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初めての魔法

10 初めての魔法






『ただ、まあ、主殿よ。戦いの覚悟よりも準備よりもまずは、エリザベス嬢と想いを確認しあう事が先決ではないかね?始めてしまった後で想いがすれ違っていた、などと言う事になれば、目も当てられんぞ?』 

「そ……それは……」 

 

 メラメラと燃え上がったギルバートの闘志が一瞬で萎む。

  

 それは、これ以上ないと言う程の正論だと思うし、出来るものならとっくにそうしている。

 

 と言う事は、出来ないという事なのだから、察してほしい。大魔法使いなら察してくれ。

 

 二の句が継げないギルバートは下を向いて唇を噛んだ。

 

『……主殿、意中の女性に想いを告げる事がそれほど困難な事なのかね?』


「こっ……こ、ここ、困難だよっ!こ、心の準備とか、自信とか、色々、あればあるだけ欲しいんだよ!だから魔法を使えるようになりたいんだ!察してくれよ!」

 

『……ふむ、それ程か。まあ、主殿がそう言うのであれば否やはない。残り時間がどれだけあるかも分からない、という事であれば、早速動いた方が良いからな』 

 

 ケルに、ものすごく呆れられた気がするが、仕方がない。ギルバートにはエリーに対して自分が誇れるところなど、一つも思いつかないからだ。

 

 エリーとは毎朝会って話すのだ。想いを告げる機会はいくらでもある。だが、勝機がなければただの機会などいくらあっても無意味なのだ。

 

 「長年の想い人」と「初恋の人」と「何でも話せる幼馴染」を一度に失うリスクがあるのだ。むしろリスクしかないのだ。

 

 時間的猶予がどのくらいあるかは分からない。もしかしたら全く無いのかもしれない。

 

 だがそれでも、ギルバートは告白前に出来ることがあるなら、たとえ一つでも多くやっておきたかった。

 

『主殿、ではまず、この魔法石が蓄えている魔法から……』 

 

 そしてついに、ケルの魔法講座が始まった。

 

 ケルによれば、通常、魔法を使える魔獣と言うだけですでに珍しく、ゆえに魔法石は希少であり、魔法石が蓄えている魔法は一つであることがほとんどだと言う。

 

 だが、今、目の前にあるこの魔法石は、ケルが鳥型魔獣に憑依した時、さらにその後の長い年月の間にいくつかの魔法石を食べて取り込み、現段階で「憑依」「調伏」「念話」「念動」の魔法を取り込んでいるという。

 

 はっきり言って超絶の上に超絶が十個くらいつくほどの超絶希少魔法石であり、もはや換金不可能なほどの価値があった。

 

 実際、ケルはギルバートに告げなかったが、何なら国王に「この魔法石を献上する代わりにエリザベスと結婚させてくれ」と願い出れば、王家の公認と保護のもとで、たやすく結婚できること請け合いだったし、単純に高値で売却して超絶成金になって、エリザベス嬢の父親を金の力で篭絡するという方法もあるのだがな、と思っていた。

 

 

 ともあれギルバートはケルの指導の下、現状試せる念動の魔法の練習をすることになった。

 

 ケルによれば、指導と言っても魔法石に魔力を注ぐだけだと言う。

 

 基本的には適正も相性も条件を満たしている状態なので魔力を注げば自然に理解できるらしい。

 

 魔力の扱いも、魔法石を握れば自然と、どうすれば良いかが理解できた。 

 

 ギルバートは言われた通り、じわじわと慎重に、魔法石に少しずつ魔力を注入していく。


 

 すると本当に自然に、自分の肩の先辺りから、自分自身の腕に重なるように別の腕が有ると感じた。

 

 ギルバートは思わず自分の肩の先を見たが、当然、腕は左右一本ずつ、自前の腕しか見えなかった。

 

 ただ、注ぐ魔力の量が少し足りないと感じたギルバートは、もう少し多めに魔力を注ぎ込んでみた。

 

