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顔合わせ、一抹の不安

 目が覚めると自室のベットに頭だけをのせて寝ていた。

 床に落ちているスマホは何度画面を触っても電源が付かない。

 試しに充電器にさしてみると完全に充電が0%になっていたことが分かる。

 それはさておき配信のためにパソコンに電源をつける。

 大会の顔合わせは9時からだと舞希からメッセージが来ていたのでまだ時間はある。

 配信をつけてエイム練習でもしようかと思ったが大会用に用意された通話サーバーには既に舞希が入っていた。

 相変わらず早いなと思いながら俺も入る。


「おっつ~」


「お疲れ様でーす」


 舞希はすぐに俺が入ってきたことに気づく。

 そして天外さんが来ていないことに少し安堵する。

 正直何を話したらいいのか分からないのだ。


「何してました?」


「射撃訓練場でボットの死体の山を築き上げてたよ」


 まあつまりはエイム練習という事だ。

 この『rex』というゲーム、他のエイム練習ツールをやる意味がないと言われるほど射撃訓練場の機能が良いのだ。

 俺も射撃訓練場に入ってボットを撃つ。

 数日やっていないだけでとことん弾が当たらない。

 

「沖縄どうだった?」


「面白かったですよ。海とか水族館とか行きました」


「ザ、沖縄って感じだね」


「お土産買ってきたんで後で渡します」


「え!ほんと!?」


 買うときに陽斗には揶揄われるし由香里からは鋭い視線を向けられたりとかなり肩身が狭い思い出だ。

 リアルで会う機会はそうそうない気もするが。


「じゃあ今度どっか行く?」


「……ふぁ?」


「あっはっはっは。え、嫌なん?」

 

 笑っていたのから一変、急にマジトーンになる。

 まあ、ネタだ。……多分。


「ちゃいますやん、ちゃいますやん」


「そうだよね?」


 焦りでエセ関西弁が出てしまう。

 舞希とどこかに行くなんて至極嬉しいことなのだが心の準備というものが必要なのだ。

 今も心臓は踊り狂っていて胸のあたりをどんどんと叩いている。

 

「あ、今私配信中ね」


「……シニソ」


 自然と口から心の嘆きが漏れる。

 それよりも、だ。

 俺が、舞希が配信をしているのに気づかなかったのは理由があるのだ。

 そう、通知が来ていない。

 おかしいとは思わないだろうか。

 配信開始のツイートも配信が始まったのも、どちらも通知が来ていないのだ。

 何故だ……あ、そういえばスマホの充電切れてたわ。

 とんだ馬鹿者だ。

 スマホの代わりにパソコンで調べると本当に配信をしていた。


「大丈夫だった?」


「全然、大丈夫です」


 本当に心配になったのかそう聞いてくる。

 勿論心配なんていらない。

 ただ陽斗から小一時間揶揄われ1日由香里からチクチクとした視線を向けられるだけだ。

 そう、それだけ、それだけである……今にも泣きそうだ。


 手の震えからより一層、弾が当たらないことを経験していると残り1人のメンバーが入ってくる。


「遅れた?」


「いや、全然」


「まあ、どうせイチャイチャしてるからいいか」


 そういえばこの人が厄介オタクだったことを思い出す。

 めんどくささを覚えつつ俺と天外さんも配信を始める。


「えー、という事でね、大会の顔合わせです」


 配信の司会をするのは天外さん。

 そのトロトロとしたふわふわボイスは俺のリスナーを魅了していく。

 コメント欄では「かわいい」と多く流れ異様な光景が広がる。

 

