推しの参加型
家に帰ってきた俺は疲れた体をソファーに投げる。
早めに食事や入浴を済ませてゲームをしたいのだが今の状態だと不可能だろう。
なぜこんなに疲れているかというと単に緊張していただけだ。
昼食中に突然決まった女子との買い物の約束。
誰かと出かける事すら経験が少ないのに女子と2人で買い物なんて無理だろう。
そんな思考を切り替えるために舞希さんの配信を見る。
昨日のアーカイブだ。
朝起きてからちょっとづつ見ていたがさすがに5時間もあるので見終われなかった。
ゲームをしている姿を見ていると俺もやりたくなってきたので起き上がろうとするが体が言うことを聞いてくれない。
そんな時舞希さんが配信の告知が流れてきた。
唯一舞希さんの通知だけ受け取る設定にしているのですぐに気づくことができる。
如何やら10時から『rex』の参加型をやるらしい。
レミアさんとcladem さんと話したことで他人との話し方がわかった気がしてきたので今回は参加してみることにする。
まあ、vcをするわけでもないので関係ないのだが何となく勇気が出てきたので参加する。
そうと決まれば10時に間に合うように行動しなければ。
いや8時に間に合うようにしよう。
まずはご飯を食べる。
冷蔵庫を開けて何かないか見てみるがあるのは朝の残りの肉じゃがだけ。
うーん、朝食べたからなあ。カップ麺でいいか。
ケトルに水道から水を入れる。
ケトルの電源を入れた後自分の部屋に隠しているカップ麺を持ってくる。
お湯が沸くのとカップ麺の3分の間朝の食器を洗っておく。
時間は有効に使わないとね。
勿論配信を見ながら。
お風呂にも入って――入浴はしていないシャワーだけだ――今自分の部屋の椅子に座っている。
時間は8時前。
間に合ってよかった。
何故配信開始時間が10時なのに8時に間に合うようにしたか。
それはエイム練習するためだ。
舞希さんに迷惑はかけられないので万全の状態で参加したい。
俺は『rex』を起動していつもの癖で配信をつける。
射撃訓練場でボットを撃っていると段々視聴者が増えてくるのがわかる。
いや別に同接は見ていない。
コメントの流れが速くなっているので多くの人が見に来てくれてたと思ったのだ。
因みに同接を見ていない理由は視聴者が減ったのを分からないようにするためだ。
昨日は100人見てくれていたのに今日はあんま見てくれないな、なんて思いたくないからね。
30分ほどボットを撃ってからランクマッチに戻る。
昨日めちゃくちゃポイントを盛ったのでまだ日本1位だった。
まあこれで1位じゃなかったらその人はチーターかなんかだろう。
エイム練習ならカジュアルでもよかったのだがランクの方が敵が強いのとついでにポイントも盛れるのでランクに行くことにする。
さすがに今日1戦目なのでまだエイムがよくないのはしょうがないだろう。
敵と多く戦いたいので車に乗って銃声のなる方へ行く。
3戦目ほどで昨日のエイムに戻ってくる。
いや昨日よりもいいかもしれない。
味方2人はもう倒されてしまったがムーブは変えず車で突っ込んでいく。
チャンピオン帯というか上位帯は基本的に減りが遅いのでめちゃくちゃ敵と戦える。
敵部隊を全滅させると漁夫が来てその漁夫を全滅させると漁夫が来てという無限ループになっていた。
気が付くと安地収縮が第3ランドながら1位を取ってしまった。
全部隊俺の方に来るなんてあるのか。
まあ、いっぱいキル取れれば何でもいいのだが。
リザルトを見ると59キルだった。
ん?59?
現実かこれ?
確か世界最多キルが54キルだったような気がするのだが。
・え?
・おおおおおお
・やりやがったこいつ
・世界最多キル?
・確かそう
・強すぎでは?
・数字がグロい
・ダイヤ帯も交じってるとはいえチャンピオン帯で取るか普通?
・わけわかんねー
コメント欄も大盛り上がりだ。
スクショ取ってツイートしておこう。
これだけエイムが良ければ舞希さんに迷惑かけることはないだろう。
世界最多キルか……めっちゃうれしいな。
そんな余韻に浸っていると時刻はもう10時。
「うわあああやべえ、まにあわねえ」
もう舞希さんの配信は始まっている。
サブモニターに舞希さんの配信を映す。
・え?
・何があったw
・舞希さんの配信始まったからじゃない?
・あー、参加型やるって告知してたな
・配信切らなくていいの?
・忘れてる説
・放送事故w
・[放送事故]オタク推しの参加型に行く
・切り抜きしようとしてる奴おるってw
俺は舞希さんがロビーのコードを発表するまで主人を待つ子犬のようにモニターの前で大人しく待っている。
コメント欄にコードが書かれたので速攻で入力して入る。
ロビーに入れるのは3人までなのでできるだけ早く入らないといけない。
よっしゃー!一番乗りー!
何とかロビーに入ることができた。
間髪を入れずもう1人ロビーに入ってきて満員になった。
参加型は1人1マッチだけという制限があるため俺はこのマッチで舞希さんに1位を届けなければならない。
『お願いしまーす』
「うわあああ」
まさかゲーム内vcで話すとは思わずびっくりしてしまう。
それにしてもイヤホン越しに聞く舞希さんの声は本当に癒される。
ついにマッチが始まった。
さっきまでは大丈夫だったのだが突然緊張してくる。
いつもより漁りが遅く操作がおぼつかない。
『lotusさんウィンチェスターライフルありましたよ』
ラッキー。
ウィンチェスターがあれば舞希さんをキャリーすることなんて簡た……ん?
何で俺がウィンチェスター使うって知ってるんだ?
クラデムさんは知ってくれていたが舞希さんは初心者なのであまり『rex』系の動画を見ないと思ったのだが……
あれ?もしかして俺推しから認知されてないか?