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春半ば

103 春半ば






 ギルバートがアドリアーノ公を始末し、グレイヴァル近くの森の隠れ家に戻ってから、まず問題になったのは、既に敵に知られ、監視を受けている隠れ家の移動と、これからの日常物資の買い出しだった。

 

 そもそも買い出しどころか、冒険者ギルドを使えなくなるので仕事をどうするか、日々の糧をどうやって得るかと言う問題もあった。

 

 隠れ家移転の問題は、ケルが自分に任せろと言い、リンドヴァーン伯爵の城から「木魂」の魔法石を盗って来た事で解決した。

 

 ギルバートはこれまで、基本的に反撃しかして来なかったつもりだし、悪い事は極力しない主義ではあったので、ちょっとだけモヤモヤした。

 

 だが、そもそもこの「木魂」の魔法石は、昔、ケルが持っていたケルの物で、国の貴族たちに不当に奪われた物であり、それをケル本人が取り返しただけだ、と思い直した。

 

 昔、ケルの魔法石を盗った連中と、リンドヴァーン伯爵家が関わっていない場合、リンドヴァーン伯爵家は善意の第三者という事になるのかもしれないが、そもそも大魔法使いを殺して奪った魔法石だ、と分かっていて取引していた貴族たちは全員関係者、もっと言えば共犯者と言っても過言ではない。

 

 ……よし。ケルは悪くない。オレも悪くない

 

 ギルバートは、そう考えを纏め、「木魂」の魔法石に関する思考を打ち切った。

 

 

 次に買い出し問題だが、これはケルが良い魔法石を知っていたので、早速、皆で獲りに行くことになった。

 

 魔法石のカテゴリとしては「集塵」の魔法石に近い魔法石らしく、ケルは「擬態」の魔法石と名付けたらしい。

 

 

『お、そら、そこに居るぞ』


「えっ?どこどこ?」


「全然、分からないんだが……?」 

 

 

 ケルに連れられ、ギルバートとエリーはリオール領の領都リオーリア北部の山岳地帯に来ていた。

 

 時刻は昼前あたり。

 

 この山岳地帯もグレイヴァル南部の山岳地帯と同じく、それほど急峻な斜面はなく、木々もまばらで下草もしっかり生えていた。

 

 いま、ギルバートとエリーが必死に探しているのは草木に擬態する魔獣らしいのだが、探しても探しても一向に見つからなかった。

 

『二人とも、これだ』



 ケルの魔法の腕は、ギルバートとエリーには見えないので、ケルはまず落ちている小枝で指して、擬態しているらしい魔獣の位置を示した。

 

 そして、ギルバートとエリーが注目すると、ケルは「念動」の魔法の手で低木の枝を掴む。その瞬間、枝がうねうねと激しく暴れ出した。


 ギルバートとエリーには、枝が突然、低木から引きはがされて暴れ出したように見えていた。

 

 その姿は正直、気持ち悪いが、よく見ると根元の方が膨らんでおり、魔法石を持っているのが分かった。

 

 そしていつの間にか擬態は解け、木の枝とは似ても似つかない、たくさんの触手を生やした植物のような魔獣だと分かった。



「ケルがこういうのを素早く見つけられるのって、魔力感知能力が高いからだよな?」


『左様、まあ長年の経験だな』


「でも、『魔力感知』っていう魔法もあるんだろ?」


『あるとは聞くが、残念ながら某は見たことがないな。まあ「警報」の魔法でそれなりに代用は利くのだ。「魔力感知」の魔法については、いずれ、と考える他あるまい』


 ギルバートは残念だったが、ケルがそう言うならそうなんだろうと納得した。

 

 兎にも角にも、まずは魔法石だ、と言う事で、うねうねしている魔獣を押さえ、緑の不透明の魔法石を取り出した。

 

 魔法石を取り出された、植物っぽい魔獣は途端に萎れ、干からびた様になってしまった。

 

「魔法石は獲れたけど……魔獣肉は無さそうかな?」


『と、思うだろうが、この干からびた物が良い出汁の出る食材なのだ』


「えっ?ほんとに!?」


 途端にエリーが、魔法石より食材に喰いついた。

 

『うむ。少量入れるだけで、相当旨味が出るはずだ。魔法石が育っておらずとも良い、と言うのであれば、その辺を探せばまだそこそこ居るはずだがな』


 ケルがそんなことを言うので、急遽、食材探しとなった。

 

 三人で手分けして狩った結果、アンナおばさんにおすそ分けしても、当分持つほど獲れた。

 

 そして、十分育った「擬態」の魔法石がもう一つ獲れたのは幸運だった。

 

 いつの間にかお昼時になったので、三人は急ぎ、適当な小型魔獣を狩って、新しく移ったリオーリアの東の森の隠れ家で、昼食をとることにした。

 

 狩ったのは一番、頻繁に見かけて狩りやすい鹿の魔獣だった。中型魔獣なので昼食を作って、夜の分を作っても、全く処理しきれない。

 

 結局、残りの肉もおすそ分けする事になった。

 

「うわあぁっ♪美味しいねぇ!」


「いや、マジで……店で食うより確実に美味いよこれ!」


 今回は、寸胴鍋にたくさん作り置けるという事で、エリーお得意の「肉野菜ゴロッとスープ」になったのだが、先ほど獲って来た、干からびた植物魔獣を少し削って入れただけで、いつもよりさらに数段美味しくなってしまった。 

 

 作ったエリー本人がビックリして目を丸くしているし、ギルバートもあまりの美味さに驚いた。完全に忖度なしで超絶に美味い。

 

「これはおばさん、喜ぶでしょ♪」


「間違いない」


 二人はにっこにこでちょっと遅めの昼食を平らげた。

 

 ケルは食べなれているのか、静かだったが、量はしっかりと食べていた。

 

 

 リオーリアの東の森の隠れ家は、移動前もそうだったが、移動後の新しい隠れ家にもまだ、調理器具以外の、ベッドなどの家具や生活物資を運び入れていなかった。

 

 その為、昼食後、三人は明るい三階層に集まって、床の上に最近手に入れた魔法石を並べた。

 

 いつものように、まずエリーが使えるかどうかを判別し、その後、誰がどれを持つかという配分を決めるのだ。

 

 なお、未だにギルバートが使えなかった魔法石は無かったし、もはやそれについて、ケルも何も言わなくなっていた。

 

 

 新たに手に入れた魔法石のうち、まだ持っていなかった物は四種類で、既に持っている物が二種類の、計七つだった。

 

 ・「雷」の魔法石。白く透明な魔法石。

 

 ・「結界」の魔法石。黄色から赤に色が変化する透明な魔法石。

 

 ・「重力視」の魔法石。深い赤色をした透明な魔法石。

 

 ・「木魂」の魔法石。金色に輝く透明な魔法石。

 

 ・「警報」の魔法石。薄い緑の透明な魔法石。

 

 ・「擬態」の魔法石が二つ。緑の不透明の魔法石。

 

 

 エリーが、ワクワク顔で一つずつ、触れて魔力を注入しようと試みてゆく。

 

 そして、今回も空振りが続き、全てダメかと思った時、またしても最後の一つに反応があったようだ。

 

 

「あっ!これ、入るよ♪」


「おぉ!」


『エリーまで、これで三つか。一体、何がどうなっておるのだ、お前たち夫婦は!?』


「ねー?」


 エリーは上機嫌で魔力が入った魔法石を摘まみ上げた。

 

 

 

 それは緑色をした不透明の魔法石、「擬態」の魔法石であった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「グレイヴァル2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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