エピローグ2
100 エピローグ2
「エリー!エリーーーーッ!」
夕方、グレイヴァルに近い森に設置した、隠れ家第一号に帰ってきたギルバートは、何よりもまず、二階層、三階層の窓の外から隠れ家の中のエリーを探した。
「あれー?ギル、早かったわね?」
ギルバートの声を聞きつけ、一階層にいたらしいエリーが二階層に上がって来て窓を開けた。
ギルバートは即座に隠れ家に飛び込み、エリーをギュッと抱きしめた。
あまりの温度差に、最初、エリーは戸惑いを隠せない様子だったが、それでもギルバートを抱きしめ返すと、しばらく二人でそのまま、無事を喜び合った。
少しして、ギルバートが落ち着くと、エリーが作った「肉野菜ゴロッとスープ」にパンを浸しながら食べ、夕食とした。
ギルバート達が帰ってくるまでの何食分かは、ずっとこれで済ませるつもりで、エリーが考えた手間節約料理だったらしいが、これがとても美味しかった。
自分の評価は贔屓目が入りすぎるため、当てにならない、とギルバートは思っていたが、やはり、エリーは料理の才能がある気がした。
ちなみにエリーは「水」の魔法を使えるようになった事がよほど嬉しかったらしく、あれからほぼ毎日、ちょっとしたことでも「水」の魔法を発動するようになった。
おかげで今では、水柱のように大規模に発動するだけではなく、小さな水玉を生成し、そこからコップにチョロチョロと水を注ぐといった繊細な作業も楽々熟している。
夕食の後は、エリーが魔法で注いでくれた、何となく美味しい水を飲みながら、早速、報告会&作戦会議となった。
・まず報告は、リオーリアと王都のアドリアーノ公爵邸を襲撃し、アドリアーノ公を無事確保、討伐したこと。
・その際、自分達以外の魔法使いに会い、戦ったこと、勝利した事、魔法石を獲得した事。
・その後、さらに別の魔法使いが現れた事。アドリアーノ公を引き渡すよう要求され、断ったこと。
・その魔法使いから、爵位剥奪と指名手配を予告され、脅された事。そして多分、その通りになるだろうという事。
・その際、その魔法使いが、今までずっとギルバート達を見張っていた、というような話をしていた事。
エリーは、魔法使いの話で目を丸くし、見張られていた話で眉をひそめた。
「……それは怖いね。今も見てるのかな?」
エリーは恐ろしそうに体を縮めると、周囲を見回した。
『いや……よほど優秀な魔法使いなら分からんが、今、隠れ家の周囲に、我々の行動を監視し、盗聴できるほどの距離には怪しい魔力は感じない』
「えっ?ケル、分かるの?」
エリーは、驚いてケルを見た。
『まあ、魔力感知の魔法がなくとも、某ほど魔力の扱いに熟達しておれば、自ずと魔力感知の技は向上するのでな』
どうやら、ケルは「魔力感知」という魔法がなくとも同じような事が出来るらしい。相変わらず凄い奴だ。
「まあ、その事もあって、次は作戦会議なんだけどね」
ギルバートはそう言うと、一番話したい内容を述べてゆく。
・王都に叙爵してもらいに行ったあたりから監視が付いているとすれば、その後で手に入れた魔法石、作った拠点等、全て知られている可能性が高い。これに対して対策したいという事。
・それらに対して、今思いついているいくつかの対策。
「なるほどー、色々忙しくなりそうだねー」
エリーがウンウンと頷きながら、真剣に話を聞いてくれている。
そんなエリーを見ていると、ギルバートはやはり罪悪感が湧いてきた。
「……エリー、ごめん。こんなことになっちゃって……」
ギルバートが謝りかけると、エリーが頭を振った。
「……ギル、真面目なのはいい事だけど、自分だけのせいだと思うのは間違ってるわ。だいたい、そもそもの最初にギルを巻き込んだのはわたしだと思うし。でも、わたしは後悔してないわ。一連の出来事はわたしたち二人が、二人の為に行った結果だもの」
エリーの強いまなざしを受け、ギルバートはつまらない事を言ったと思った。
「ごめん。オレもそう思う。もうこの事では二度と謝らないよ」
「うん、それが良いと思うわ♪」
そうして、ギルバートとエリーはすっきりした顔で見つめ合うと、二人とも満面の笑みを溢したのだった。
☆
ある爽やかな初夏の日。
その日、ギルバートは意を決し、エリーに手を出した。
ギルバートの背中を押したのは、皮肉にも、ゼクストフィール王国の貴族を敵に回した事で、完全に覚悟が決まったことだった。
別にそう言う覚悟が決まった訳ではないのだが、一つ決まれば連鎖的に決まるもの、なのかもしれない。(知らんけど)
ケルには「ちょっと暫くその辺を飛んできてくれないか?」とお願いした。
ケルは全てを察して、何も言わず飛び立ったという。
その後、ギルバートは、物凄く覚悟を決め、もの凄く決心を固め、「今日、世界が終わっても良い」くらいの勇気を振り絞って、エリーを呼んだ。
二階層に居たエリーはヒョイッと三階層の床から顔を覗かせた。
するとギルバートが、すでに有効射程距離が平均的成人男性の約九歩~十歩分ほどに伸びた「念動」の魔法の腕で、エリーを素早く抱き上げると、自分が待機しているベッドまで運んだ。
顔が赤くなる奇病にでも罹ったのか、と言いたくなるほど顔を真っ赤にしたギルバートを見て、全てを察したエリーは、自身もやはり頬を染めた。
だが、エリーは結構前から既に「いつでも来い!」状態だったので、混乱や恐慌に陥る事は無かった。むしろその点ではギルバートの方が危ないくらいだった。
だが、そんなエリーの協力もあり、二人はついに無事、事を為したのであった。
次の日から、二人はまたちょっとよそよそしくなったり、手が触れただけでも飛び離れたり、いちいち真っ赤になったり、口ごもったりした。
またしばらく、ちょっとだけ面倒な日々が続いたが、二人は次第に以前の距離感を取り戻していった。
ゼクストフィール王国の王宮は、国中に大々的にギルバートとエリーを指名手配したが、その後、これと言って目立った事件は起きなかった。
とは言え、水面下では分からないが。
やがて夏が過ぎ、また秋がきて、ギルバートとエリーは結婚して丸一年という節目を迎えた。
ケルとギルバートの立てた防衛計画は着々と形になっている。
いずれ、ゼクストフィール王国の王宮や貴族たちと、対決し、自分達の主張を分かってもらわなくてはならない。
そして、誰にも邪魔されない、安心安全で幸せな結婚生活を手に入れなければいけない、とギルバートは決意した。
しかし本当のところ、ギルバートは、現状でも「毎日めちゃくちゃ幸せだ」と感じてはいたのだった。
第二部・完
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本日、2話目、ラスト。
これにて第二部終了です。
明日から引き続き第三部を更新開始します。
第三部で完結します。
次回予定「人物(団体)・魔法石一覧2」はこの後すぐにアップします。
楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。
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次回予定「人物(団体)・魔法石一覧2」
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