 これからやるのはランクマッチ。

 正式なカスタムが始まるのはもう少し先だからだ。

 前、俺がコーチをしていた時と違うのはコーチではなく選手として出ることと、現状このチームにコーチがいないことだ。

 今日の配信はランクマッチをやることがメインではなく、そういうチームに関する話がメインになる。


「これIGLは蓮さんでいいんだよね?」


 マッチの待機画面で天外さんが聞いてくる。

 IGLとはインゲームリーダーの略。

 指揮官のようなものだ。

 簡単な例を挙げると俺とやってる時の陽斗のような人の事である。


「え、初動降りからの全敵とファイトすることになりますけどだいじょぶそですか?」


「よし、全員に喧嘩売って本配信冷え冷えしよう」


「あー、胃が痛くなってきた」


 ・ひえっひえ

 ・初の炎上

 ・ほんとにやりそうで怖いよ

 ・多分この人がIGLだととんとにやるぞ

 ・1人で20キルくらいしてる未来が見える

 ・みんな、消火の準備だ

 ・ガソリン持ってきた

 ・火に油

 

 ほんとにプロでスクリムとかをやっている人たちからすれば嫌われる立ち回りだろう。

 結局、なりふり構わず敵にファイトを仕掛けるのは博打なのだ、

 そんなことは常識なのでプロたちは慎重に慎重に立ち回る。

 そんな中、ランクが少し高いからって粋がってるガキに脳死で突っ込まれては嫌われるのも当然だ。


「天ちゃんがIGLできるよね?」


「あ……」


 流れが変わったのを感じる。


「そうっすよね。V杯の時IGLしてましたもんね」


「いやっ、その……」


「天ちゃんがIGLすれば蓮君は撃ち合いに集中できるんじゃないかなあ」


「いやー舞希、天才だなー」


「そうだろうとも、ジーニアス舞希と呼んでくれたまえよ」


「だsss」


「ん?何か言ったかい?」


 天外さんの口から心の声が漏れてしまったのを聞き逃さず詰め寄る。

 ジーニアスならIGLもしてほしいものだ。


「チ、チーム名って決めなくていいの?」


 天外さんは逃げるように違う話題を出す。


「あ、私が決めようか?」


「さっきのを聞いて任せられると思う?」


「え?うん」


「そうか、舞希ちゃん、船降りろ」


「何でよー」


 泣き真似をする舞希と辛辣な天外さん。

 トップ配信者同士の会話に口をはさむことができない。

 その代わりに見えた敵を全員倒している。

 勿論ウィンチェスターで。

 味方からも同じような銃声が聞こえる。


「まあ、チーム名はリスナーが考えたやつでいいんだけどさあ……その武器辞めない!!!?」


「え?」


 その武器というのは知っての通りウィンチェスターのとこだろう。

 

「何でよ!強いじゃん!」


「……どこが!!?その武器は強さとは対極に位置する武器だよ」


「でも頭1発だよ?」


「当たんないじゃん」


「……1マガジンに1発くらいは当たるし……」


 マガジンによっても変わるが1番レベルの高いマガジンだと12発になる。

 ……つまり命中率10%以下という訳だ。


「蓮さんからも言ってあげてー」


「ウィンチェスターは1番強いです」


「終わりだーこのチームー」


 ・天外さん残念この人はウィンチェスター中毒者です

 ・彼はウィンチェスターに脳を改造されました

 ・れんくんは異端なんです

 ・俺もウィンチェスターじゃないと興奮できない体になった

 ・お前が1番異端だよ

 ・きss

 ・ウィンチェスターハカミブキデス

 ・リスナーも洗脳済みです


 洗脳?リスナーは何を言ってるんだ。

 ウィンチェスターは神武器だよ。


 数日やってないせいで内部レートが下がったのかあまり敵が強いと感じない。

 やっているうちにエイムの調子も戻ってきてかなりいい感じである。

 だがそれでもこれからプロたちと戦うとなると不安が残る。

 立ち回りなど一朝一夕で身に着くものじゃない。

 結局俺が今のところプロたちと渡り合えてるのはエイムだけだ。

 それだけだと勝てないことくらい俺でもわかる。

 俺はそんな不安を抱えながら大会に臨むことになる。

 

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