夏休み
夏の暑さもピークになる頃、学校は夏休みに入り毎日夜遅くまでゲームができるようになっていた。
それに伴い配信時間も長くなり例年の如く生活習慣が乱れる。
正午、自分の部屋の南側にある窓から日光が侵入してくる。
どんどん部屋の温度は上がっていきその暑さに耐えられず目を覚ます。
下半身が汗でびしょびしょになっていて物凄く気持ち悪い。
2度寝なんて考えられないくらいの気持ち悪さに体を起こす。
最悪の目覚めをした俺は居間へ足を動かす。
まるでそのタイミングを見計らったようにインターホンが鳴る。
服をパタパタと動かし新しい空気を取り入れながらドアを開ける。
外は家の中よりも暑くさらに風も一切ないためさっさとドアを閉めたいというのが正直な感想だ。
「おはよー」
もう昼なのに俺が寝起きなのを知っているようで朝の挨拶をしてくる。
そんなことを言うのは隣に住む由香里。
夏休みに入り俺の家は陽斗や由香里等の溜まり場となっていた。
さすがの俺も数日間ずっとこの感じだと慣れる。
由香里が居間に行ったのを確認してから自分の部屋に戻る。
1人だったら気にしないのだが由香里が来ているので服を着替える。
この季節に適した風通しの良い服をクローゼットの中からとる。
朱音と由香里と買った、まあ買わされたという方が正しいのだろうが服が活躍する。
去年まではずっとパジャマで熱かったら脱げばいいだろうのスタンスだったのでこう見ると大分変ったのだろう。
充電が100%になったスマホとイヤホンをもって由香里から少し距離を開けて座る。
まあこのソファーでかいからね。別に気まずいとかではない。
昨日から発売された舞希のボイスをイヤホンで聞く。
最近はよくゲームをしたり配信外でも話したりしているので感覚がおかしくなっていたが推しとして見る舞希もいい。
「何聞いてるの?」
少し開けていた距離を肌が触れるほどぐっと詰めてくる。
「舞希のボイス」
詰めてきた距離分、いやそれよりも広く間隔を開けるように移動する。
「何されてるの?」
また開けた間隔を潰すように詰めてくる。
興味津々なようで顔を近づける。
「今は……膝枕されて耳かきされてる」
もうソファーの端に来てしまいこれ以上距離を取れないので、できるだけ体をのけぞらせる。
それでも顔を近づけてくるので一向に距離が広がらない。
「それさあ現実でもやられたらリアル感増すんじゃね?」
ごく当然の事を言う。
そして由香里は俺が四の五の言う前に俺を横にして聞いているボイスと同じ体勢にさせる。
目視で俺もどこにあるのか分からない耳かきを見つけようとする。
「耳かきもするんだったらイヤホンとることにならん?」
そうなると単純に膝枕されながら耳かきされている人になる。
1番大事なボイスを聞きながらという部分が無くなる。
由香里も気づいたのか確かにと頷く。
ボイスを聞き終わりイヤホンを耳からとる。
途中から膝枕と全然関係ない内容になったがなかなか言い出せず、ずっと膝枕で聞いていた。
「終わったの?」
俺は体を起こして何度か頷く。
広いソファーの端に2人で座るという何とも異様な光景になっていた。
「暇じゃなかったの?」
俺がボイスを聞いている間スマホを触っている様子もなかった。
目をつぶっていたので詳しくは分からないがずっと俺の頭をなでているように感じた。
「うん。蓮の顔見てたから」
「だとしたら暇だろ」
俺の顔を見て暇つぶしになるのか疑問に思う。
由香里は暑くないのか近づくために座り直してから聞く。
「どうだった?」
「最k……」
そう言いかけて何とか言い留める。
どうだったとはどちらの事を言っているのだろうか。
ボイスか、それとも膝枕か。
考えた結果どちらも最高だったことに気づく。
「最高だった」
「おお、それは良かった。軟らかかったでしょー」
ショートパンツから見える日に当たることが少ないであろう白い肌を軽くたたく。
ついついそこに視線が吸い寄せられる。
改めて見て俺はこれに寝ていたのかと今になって鼓動が早くなる。
「そういえば会長が仲いい人集めて旅行しようって言ってたけど蓮どうする?」
どうしてか、また膝枕された状態で由香里が聞いてくる。
あの太ももに頭をのせて思考を巡らせる。
これまで凛が直接俺に言えるタイミングはいくらでもあっただろう。
それなのに由香里から言うという事は強要したくないからだろう。
凛から言われたら断れないだろう。そんなこと想像力を働かせなくても情景が目に浮かんでくる。
かといって由香里から言われて断れるかと言われると違うわけで。
「俺と仲いい人も行く?」
仲いい人と遠回しに言ったがこの場合は陽斗しかいない。
由香里もすぐに誰のことを言っているのか理解する。
「うん。来るって言ってた。後、海ちゃんと瑠亥ちゃんも」
まさか俺の妹も来るとは思わなかった。
どういう経緯か気になったが多分仲のいい海ちゃんか朱音あたりからだろう。
「なら俺も行こうかな」
陽斗達が行くから俺も行くという様に聞こえるが実際はこの話が出た時点で行くことは決まっていた。
誰の口から告げられようと結局のところ元は凛なのだ。断るわけがない。
「ふふ、やっぱ会長の誘いは断らないんだね」
まるで考えていたことが口から出ていたかと疑いたくなるほど正確に心を読む。
そんな驚愕する俺をよそに由香里はスマホを取り、凛に俺も行くことを伝える。




