信頼。反撃へ
続いての2試合目はすぐに始まった。
多分ポイントの集計が簡単だからだろう。
9キル2位というかなりいいスタートを切れた俺たちの空気は少しだけ軽くなっていた。
「ていうかロコさんガチガチだったね。めちゃ緊張してたやん」
天外さんが自分の事は棚に上げて笑いをこぼす。
さっきまで自分も緊張していただろうと言いたくなる。
俺はというと現在進行形で緊張中なので俺にも効く言葉だ。
「コーチも緊張するもんなんだね」
「そりゃあしますよ」
「さすがコーチも選手もやった人」
と、舞希から。
ロコさんの気持ちは痛いほどに理解できる。
俺もV杯の時はあんな感じだったから。
「コーチって自分から直接試合に手を出せないからやるせない気持ちになるんですよね」
「あーそうなんだ。じゃあ今もミュートで『何でそんなオーダーするの!』とか言ってるのかな?」
「言ってるかもね~。でもスクリム中のコーチ面白かったよ」
「え、どんな感じだった?」
「ミュートですっごい叫んでるのにミュート外すとスンってなるの」
「がっはっはっはっは。後で見返して見よーっと」
天外さんが豪快に笑うとそれにつられて舞希も笑う。
ロコさんが今どんな反応をしているか気になるところだ。
切り抜き師よ、複数視点の切り抜きは頼んだぞ。
まあそれも大会が終わってからだ。
2試合目の第1安地は俺らの居る位置から少し南側。
かなり近いので移動に時間はかからない。
この安地ではかなり強いと言われているビルに入る。
「角待ちショットガンケアねー。まあいないと思うけど」
「おけーー」
いるとしたら最初からこのランドマークに降りているチームだ。
それでも2試合目からそんないやらしい作戦を立てるとは思えないが。
俺を先頭に屋上まで続く階段を駆ける。
足音と共になる銃声。
如何やら今回はかなり早くから戦闘がおこっているらしい。
「あ、死にました」
その銃声は俺の真正面から鳴っていた。
3つのショットガンの音。
さすがに本当にいるとは思わないんだ。
「ねえ!!!」
天外さんが呆れた声を出しながら2人とも階段を下りる。
これがFPSあるある1位の気を付けようフラグだ。
だって、ねえ?
この距離のショットガンにウィンチェスターで勝てる訳もないですしおすし。
と、俺は心の中でつらつらと言い訳を並べる。
結局、2人は何とか立て直そうとしたが人数不利を押し付けられ負けてしまった。
まあ相手にはプロもいたんだ、火力負けしても何の不思議もない。
ていうかこの相手レミアさんだったのか。
懐かしい名前だ。最近では全く話していないなあと、現実逃避する。
「えーっと、蓮さん?なんかいう事ありますか?」
「あー、そのー、大ッ変、申し訳ございませんでしたー」
見えていないとは思うが俺は画面の前で思いっきり頭を下げる。
それでもやるのは俺にしては珍しく誠意というものがあるからだ。
だってまあ今回のは明らかに俺が悪い訳で。
言ってしまえば戦犯。
「舞希、なんか言ってあげな」
「あ、それ私に来るんだ。……1回死んでみる?」
「えええええええええ、そんなストレートに……グハァ」
さすがに推しからこんなにも言われると。
し、心臓が、痛い……。
いやまて、罵倒プレイだと思えばなんとか。
「今、ニヤッとしたでしょ」
どうやら天外さんにはばれたみたいだ。
「ニヤッじゃなくてニチャァです」
そう軽口で返すと3人がくつくつと肩を揺らす。
まあ2試合目だ。切り替えていこう。
と、切り替えれたらどれだけいいことか。
そんなことができる人間ではないと俺が1番知っている。
あのショットガンを持った3人が飛び出してきた光景は明日にでも夢に出てきそうだ。
3、4試合目はともに安地の移動中に敵と戦闘になって負けてしまった。
ともに順位は低かったがキルは取れているので未だ、総合順位は5位をキープしている。
天外さんは自分のオーダーのミスと思っているようでかなりへこんでいる様子だ。
正直相手が相手なので仕方がないと俺は思う。
だってプロだぜ?それと同等のオーダーが出せるんだったらプロになってくれ。
「も~~~~~~~~!!!!ほんっとにごめん!!!!」
パンッと手を合わせる音と少し震えた声が重なる。
声のトーンは低く、半分自棄になっているように感じた。
だが俺も、舞希もロコさんもそれを責めたりしない。
これまでの努力を知っているから。
だから、後は俺がやるだけだ。
これまで通りやれば……勝てるのか?
やはりまだ不安が残る。
こんなにゲームをするのが怖いのは初めてだ。
「大丈夫だよ、蓮。だって私のオタクは最強だからね!!だから、信頼してるよ」
「オッケース、次の試合20キルしまぁーす」
「はは、急に調子出てきたやん、ほんま」
ロコさんが笑みをこぼす。
天外さんも、まあ立ち直したようだ。
それよりも、だ。
期待と信頼。こうも違うものなのか。
それと同時に浮き彫りになる。あの人は俺に微塵も信頼なんて寄せちゃいないことに。
って、そんなこと考えている場合じゃないな。
何となくだが今の1瞬だけ雪那としゃべっている気がした。
いやまあ中身なんだからそうなんだけど……。
なんかこう、雪那であって雪那ではないみたいな……はぁ、なんか考えているのも馬鹿らしくなってきたな。
俺は2度、両手で挟むように頬を叩く。
よし、次のマッチは俺らしくプレーしよう。
誰のプレーを真似するわけでもなく自分独自のプレイスタイルで。
そして勝つ。負けるのが1番嫌いなんだ、俺は。
「気合い入れてくぞ~」
その舞希の言葉が5試合目の、反撃の狼煙となった。