 すると、自前の腕より短めだと感じていた魔法の腕が太く長く、グングンと伸びてゆくように感じられた。

 

 そして、ある程度以上は、魔力を注ぐ量を増やしても魔法の腕は大きくならなくなり、そこが限界だと分かった。

 

 目には見えないが、ギルバートは感覚的に、この魔法の腕は平均的な大人の男性の歩幅で五~六歩分程度の長さと、相応の太さが有ると感じていた。

 

 ギルバートが試しに動かそうと思ったとたん、魔法の腕は不思議と、自分の腕と同じように違和感なく、思った通りの動きをする。

 

 数歩先に落ちていた木の葉を摘まんで、拾ってみる。離す。

 

 次に小石を拾い上げ、軽く上に投げてみる。落ちてきた小石を魔法の手のひらで受ける。

 

 今度は此処から一番近い、街の外壁の方へ、思いっきり小石を投げてみる。

 

 今いる此処、我がフォルダー家の敷地は貴族街と平民街のちょうど境目あたりに位置している。

 

 大雑把に言えば、街の中心に領主の城があり、周囲に貴族街、平民街、街の外壁という配置だ。

 

 此処から街の外壁までは通り十数本、家数十軒ほどの隔たりがあり、結構な距離があったが、小石は物凄いスピードで飛んで行って見えなくなった。

 

 感覚的に外壁を越えた先まで飛んで行った気がする。

 

 正直、パワー、スピード、応答性、どれをとっても自前の腕の何倍もの能力だった。

 

 さらには、魔法の腕の届く範囲ギリギリにある、まあまあ大きい木箱を魔法の両腕で持ち上げてみる。

 

 自前の腕を使って同じ動作をすれば、体勢的に木箱のほうへ倒れそうになるだろうし、そもそも、そんな大きく前に手を伸ばしたような体勢では持ち上がらないだろう。

 

 だが、魔法の腕は軽々と木箱を持ち上げた上、自前の身体の体勢バランスには全く障らなかった。

 

「これは凄い……!」 


『出来るとは言ったが、これ程とは。主殿、見事な技前だ』


 ギルバートにもケルが心から賞賛している事が分かった。思わず頬が緩む。

 

 ケルと魔法回路で繋がって、思考や感情が筒抜けになってしまい、非常に不本意だったが、同時にギルバートもケルの感情を多少感じ取れるようになっていて、それゆえに今、嘘のない賞賛を感じていた。

 

 

 

 ギルバートは僅かだが、初めて自信を持つ感覚を味わっていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 エリザベスは、家の裏口から裏庭へ出る直前で、一歩も動けなくなった。

 

 エリザベスの家とギルの家は隣接しており、裕福な平民の家より断然小さかったので、裏庭もたいして広くない。

 

 そしてエリザベスの家の裏口から、ギルが座っている柵のそばの木箱までの距離も近く、内容は聞き取れないが、ギルが何か独り言を言っているのが聞こえ、つい出られなくなってしまったのだ。

 

 エリザベスが出て行くタイミングを計っている間も、ギルはブツブツと独り言を言い続け、更には不思議な手振りを見せる。

 

 そして、ギルの目の前で、木の葉や小石が妙な動きをし始めた。どう見てもギルが触れていないにもかかわらず、誰かが持ち上げたり投げ上げたりしているかのようだった。

 

 ついには、ギルの少し先にある大きな木箱が浮き上がってギルの目の前で浮いている。

 

 それは、どうやっているかは分からないけれど、どう見てもギルがやっている事だった。

 

 ……魔法だわ

 

 目の前の光景は、間違いなく魔法の仕業だった。

 

 ……ギル、あなた、いつの間に……?

 

 

 

 エリザベスは驚きのあまりその場で固まったまま、瞬きも忘れるほど瞠目していた。



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日曜なのであと2話更新します。これが1話目です。


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次回予定「巨木の森へ」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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