘘です。ごめんなさい」 

 

「え?」


「それで、オレはギルバートで、こっちがエリザベスです。魔法で姿を変えているんです」


「は?」


「今から、元の姿に戻るので、驚かないでくださいね」 

 

「えっ?」 


 ギルは全く理解が追い付いていないアンナおばさんに対し、次々と言葉を投げてゆく。

 

 そして、ビックリして腰が抜けても大丈夫なように、念のため、アンナおばさんを椅子にすわらせて、「擬態」の魔法を解除した。


「ひゃあああああぁっ!?」

 

「……おひさしぶりです」


 アンナおばさんは目を真ん丸にして、驚いた。

 

 そして、今度はエリザベスが「擬態」の魔法を解除すると、また同じように驚いた。


「ひぇええええええええぇっ!?」


「ただいま、アンナおばさん」




 結局、座っていても、アンナおばさんはやっぱり腰を抜かし、しばらく動けなくなったのであった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「生存報告」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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