旅行
凛が計画した旅行で俺は今、飛行機の中から沖縄の景色を眺めていた。
凛の集めたメンバーのほとんどが体育祭の実行委員会だった人なので旅行を計画した理由は察せる。
そして俺は人生で初めて沖縄の地に足を付けた。
「ふわ~」
人の多い空港で陽斗が口を大きく開けて欠伸をする。
飛行機の中でも寝ていたのにまだ寝足りないのだろうか。
実は飛行機に乗る前、陽斗が遅刻してくるという事件があった。
ぎりぎり間に合ったがかなり榊原先輩に怒られていた。
徹夜でもしていたのだろうか。
「いや、ね?ちゃんと6時に起きれたんだよ。でも瞬きしたら7時だったんだよ」
などと犯人は供述しており……
まあ俺は間に合ってればいいと思っている人間なのでどうでもいいのだが。
凛の後を付いて行き宿泊するホテルに着く。
案内されたのは3人部屋の白を基調とした日当たりのいい部屋。
凛は他の人を案内するために隣の部屋に行く。
この部屋に泊まるのは俺と由香里と陽斗。
関りがない人だったら心が休まらなかったのでこのメンバーなのは助かる。
多分凛もそれは分かっているのでこのメンバーにしたのだろう。
「あ~疲れた。寝るわ」
陽斗は持ってきたスーツケースをベットの隣に乱雑に置き寝転がる。
窓側の端という1番良いベットを占領する。
そして由香里はそんな陽斗はどうでもいいという様に話し出す。
「会長が全部お金出すって言ってたけどほんとにいいのかな?」
不安そうな顔をする。
ここに来るまでの飛行機もこのホテルの費用も全て凛が払っている。
だが俺は凛の事情を知っているからこそ、そんな疑問は出てこなかった。
「凛のお父さんのホテルだぞ、ここ」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
実は凛、所謂お嬢様というやつなのだ。
まあ本人の前で言うとかなり不機嫌になるので口には出せないが。
学校の中でも知っている人はかなり少ない、というか殆どいない。
「でもそう言われると納得できるかも。なんか高貴というかさ、そういう雰囲気ない?」
「感じたことないかも」
「まじかあ」
俺からしたら凛ははしゃいでる子供か世話焼きの姉という印象しかない。
それはそうと今後の予定が気になるところだ。
「これから何かするの?」
「特に決まってないよ。この3日間好きに過ごしていいってさ」
本当に凛は俺の心が読めるのではないかと思うほどに都合のいい予定を立てる。
ホテルの部屋割りもそうだが仲良くない人とずっと一緒にいるのは拷問でしかない。
「起きて―」
まだ脳が覚醒していない俺の腹にドッと重い物が乗る。
聞きなじみのある、それでも最近は聞いていない声だ。
「私もやる―」
その声と共にさらに重みが増す。
こんなことをされたら嫌でも目が覚める。
「重い」
「は?なんか言った?」
「いえ、何も」
「ならよろしい」
目を開けると視界には瑠亥の顔が大きく映る。
その後ろには朱音が、どうやら海ちゃんも部屋に来ているようだ。
由香里と陽斗は既に起きていた。
「女子に重いなんて言ったらダメなんだよ」
「軽い軽い」
「え?まじで?なら俺も乗るー」
瑠亥に言った冗談を聞いて陽斗が昨日では考えられない笑顔になる。
俺は真ん中に寝ていたので陽斗は軽い助走をつけて俺の太ももに乗る。
「おえ」
そろそろ俺の体が悲鳴を上げ始める。
1番手前にいた瑠亥からどかそうとするがなかなか動かない。
体は動かせないので首だけを動かし由香里に助ける。
だが由香里は親指を立て声は出さず口を「どんまい」と動かす。
瑠亥たちと同じ部屋だったであろう海ちゃんはスマホで動画を取っている。
俺は助けを呼ぶことは諦めるしかなかった。
数分して満足したようで皆、降りてくれた。
最後の最後まで陽斗は粘ったが海ちゃんの声1つでどいてくれた。
男に馬乗りにされて喜ぶ趣味はないからさっさとどけ。
まあ妹の場合も複雑な気持ちになるのだが。
「ねえお兄ちゃん、海行かない?」
「ええ、海かあ」
瑠亥の提案に俺は渋る。
沖縄と言ったら海のイメージがある。
勿論興味はある。
ただこの朝から疲弊した体で行きたいかと言われたらNOだろう。
「よし、行くぞー」
俺の脇を掴んで無理やり立たせる陽斗。
軽々と持ち上げられてしまう。
少しめんどくさい気もするが沖縄まで来て引きこもるつもりもない。
何よりここだと配信もゲームもできない。
今回は四の五の言わずに皆に付いて行くことにする。




